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第二十七章

904 生きられない者

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( レナ )


ーーーーくだらな~い。


” 貴族 ” として~とふんぞり返っていた両親を思い出し、思わず眉を潜めた。

” 生まれ ” に胡座をかき努力せず。

実力もないまま権力という ” 力 ” を振り回す姿は、考え持たぬ子猿に最強の殺戮武器を持たせるようなモノだ。

おバカさんが創り出すこの国の現状に、ふつふつと怒りが湧いているとーーーー


「 随分と顔に出やすいおなごだ。

とても元貴族とは思えんな。 」


自分よりだいぶ下の方でそんな誰かの声がした。

驚いて視線を下に向けると、そこにはピンクの髪を三つ編みに束ねた可愛らしい10歳前後?の女の子がいて、その子は私を見上げ、フッ・・と子供らしくない笑みを見せる。


これが私とフラン様の出会い。


フラン様は貴族の籍を売払い、親を容赦なく借金奴隷にした私に興味をもったらしく、その日は直々に会いに来たのだという話であった。

それを聞きながら「 ふ~ん。 」と興味なさげに返事を返すと、フラン様は視線をライトノア学院の生徒たちへと戻す。


「 今、目の前に広がる光景が国の現状だ。

しかし、恐らくこのままでいればこの光景は更に進化していく事だろう。

想像できるか? 」


「 ・・まぁ、大体は。 」


次期王に最も近いと言われているエドワード様。

彼の極端な思想を聞けば、彼が王になった国など容易に想像する事ができる。


ーーーあ~やっぱりくだらな~い!


暗い未来しか描けず、はぁ・・とため息をつくと、フラン様はククッとやはり外見に似合わぬ顔で笑う。


「 私はそれが気に入らんのだよ。

だから抗う事に決めた。

どうも空虚な人生は私には合わなくてな。

戦い、抗い続けるーーーそれがもはや私の夢であり目標になっているかもしれぬ。

まぁ、どうせ限りある命なのだから、自身の正義に命を燃やす方がただ腐っていくのを見ているよりも遥かに合理的な使い方だろう。 」


空虚な人生・・まさに今の私の人生だ。

そう思い浮かぶと、何となくフラン様を見ていられなくて、私はフッ・・と視線を逸らす。


新たな目標や夢もなく、かといって兄の様に幸せな思い出に浸り生きていく事もできない。

だから心は常に空っぽで、虚しさと焦りだけが心にある。


そのまま押し黙ってしまった私を気にせず、そのままフラン様は話を続けた。


「 人には ” 思い出の中で生きられる者 ” と ” 生きられない者 ” がいる。

それはどちらかが悪いという事ではなく、人の持つ気質によるモノだろうな。

前者は幸せだった過去を振り返る事で、己の存在に価値を見出す事ができる。

それだけでその者の人生は幸せであると言えよう。


しかし、後者はそれができぬ。

幸せだった思い出は後ろへ。

先の未来にしか目が向かないため、常に己の存在価値を探さねば幸せを感じる事はできず、ただ空っぽのままの人生を歩む羽目になるだろう。 」


フラン様の言葉は私の中に驚く程入ってきて、 ” あぁ、その通りだな ” と思ってしまった。


幸せだった頃の思い出を抱いて暮らす兄。

兄にとって、その思い出こそが己の存在価値で、人生を満たし幸せにしてくれるモノになっている。

私にも当然幸せな思い出はある。

兄との思い出、学友との思い出、そして両親に復讐した時の思い出。


その全てに幸せの感情があるのに、それは私にとって遥か後ろにある過去の記憶だ。

少なくとも今現在の私に存在価値を与えるモノではない。


「 ・・そうかもしれませんね。

でも・・後者はとても辛い人生じゃないですか?

常に進み続けなければ空っぽになってしまう人生なんて。 」


一生戦いの場に身を置かねばならない人生に憐憫を感じて言うと、フラン様はハハハッ!!と大声で笑った。


「 そう思うか?

確かにそう思う者もいるだろうが、私は夢に向かって戦っている時こそ ” 楽しい ” と感じるぞ。

悩み、苦しみ、それは人生の最高のスパイスだ。

己の全てを最大限に使い、ヘトヘトになるまで走り続け、そして夢が叶った瞬間はーーーー例えようのない快感と達成感、最高の自己肯定感、幸せを得ることができる。

それを何度も味わえるなど最高の人生ではないか?

それこそがこのフランの選んだ生き方。


ーーーそれはお前も同じではないのか? 」


チラッと視線を向けられ、思わずフラン様の方へ視線を移してしまった私と目と目が合った。


両親を消し去ろうという夢を描き、それを叶えるために努力した日々。

思えばその時が一番 ” 生きている ” と感じていた。

私が最も輝いていた時期・・

己の正義に身を委ね、ただそれに向かって全力を持って限界に挑む。


それこそが私の人生に必要なモノだったのか!


キラキラと輝きだした私の目に気づいたフラン様は、ニヤッと不敵に笑い「 別名戦闘狂とも言うな。 」 と付け足し、次にスッ・・とライトノア学院の生徒達を指さした。


「 大人の意識を変えるのは非常に難しい事だ。

ましてや現在のこの国が居心地が良いと思う輩は、その居場所を守るためありとあらゆる手を使い ” 変化 ” を潰そうとするだろう。

だからこそそうなる前に広い視野と柔軟な考えを持つ子たちを育てる。

敵が多い中、それを達成する事は・・・いわゆる ” 戦闘狂 ” でないと務まらないだろうな。

ちなみに我が同胞達は全員かなりの戦闘狂だぞ。

答えはーーーー聞くまでもないか。 」


ワクワク!

ドキドキ!!


弾む心臓に、動きだしたい!と訴え震える身体。

大きく輝き出した目でニヤッと笑うフラン様を見ながら、私は頷き、フラン様の差し出される手を取ったのだった。

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