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第二十六章

892 複雑な気持ち

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( リリア )


一瞬で血の気が引き、体は震える。

そして勿論それは兄も他の周囲の生徒達も同様であった様で、場はパニックに。


「 ・・最低ね。 」


リーフ様に対し心底軽蔑し、思わずそんな言葉が出てしまった。


混乱して試験どころではないほど慌てふためく周囲を見て、” あぁ、これを見るのが目的だったのね ” とその心の内を察する。

” もしかして悪い人ではないかも ” 

そう思っていた分、余計に落胆は大きく、頭の中にはダダンを始め数々の不快な男たちの映像が浮かび上がった。


リーフ様も今まで出会ってきた傍若無人な男と同じ。

ただの暴君であったいう事か。


こみ上げる怒りの感情がスキル< 精神再生 >によって一瞬で消え去ると、後に残るのは ” 無感情 ” だ。


どうでもいい存在はどうでもいい扱いでいい。

頭の中に入れておく価値はないだろう。


一瞬でそう判断した私は、リーフ様から視線を逸らそうとしたのだが、どうにも様子が可笑しい事に気づき、一旦動きを止める。


” 怖くないよ! ”

” 見て見て~! ”


そう訴える声が聞こえてくる様な態度と ” 目 ”

誰もが怖がる呪いの化け物に対して、リーフ様は、やはり ” 普通 ” だった。


ねぇ、ソレ、呪いの化け物でしょ?

何故、そんなに ” 普通 ” なの?


どうやら皆をパニックにすることが目的ではないと気づくと、沢山の疑問が浮かび、それが不思議で首を大きく傾ける。


更にペタペタと触り、呪いの化け物におぶさる姿を見てヒヤッと背筋を凍らせると、更に心の中の不思議は大きくなっていった。


そんなモノを大事にしてどうなるの?

自分に得なんてないじゃない

たかが奴隷、しかも呪い付き。人ですらないモノに心を掛けてどうするの?


自分の役に立つモノじゃないと側に置く価値なんてないのに



正論であるはずの疑問達がツラツラと頭の中に浮かんでくると、突然、フッ・・と気づいた。


・・
コレは私を苦しめる ” 愛 ” をぶつけてくる男達と同じモノだーーーと。



自分に得だから正妻になるべき

役に立つから隣に置く。

立たないなら置く価値はないし、そんなモノに心を掛けてどうする?



そう高らかに叫ぶ男たちの後ろで ” その通り! ” ” それが正しい! ” 

そう叫ぶ自分が見えた気がした。



それが酷く衝撃的で、ショックで・・

ずるくて自分を否定したくなかった私は、自分を苦しめてきたその考えが当たり前のモノだと証明したくて、リーフ様を自分の ” 普通 ” に当てようとする。


役に立つから置いているんでしょ?

何か打算的な事を考えているでしょ?

だってそれが ” 普通 ” なんだから、私は間違ってない


しかしーーー・・


その考えは全て否定されてしまい、それと同時に自分と自分を傷つける ” 愛 ” も全て否定された様な気がした。


それを受けて、また私は不思議な気持ちを抱く

自分を否定されて悲しいのに嬉しい。


自分と共に奈落に落とされた男たちを見て、歓喜に近い気持ちになった。


そして次に湧いたのは、ちょっとした好奇心

” リーフ様の持っている ” 愛 ” ってどんなモノなんだろう? ”



この時点で、私は欲を持たない ” 目 ” を持つリーフ様に興味が湧いたのだと思う。



そうしてライトノア学院の試験に合格した私と兄は、リーフ様との再会を果たし、当然の如く兄はリーフ様に対し、目に入ればちょっかいを掛けに行くようになった。

そして嘘の様なスピードで変わっていく兄を間近で見ながら、

” 不思議 ”

” 何故? ”

” 嬉しい ”

ーーと様々な感情が浮かび上がる。


多分その中で一番大きな感情を占めていたのは ” 嬉しい ” で、何故かというと、兄は意地っ張りでわかりにくいが、本当は ” 人 ” が大好きなのを知っていたからだ。


寂しがり屋で甘えん坊で・・でも選んで貰えないのを知っているから怖くて人に近づけず、わざと嫌なキャラを演じては ” 人 ” を遠ざけようとする兄。

そんな歪みを持つ兄は、例え純粋な好意を持って近づいてくれる人がいても、その差し出される手を取ることができない。


だから私はその変化が嬉しいと思った。

そしてその変化を与えてくれたリーフ様に感謝の心を持ったのだ。



そんなある日の事。

放課後、日課であった学院図書館へと向かうと、その日は珍しく人がおらず首を傾げたが、直ぐにその理由は判明する。


リーフ様とーーーレオンだ。


二人は図書館内の椅子に隣同士に座り、リーフ様は何やら分厚い本を真剣な顔で見つめていた。


レオンは未だに全生徒・・いや教師達も含めて全員の恐怖の対象で、流石に近くで本を読もうとチャレンジする者はいなかった様だ。


勿論未だに私も恐怖があるが、不思議な事にリーフ様と一緒にいるレオンはその恐怖が薄れてしまうため、距離を間違えなければ大丈夫であると知っていた私は真剣に本のページをめくるリーフ様に話しかけた。


「 こんにちは。本を読みにくるなんて珍しいですね。 」


「 あ、リリアちゃん、こんにちは!丁度良かった~。 」


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