上 下
876 / 1,370
第二十六章

861 二人の決意

しおりを挟む
( ニール )

相手を理解すると大事だと思う気持ちがフワッと飛び出し、そして自分の事を知ってもらう事は、自分が確かにココに存在していると言う何よりも証明するモノとなる。

少なくとも、俺達にとって喧嘩は必要な労力であったと、俺はそう理解した。


すっかりサンドイッチを食べ終え、空っぽになったバケットを静かに閉めると、澄み渡る様な青空へ自然と視線を向ける。



自分が初めて努力して得た大切な場所。

じゃあ、次はこの大切な場所を守るため、自分には何ができるのだろうと考えた。


「 リーフ様って強いっすよね・・レオンだって・・

じゃあ、俺には一体何ができるんすかね? 」


「 ・・そうだな。

リーフ様はとてもお強いから、きっと一人で何でも解決して何処までも先に行ってしまうだろうな・・

このまま手が届かないずっとずっと先まで。 」


「 ・・・それは嫌っすねーー・・ 」

「 ・・・それは嫌だな・・ 」


二人同時に呟いて、そのままゴロンと仰向けに寝転がり空を見続けていると、モルトがポツリと呟いた。


「 リーフ様は恐らく不義の子で・・そのせいでご家族にあまり良く思われていない様だ。

だからきっと近い将来、お辛い思いをするかもしれない。 」


「 あーー・・そうみたいっすね。全く酷い話っす。

どこで聞いても不義の子への風当たりは厳しいもんっすよ。

浮気して、挙句自分の子供に当たり散らすなんて恥ずかしくないんすかね? 」


「 恥を知っている者なら、そもそもそんな事はしないさ。

俺が言いたい事はだな・・つまり、将来大変な時に少しでも俺達が助けになれればいいなと、そう思ったんだ。

でも、それにはきっと今のままでは駄目だ。

人を助けるには力がいる。 」


モルトの真剣な表情を見ながら、言いたい事は良く分かった。

もし自分が困った時、モルトやリーフ様、それにレオン(・・は多分助けにはこないと思うが・・)が自分たちの身を犠牲にして助けてくれても、俺は凄く悲しいと思ったからだ。


力がないままの自分では助ける事はできない

逆に相手を悲しませてしまう


それを再確認した俺とモルトはお互い顔を見合わせ ” はぁ~・・ ” と大きなため息をつくと同時にボソッと呟く。


「「 きっと生産職だろうしなー・・ 」」


「 生産職がどうかされました? 」


呟いた言葉に答える声が突然背後から聞こえ、慌てて後ろを振り返ると、そこにはニコニコ笑っているカルパスさんが立っていた。


「 カルパスさん!どうしたんすか?リーフ様は今帰ったみたいっすよ。 」


リーフ様に用があると思った俺が、その去っていった方向を指差すと、カルパスさんはゆるゆると首を横に振る。


「 いえね、ウチの主人がそれを忘れて帰ってきたものですから取りにきたのですよ。

そうしたら会話の最中でしたので、話しかけるタイミングを計っていました。 」


笑顔のまま、カルパスさんは俺の手にあるランチバケットを指差す。

そのため慌ててそれを返すと、カルパスさんは受け取りながら俺に御礼を述べ、帰るーーーと思いきや、そのまま会話を続けた。


「 そうそう、お二人はさすらいの料理人< ムーシェ >さんと言う方をご存知ですか? 」


突然話される話題に俺達はキョトンとしてしまったが、食べることが大好きな俺は勿論知っている!と断言できる程の超有名人だったので目はキラッと輝く。


西へ東へ北へ南へーー

珍しい食材を見つけては芸術ともいえる料理の数々を作ってきた伝説の料理人だ。


「 はいっ!俺、知ってるっす!

