上 下
914 / 1,315
第二十七章

899 現れたモノ

しおりを挟む
( レナ )

兄が高学院の卒業後、両親は待ってましたとばかりに兄に婚約者とやらを連れてくる。

彼女はまだ12歳になったばかりの、鑑定の日に化術に限りなく近い資質を言い渡された男爵家の娘であり、どうやら両親に無理やり連れてこられたようであった。

まだ子供ながらに脅迫に近い形で連れてこられた女の子は今にも泣きそうで青ざめていて、そんな女の子を見て初めて兄が両親に対し怒鳴った。


” こんなに小さい子になんてことをしようとしているんだ!! ”

” こんな事をするなんて最低だぞっ!! ”


そんな兄の怒りなど気にも止めず、父は兄をその場で殴り飛ばし ” 女の子の両親と話はついている事 ” ” 爵位が低い男爵家から格上の我が家に嫁げるのだから感謝すべきである事 ” を両親総出で言い放ち、最後にこういった。


” 外れ息子といえども血筋はメイキルド家のもの。

沢山子供を生ませれば一人くらいは当たりが生まれるだろう。 ”


この時点で、湯水の如く散財していた両親には後がなかった。

そのため金を稼いでくる ” 当たり ” の子供がどうしても必要だったのだ。

兄は知力は高くとも外れ資質、私は発達が遅く恐らくは外れ娘。


つまり次世代に賭けるしか無いと両親は思っての、無茶苦茶な計画であった。


両親は金にしがみつくモンスター。

しかしその金は自分で努力して手に入れるモノではなく、他者が自分のために努力し運んでくるモノであると本気で思っている。


そしてその ” 他者 ” に私や兄は入っていた。


この時点で、まだ準成人を迎えていない私の婚約者の用意も既に始めていたらしい両親。

娘に親子ほど離れた男性を何人も用意していた両親には、多分何を言っても無駄だったと思う。


きっと兄は、この時全てを悟ったのだ。  


” きっとこの人達に何を言っても無駄 ”

” これを無理に断っても、この女の子とその両親が酷い目に合う ”

” 自分が言う事を聞かないと、その後レナにもそのしわ寄せがいくだろう ”


そのため兄はその話を受ける振りをして、女の子をどうにかできるまで匿う事にした。


そうして何の解決方法もないままイタズラに時は過ぎていく。


女の子はまだ準成人であるため、いかに婚約者だとはいえ子供を作る行為自体アウト。

勿論、それを強制したとすれば罪に問われるため、流石の両親も当分は女の子を家に置くだけで、この家のしきたりという教育を行う予定だった。

” それは僕が教えるよ。
          ・・・
だって母さんは色々と忙しいだろう? ”


ーーー遊びに。

        ・・・・
お母さんはとても忙しい人だったため、その言葉を幸いとばかりに受けとめ、全てを兄に任せそのまま父と二人、忙しく遊び続ける。

そしてその間、兄はなんとかしようとあちらこちらと動き回っていたがどれも上手くいかずに、随分と憔悴している様子を見せていた。

女の子には婚約者との部屋だと与えられた自室を与え、自身はキノコの研究室に寝泊まりしていたのだが、耳が早い貴族達にはどんどんとその噂話は広がっていく。


” メイキルド家の長男は婚約者に随分とご執着で一時も離れたがらないそうだ ”


その話は貴族達を飛び越え、街の方にも伝わっていった。


そんなある日、兄がキノコ畑の方へ閉じこもり出てこなくなったため、心配になった私はもしもの時用に預かっていた鍵を使って、中へと入る。

そして兄の姿を目にした私はギョッ!とした。


ぼんやりとキノコ畑の前に座る兄。

その目からはハラハラと次から次へと涙が零れ落ちていた。


” に・・兄さん・・ ”


恐る恐る話しかけると、兄は私へゆっくりと視線を向け目が合うと、そのままボロボロと更に大量の涙が目から零れ落ちていった。

わーーんわーーん!!

