上 下
872 / 1,370
第二十六章

857 当たり障りない

しおりを挟む
( ニール )

飛び出してきた小さな影の正体はモルトの出した《 フラワー・フェアリー 》で、大きさは手のひらサイズくらいの小さい女の子型の形をしている。

ふわふわの鮮やかなピンク色の髪をリボンでクルンと巻いたツインテールに、大きなリボンが中央についている可愛いドレス。

背中に生えている二対の透明な羽をパタパタと動かして楽しそうにモルトの周りを飛び回る。


「 フラワー・フェアリー【 ハナズオウ 】

彼女は全ての ” 現実 ” を裏切る能力を持つ。

お前はもう彼女の作り出す偽りの現実の住人だ。 」


《 なになに~?モルト何かカッコつけてる~。

今日は悪の組織ごっこ?楽しそう! 》


ワクワクした目をモルトに向けて楽しそうに飛び回る【 ハナズオウ 】を、ゲイルは忌々しそうに睨みつけた。


「 生産職如きが妖精を召喚しただとぉぉぉ~??!ばっ、馬鹿なっ!! 」


「 ふん、事実なのは眼の前にいる彼女をみれば分かるだろう。

生産職は決して弱くはない。

いい加減考えを改めないか。 」


たしなめる様なモルトの言い方が更に怒りを買ったらしく、ゲイルは顔を真っ赤にして叫んだ。


「 はあぁぁぁっ??!!ド底辺は一生ド底辺だろうがっ!!

ふざけやがってぇぇ────!!!! 」



ゲイルは両拳を大きく後ろに引いてそのまま勢いよく前に突き出す。


<拳圧師の資質>  (ノーマル固有スキル)

< 分裂幻影拳 >

凄まじい早さで繰り出される拳の連続攻撃で、まるでいくつもの手が現れた様に見える広範囲攻撃スキル。

その威力と範囲は術者の体力、攻撃力、スピードによって決まる。


(発現条件) 

一定以上の体力、攻撃力、スピードがあること

一定回数以上拳での戦闘経験値があること

一定以上の精神汚染度を持ち更に一定回数以上の ” 嘘 ” をついた事があること



空中に沢山のゲイルの拳が浮かび上がり、それが一斉に俺達を襲うが、その大半は【 ハナズオウ 】の作り出す幻影に当たり、残りは俺の出したゴーレムが完全に防ぐ。


「 バッ……バカな・・!

こ……この俺が……っ!!! 」


ご自慢のスキルが全て俺たちに防がれてしまったゲイルは、額に青筋を何本も立てながら下を向いてブツブツと呟きだした。


「 何だか可哀想っすね……。 」


その姿を見てつい口からそんな言葉が出てしまい、ゲイルは「 あぁっ!!? 」と凄みのきいた顔で睨みつけてくるが、それを見ても湧いて出てきたのは恐怖ではなく哀れみだけだった。


「 人を踏み台にして壁を越えて、一体人間ってどこまで行けるんすかね。

あんたの話を聞いた時、リーフ様が前に言ってた事を思い出したっす。


” 歳を取るほど頭も体も動かなくなるから周りの助けが必要になる。 ” 

” それが必要じゃない時に周りを大事にしとかないと駄目なんだよ。 ” って。


街から戻ってきたお仲間達、誰も助けに入ってくれないっすね。

一回こっちまで来たのに、皆街の方へ素知らぬ顔して逃げていっちゃったっすよ。 」


「 両手いっぱいに大きな袋を抱えていた所をみると、こんな時に強奪行為か……。

貴方が戦っている間に盗めるものは盗んで逃げようという魂胆だろうな。 」


そんな素敵な ” 仲間関係 ” というモノにモルトと二人、何とも言えぬ虚しさを感じお互い顔を見合わせたが────突然過去の自分の事について思い出した。




◇◇◇

モルトとは親同士が仲が良いこともあり、生まれてからずっと一緒に過ごしてきた、いわゆる幼なじみ。

しかし正直にいえばあまり仲は良くなかった。


同じ生産型の仕事を生業とはしていたが、方向性は全く違うため話が合うわけでもないし、更に神経質で細やかな感性をもったモルトと物事を大雑把にしか捉えない俺とでは性格的にも合わない。

更に貴族にはありがちな ” 自身の気持ちを相手に晒すべからず ” に従ってお互い当たり障りない緩い友人関係を築いていた。


それで困った事?

特になし。


会えばちょっとした日常会話はするし、困っていたら自分に余裕がある事なら助けるし逆の時もある。

なんとなく付き合いがあってなんとなく行動も一緒にするけど、本当は相手が何を考えているかなどは全く分からない。

そんなお手軽な人間関係。


子供の目線から見ても、そういった人間関係は周囲にありふれていて、これが普通だと思っていたし、自分としても気楽で特に疑問を感じる事だってない。

相手の心に踏み込んで知りたいとも思わないし、自分の心にだって踏み込んで欲しくない俺にとって、この関係性が人として最も居心地のいい距離感なのだなと確信していた。


つまり人生というものは全て ” 当たり障りない ” 

これが正解。


そんな価値観に従って ” 当たり障りのない ” 幸せな人生を歩んでいた最中に出会ったのが、リーフ様だ。


しおりを挟む
感想 264

あなたにおすすめの小説

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

【完結】竜を愛する悪役令嬢と、転生従者の謀りゴト

しゃもじ
BL
貴族の間で婚約破棄が流行し、歪みに歪んだサンドレア王国。 悪役令嬢のもとに従者として転生した主人公・グレイの目的は、前世で成し遂げられなかったゲームクリア=大陸統治をし、敬愛するメルロロッティ嬢の幸せを成就すること。 前世の記憶『予知』のもと、目的達成するためにグレイは奔走するが、メルロロッティ嬢の婚約破棄後少しずつ歴史は歪曲し、グレイの予知からズレはじめる… 婚約破棄に悪役令嬢、股が緩めの転生主人公、やんわりBがLしてる。 そんな物語です。

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

お決まりの悪役令息は物語から消えることにします?

麻山おもと
BL
愛読していたblファンタジーものの漫画に転生した主人公は、最推しの悪役令息に転生する。今までとは打って変わって、誰にも興味を示さない主人公に周りが関心を向け始め、執着していく話を書くつもりです。

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

悪役令息の死ぬ前に

やぬい
BL
「あんたら全員最高の馬鹿だ」  ある日、高貴な血筋に生まれた公爵令息であるラインハルト・ニーチェ・デ・サヴォイアが突如として婚約者によって破棄されるという衝撃的な出来事が起こった。  彼が愛し、心から信じていた相手の裏切りに、しかもその新たな相手が自分の義弟だということに彼の心は深く傷ついた。  さらに冤罪をかけられたラインハルトは公爵家の自室に幽閉され、数日後、シーツで作った縄で首を吊っているのを発見された。  青年たちは、ラインハルトの遺体を抱きしめる男からその話を聞いた。その青年たちこそ、マークの元婚約者と義弟とその友人である。 「真実も分からないクセに分かった風になっているガキがいたからラインは死んだんだ」  男によって過去に戻された青年たちは「真実」を見つけられるのか。

処理中です...