彼の作った料理はその街々で名産物になるほど美味しくて有名っすからね~。

でもどうして急にそんな話をするんすか? 」


不思議に思いながら尋ねると、カルパスさんはニコニコしながら答えた。


「 彼は食に対して非常に貪欲な性格をしていて、料理に使う食材は全て自分で取りに行くという強いこだわりを持っているそうです。

たとえそれがAランクモンスターの巣だろうが、第一級紛争地域だろうとね。

彼にとってはそれが己の命を賭ける価値がある事なのだそうです。 」


「 へぇ~、そんなんすか。凄いこだわりっすね。 」


純粋に凄いなと思って聞いていたのだが、次にカルパスさんの言った言葉に俺とモルトの表情は変わる。


「 そんな彼の資質は【 調料師 】です。

戦闘職とは程遠い、ごくごくありふれた下級生産型資質ですね。 」


モルトと共に何となく背筋を伸ばして正座をすると、カルバスさんはそんな俺達を嬉しそうに見下ろし、そのまま話を続けた。


「 全く同じ資質でも持っているスキルは人によって違います。

ムーシェさんの様に戦闘スキルをふんだんに持っている料理人もいれば、戦闘系資質なのに戦闘に役立つスキルを生涯一つも発現しない人だっている。

結局のところ、自分がどういった人物になりたいのか、それが一番重要なのですよ。

ですので、あまり資質にこだわらず、やりたい事が決まったならそれに向かって一直線に進んでみるとよいでしょう。 」


「 やりたい事・・ 」


俺は自身の手のひらをジッと見下ろし、その上に乗っている大事なモノをギュッと握りしめた。

そして隣のモルトも何か思うことがあったらしく、自分の手のひらをボンヤリと見つめている。

そんな俺達に対し、ニコッと爽やかな笑顔を見せたカルパスさんは踵を返したが、そこで一度ピタリと止まって、「 そういえば・・ 」と思い出したかの様に言った。


「 そうそう、私、実は夕食までの間とその後は毎日イザベルにみっちり稽古をつけているのですが・・もしお時間がある時はいつでも来て下さい。

まぁ、生半可な覚悟では一日で根を上げると思いますけど。 」


クスクスと笑いながら背筋が凍る様な言葉を残し、カルパスさんは今度こそ去っていった。


カルパスさんが去っていった後、俺とモルトは同時に立ち上がる。

答えはお互い聞かなくても既に決まっていた。


いつかくるであろうピンチの時は必ず駆けつけて力になってみせる。

大事な場所を守るのは誰でもない、この自分なのだと固く決意し、カルパスさんの後を追いかけて走っていった。

しおりを挟む
感想 264

あなたにおすすめの小説

モブらしいので目立たないよう逃げ続けます

餅粉
BL
ある日目覚めると見慣れた天井に違和感を覚えた。そしてどうやら僕ばモブという存存在らしい。多分僕には前世の記憶らしきものがあると思う。 まぁ、モブはモブらしく目立たないようにしよう。 モブというものはあまりわからないがでも目立っていい存在ではないということだけはわかる。そう、目立たぬよう……目立たぬよう………。 「アルウィン、君が好きだ」 「え、お断りします」 「……王子命令だ、私と付き合えアルウィン」 目立たぬように過ごすつもりが何故か第二王子に執着されています。 ざまぁ要素あるかも………しれませんね

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

お決まりの悪役令息は物語から消えることにします?

麻山おもと
BL
愛読していたblファンタジーものの漫画に転生した主人公は、最推しの悪役令息に転生する。今までとは打って変わって、誰にも興味を示さない主人公に周りが関心を向け始め、執着していく話を書くつもりです。

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

悪役令息の死ぬ前に

やぬい
BL
「あんたら全員最高の馬鹿だ」  ある日、高貴な血筋に生まれた公爵令息であるラインハルト・ニーチェ・デ・サヴォイアが突如として婚約者によって破棄されるという衝撃的な出来事が起こった。  彼が愛し、心から信じていた相手の裏切りに、しかもその新たな相手が自分の義弟だということに彼の心は深く傷ついた。  さらに冤罪をかけられたラインハルトは公爵家の自室に幽閉され、数日後、シーツで作った縄で首を吊っているのを発見された。  青年たちは、ラインハルトの遺体を抱きしめる男からその話を聞いた。その青年たちこそ、マークの元婚約者と義弟とその友人である。 「真実も分からないクセに分かった風になっているガキがいたからラインは死んだんだ」  男によって過去に戻された青年たちは「真実」を見つけられるのか。

処理中です...