ひっきりなしに聞こえる大絶叫に近い鳴き声に固まっていると、嗚咽混じりの断片的な言葉を拾い、私はその原因を全て理解する。


” あーちゃんが消えてしまった ”

” 僕のせいだ ”

” 僕が無能でどうしようもない男だったから ”


地面に土下座する様に丸まり泣き喚く兄の姿はとても悲しかった。


恐らく今回の婚約騒動を聞いて誤解してしまったのだろう。


” 直ぐに追いかけて誤解を解こうよ。私も行く。 ”


そう提案したが、兄は首をぶんぶんと横に振る。


” あの両親の子である限り一生搾取され続ける。

あーちゃんに迷惑が掛かっちゃうから ”


” あーちゃんは平民だから法律上結婚できない。

大好きな人に僕はずっと我慢してもらわないといけない。

自分の気持ちだけ優先してたってやっと気づいた。

こんなの両親と一緒だ。 ”


兄は止まる気配のない涙をゴシゴシと拭きながら、涙を堪える様に無理やり笑みを作って最後に言った。


” だから幸せを沢山くれたあーちゃんには僕以外の人と幸せになってもらいたい。

あーちゃんが何処かで幸せに生きてくれれば、僕はそれでいい ”



この国の法律では、貴族と平民は結婚する事はできず ” 愛人 ” 関係しか最終的には辿り着けない。

ならば貴族の籍を捨てれば良いが、あの両親は存在する限り何処までも追いかけてくるだろう。


自分達の今の暮らしを維持できる・・いや、それ以上の環境を手に入れるために。


兄はそう言ったきりまたわんわんと泣き、その様を黙ってみていた私の心にポツッ・・と突然現れたのはーーーー



” 憎悪 ”

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女召喚!……って俺、男〜しかも兵士なんだけど?

バナナ男さん
BL
主人公の現在暮らす世界は化け物に蹂躙された地獄の様な世界であった。 嘘か誠かむかしむかしのお話、世界中を黒い雲が覆い赤い雨が降って生物を化け物に変えたのだとか。 そんな世界で兵士として暮らす大樹は突然見知らぬ場所に召喚され「 世界を救って下さい、聖女様 」と言われるが、俺男〜しかも兵士なんだけど?? 異世界の王子様( 最初結構なクズ、後に溺愛、執着 )✕ 強化された平凡兵士( ノンケ、チート ) 途中少々無理やり的な表現ありなので注意して下さいませm(。≧Д≦。)m 名前はどうか気にしないで下さい・・

勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話

バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん< 山野 石郎 >改め【 イシ 】 世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中・・俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない< 覗く >という能力だけ。 これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。 無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。 不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜

7ズ
BL
 異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。  攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。  そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。  しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。  彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。  どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。  ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。  異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。  果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──? ーーーーーーーーーーーー 狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛  

【 完結 】お嫁取りに行ったのにキラキラ幼馴染にお嫁に取られちゃった俺のお話

バナナ男さん
BL
剣や魔法、モンスターが存在する《 女神様の箱庭 》と呼ばれる世界の中、主人公の< チリル >は、最弱と呼べる男だった。  そんな力なき者には厳しいこの世界では【 嫁取り 】という儀式がある。 そこで男たちはお嫁さんを貰う事ができるのだが……その儀式は非常に過酷なモノ。死人だって出ることもある。 しかし、どうしてもお嫁が欲しいチリルは参加を決めるが、同時にキラキラ幼馴染も参加して……?    完全無欠の美形幼馴染 ✕ 最弱主人公   世界観が独特で、男性にかなり厳しい世界、一夫多妻、卵で人類が産まれるなどなどのぶっ飛び設定がありますのでご注意してくださいm(__)m

奴隷商人は紛れ込んだ皇太子に溺愛される。

拍羅
BL
転生したら奴隷商人?!いや、いやそんなことしたらダメでしょ 親の跡を継いで奴隷商人にはなったけど、両親のような残虐な行いはしません!俺は皆んなが行きたい家族の元へと送り出します。 え、新しく来た彼が全く理想の家族像を教えてくれないんだけど…。ちょっと、待ってその貴族の格好した人たち誰でしょうか ※独自の世界線

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

処理中です...