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第二十六章

893 ワスレナ草

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( リリア )


リーフ様は、挨拶を返すとチョイチョイと手招きしてくる。

なんだろう?と近づけば、リーフ様が読んでいたのは花の図鑑であった事に気づき、ますます珍しいなと思った。


「 お花の図鑑ですか・・。

何か育ててみるつもりなんですか? 」


「 ううん。違う違う。

これね、週末に実家に帰る時に皆に贈ろうと思ってさ。

どれがいいかな? 」


詳しく話を聞くと、リーフ様は実家に住む従者達に花をプレゼントしたいと思ったらしく、どの花にしようか迷っていたそうだ。


執事の男性にはシャンっ!とした花

守衛の女性には強そうな花

侍女にはあっと驚く様な奇抜な花

料理人には美味しそうな花

庭師にはこっちにしかない花


それを贈りたいと語るリーフ様を見て、 ” あぁ、何だかいいな・・ ” とじんわりとする温かさを感じながらそう思った。


輝くような宝石や流行に乗った煌びやかなドレスやアクセサリー

ただ綺麗だからと贈られる見た目が派手な花束


そんな金に物を言わせた様な贈り物より比べ物にならないくらい嬉しい贈り物。

相手の事を考え自分の想いを乗せた、心に贈る贈り物だ。


素敵だなと思いながらリーフ様の隣・・レオンとは反対側の席に座ると、レオンからはムッ!とした雰囲気が伝わってきたが、一応黙認してくれたみたいなので一緒に花の図鑑を見始めた。


「 これ綺麗だなーーあっ、でも花言葉は ” 恐怖 ” か・・ 」

「 んん~・・?こっちの小さいのはーーー ” 不幸 ” か・・ダメダメ。 」

 
リーフ様はページを捲りながらブツブツと呟き、真剣に花を選ぼうと本を読み進めていく。


穏やかで優しい時間

・・
ここにいると、世の中はなんて幸せに満ちた世界なのだろうと錯覚しそうになる。


純粋に人を想う気持ち、嘘偽りがないまっすぐな心、ブレることのない人間性。

いい意味で相手に何かを期待せず、求めない視線は相手を自然体にしてくれて、安心して自分を作り上げていく事ができる。


私はリーフ様を挟んで、一生懸命リーフ様にくっついているレオンをチラッと見た。


レオンは恐らく国を・・いや、もしかしたら世界を壊すほどの恐ろしい力を持った正真正銘の化け物だと私は思っている。

どんなに知力が高くとも、身分が高くとも、レオンの前では無力と化すだろう。

そしてそんな出鱈目な強さを持ちながら、その中身は空っぽ。

その ” 人の個 ” を示す感情がない事が、一番相手に恐怖を与えるのだと思う。


そんなレオンにとってリーフ様は、様々なモノを手に入れるために必要な存在で、いわばこの世界を覗く窓の様な存在なのではないか?と私は考えている。


” リーフ様 ” という窓から見た世界は優しい幸せの場所だから、レオンは酷くリーフ様に執着し、今も必死にその居場所を守ろうと私に警戒の目を向けてくる。


ジッ・・と警戒しながら私を見つめてくるレオンに、私はフフッと笑ってしまった。


きっとこのドロドロしたレオンの感情も一つの ” 愛 ” の形。

その ” 愛 ” の結末が一体どんなモノか、それが少し気にはなってはいるが・・

手を出した所で複雑化してしまうのは目に見えて分かっていたので、私は傍観者に徹するしかない。


せめてその ” 愛 ” の結末が破滅ではありませんように

そう願いながら、リーフ様がめくったページを見つめると、そこには可愛らしい青紫の花が描かれていた。

《 ワスレナ草 》

花言葉は『 真実の愛 』


それをチラッと見たリーフ様は次のページを捲ろうと手を動かそうとしたがーーーーー

私はその手を握って行動を止める。


突然動きを止められてしまったため、不思議そうな顔をするリーフ様を見つめながら、私は・・・



ニコッ・・・と笑った。



「 《 ワスレナ草 》って凄く可愛い花ですよね。

花言葉は『 真実の愛 』

そのため貴族間ではプロポーズの際、バラが主流ですが平民の間ではこの《 ワスレナ草 》も大人気なんですよ。

ーーーでも、なんだか『 真実の愛 』なんて凄く重い言葉ですよね。


リーフ様はその『 真実の愛 』ってどういうモノだと思いますか? 」


ちょっとだけ気になったのだ。

人に何も求めず、沢山の ” 愛 ” に囲まれても何も変わらない人の考える ” 愛 ” というものがどんなモノなのか。


世に溢れる様々な形の ” 愛 ”

きっと私にはそれのどれが正解なのか、一生分からない。


だって今まで私に数多くぶつけられてきた ” 愛 ” には、怒りと憎しみしか湧かないから。


それが素晴らしく尊いものだというなら、私が納得する答えを頂戴?

” 愛 ” は損しかしないモノでしょ?


そんなモノを持っていて、私に何の得があるの??



ねぇ、私はそんなモノを誰かに抱いて、一緒に人生を歩んでいかないと駄目なの?



その時私の心は怒りと憎しみの感情で溢れていて、自分に向けられる ” 愛 ” も母を捨てた ” 愛 ” も兄を苦しめる ” 愛 ” も全て踏みつけてズタズタにしてやりたいと強く思った。


その ” 愛 ” はお互いに抱きしめ合い、一緒に大きくしていかないと駄目

一緒に抱き、一緒に育て、一緒に大きくしていき、一生一緒に一緒に一緒にーーーー・・・


気がつけば私は大きくなった ” 愛 ” を一人で持たされていて、一緒に育てていたはずの相手は、フラフラと何処かへ行っては楽しそうに笑っている。


苦しい、辛い、重い・・・


やっと戻ってきて一緒に持ってくれても、目線はキョロキョロと周りを見渡し、いつまた手を離されるか分からない、その繰り返し。


それが一生続く。



ーーーー冗談じゃない!

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