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第二十七章

903 国の日常

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( レナ )

その後、私は真っ先に平民落ちしてしまった兄の元へと向かう。

兄は他の平民落ちした貴族達と違い自害などを選ぶことなく、私と離れていた三年間、逞しく平民として生きていた。

兄は笑顔で手を振る私を見て、直ぐに駆け寄る。

” 元気にしていたか? ” 

” 辛い目に合っていなかったか? ” 

矢継ぎ早に質問されたので、その全てに ” 平和な日常 ” だったと答えると、兄は良かったと泣いた。


そんな兄を見てまた一つ思い出が追加され、私の心には幸せが創られる。

 そしてーーーー

” メイキルド家は売り、自分も平民になったこと ” 

” 両親は自分たちのした借金の義務と責任を果たすため借金奴隷になった事 ” 

私が ” 家族 ” の結末を説明すると、兄は多少悲しそうな顔をしたが、最後は情けなく眉をへにょりと下げた。

「 レナが無事で・・本当に良かったっ・・ 」

そう言って兄はまた泣いた。


「 今度こそ素敵な人と幸せになってね。 」


泣く兄を静かに見守りながら、大好きな唯一の家族に幸せになってほしくてそう言ったのだが・・兄はぶんぶんと顔を横に振る。

キョトンとしてしまった私に兄はハッキリと告げた。


「 僕にはあーちゃんだけ。この先もずっと。 」


私はそれを聞いて迷った。

あーちゃんの正体を兄に教える事を・・


兄が夢中だった ” あーちゃん ” について、能力が覚醒後、直ぐに気になって調べてみたのだが・・

随分と隠れるのが得意な人らしく、どこに行ったのか?またどんな人物だったのか?その全ては謎のまま終わってしまった。


しかしーーー街の方ではかなりの悪評が付きまとう人物であった様で・・

” あいつは詐欺師だ!!アイツのせいで全財産を失っちまった!! ”

” くそ~!!アイツは悪魔だ。男を取っ替え引っ替えしては、捨てて楽しんでいたぞ ”

” 性格の悪い女だったわ!ちょっと可愛いからって私の事をブスだの何だのと罵って笑ったのよ!! ”


・・などなど、挙げたらキリがないほど。


兄が傷つくだろうと思って今まで言わずにいたが、教えてあげた方が兄は先に進めるだろうか・・?

う~ん・・・と悩みだした私を見て、兄は困った様に笑う。


「 知ってるよ。 」


突然の言葉に私が、えっ??と不思議そうな顔をすると、兄は「 レナは意外と顔に出やすいから。 」と言って穏やかな笑みを浮かべた。


「 心配してくれてありがとう。

でも知っているから。

あーちゃんと出会って直ぐに沢山の人に言われたんだ。

中には証拠まで持ってきた人もいたから・・ 」


何と言っていいのか分からず黙っていると、兄はそのまま話を続ける。


「 でも僕はそれでもいいんだ。

だってあーちゃんといる時が僕は一番幸せだったから。

この時の思い出で僕の人生は満たされてしまったんだよ。

だからこの先の人生も全部あーちゃんのモノだ。


あーちゃんが ” 素敵だね ” って言ってくれたキノコ畑を作って、その思い出と一緒に静かに生きていきたい。

それが僕の夢なんだ。 」


そう言って晴れやかに笑う兄に・・私はやはり何も言えなかった。


兄は幸せな思い出の中で生きる事を決め、もう前に進み始めている。


ーーーーーでは、私は?

両親に復讐してそれから??



その時の私には、答えがでなかった。



その後兄はキノコに最適な土壌だからと、グリモアへ居を構える事にした様で、特にやりたい事も希望もなかった私は、後を追うようにグリモアへ。

そこで様々な変わった薬などを作っては売り、生計を立てていた。


何不自由ない生活

今までの様に怒りや憎しみに支配されない生活・・・


それって幸せな生活なはずなのに、なぜか心は空っぽで・・

空虚な生活をただダラダラと続ける。


そしてある日、そんな ” 空っぽ ” を抱えて街を歩いていた時に、私は不意にピタリと止まって空を見上げた。


一片の曇りもないスッキリとした青空。

                 ・・・
それを目にした瞬間に思い出すのは、あの時の記憶

血が沸騰するような、喜び!興奮!快感!!そして開放感と達成感!!


ゾクゾクとした感覚に小さく身体は震える。



私の求めているモノはーーーーーー・・・?



何かがわかりかけた、その時、突然街の人たちがヒソヒソと話し出す声が聞こえ、意識はそちらへ移った。

どうやらあまり良いことではなさそうな話の様だ。

少し気になって、街の人たちの視線の先にあるモノに視線を向けると、あぁ・・と納得したため、うんうんと小さく頷く。


ライトノア学院の生徒数人が歩いている姿。


それだけならなんら変わったモノではないが、最後尾を歩く生徒だけ沢山の荷物を抱えている姿は、思わず顔を顰めてしまうモノであった。


ザッと歩く数人の生徒たちを全員観察すると、多分一番前を歩いている生徒が一番身分の高い貴族。

そしてその後をピッタリ一定の間隔を開けて歩いているのが所謂取り巻きと呼ばれる爵位が劣る生徒達。

そして最後尾を歩く生徒が平民ーーーと言った所か・・


この合理性に欠ける行動は、何もここでのみ見られるモノではなく、貴族が住んでいる街なら極一般的に見られる姿だ。


これが国の日常。

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