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第二十五章

833 灼熱地獄

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( クラーク )


” 呪災の卵 ”


それはかつて世界一巨大で豊かな国であったルセイル王国の半分を魔素領域に変えてしまった恐ろしい呪いの卵だ。


表に出せないその悲惨な歴史は王族と高位貴族達にしか基本は伝えらず、しかしそれを繰り返さぬ様後世に伝えていく事はその者達の義務であるとされている。


その悲惨さは呪いで死んでいく人々のみならず、生き残った者達の末路にまで及ぶ。


深刻な食料不足、冬を越す為の燃料不足により次々と生き残った者達は死んでいき、更には今がチャンスとばかりに襲い来るモンスター達によっていつくもの街が全滅。


そのせいでほとんどの国民達は難民として彷徨う事となり、その中で運良く国を脱出できた者達が移民としてその国に根付いた。


しかしその道のりは果てしなく、獣人の国の方へは元々巨大な森が存在し、戦闘民族であった獣人達にとっては大した事がなくても、体力が落ちた人族である難民達は獣人国へ辿り着く前に全滅。

そしてその反対側の< ガリウス帝国 >は奴隷商人達によって、そのほとんどが狩られその数を減らしてしまったと言われている。


そうしてやっと辿り着いたドワーフの国でも身体的特徴により人族とバレれば殺されてしまったらしい。


その理由としては当時国同士は完全に鎖国状態であった事と< ガリウス帝国 >の人狩りにより多くのドワーフ族が攫われる事件が頻発していたため、人族に対するイメージが非常に悪かったためだと言われている。


そうしてドワーフ族に見つからぬ様逃げて逃げて逃げて、やっとアルバード王国に辿り着けた一握りの者達だけが人目につかない場所で集落を作りひっそりと暮らしだしたという。


呪災の卵の話、そしてルセイル王国で起こった事は、後に保護された彼らの子孫たちによって全て明らかになった。


移民たちは決してその過ちを繰り返さぬ様にと、子孫達には真実を。

そしてまだ幼い子供達には沢山の歌や詩にその出来事を隠して伝え、後世にこの事を残していたのだ。



そうしてその真実を知った当時の王や高位貴族達はこう考えた。


” もしもその倒し方が国民達に知れてしまうと、何かがあった際に王族や貴族達に対しての不満が爆発するかもしれない ”


そのため王はその事を恐ろしい歴史の一部として認定し、” 裏の歴史 ” として一部の者達のみが知るモノとしたのだ。


その話について、俺もジェニファー様も両親からおとぎ話の様なその話を聞いてはいたが、まさか実物を見る事になるとは思いもしなかった。


” どうしようもできない無敵の化け物 ” 

そんな恐ろしい存在を前に、俺とジェニファー様の顔色は青を通り越して真っ白に変わり、ガタガタと震えが止まらない。



大勢の人間が ” 代償 ” になって死ぬ

もしくはソフィア様が・・



そしてーーーー黙って見ていた俺達もその罪に加担した共犯者となる。



背負うなど到底できない重い重い罪に心は悲鳴を上げて、二人揃って俯いたまま黙っていると・・突然数個の伝言シャボンが窓から入ってきた。


ーーーーパチンッ!!パチンッ!!


それが次々に弾けていくと、聞き覚えのある声が馬車内に響く。



《 ジェニファー、これで君はもっと幸せになれるよ。 》


《 だって君は一番が大好きだからね。これで世界一幸せなお姫様になれる。 》


《 お祝いに君の大好きな赤いバラを沢山贈るからね。 》




《 レイモンド家はこれで安泰ね。

あんな不義の子よりクラークの方が上だと皆が認めてくれるわ! 》


《 この機を逃さずこれからもっともっと上を目指すぞ。

クラーク、これは全てお前の為なんだからな。 》



大司教であるグレスター卿、そして俺の両親の声を同時に伝え伝言シャボンは消えていった。



” もう引き返す事ができない ”


” こんな所まで俺達は来てしまった ”


「 ・・・っ!! 」


それを理解した俺は頭を抱えて塞ぎ込む。


見てみぬフリをした代償がコレ。


両親の声が更に俺を責め立て、心の痛みに耐えきれなくなった俺は必死に「 仕方ない。 」「 仕方ないじゃないか!! 」と心の中で叫びながらゆっくりと目を閉じた。



次に目を開けた時、コレが夢であります様にと願いながら・・・










ーーーーー・・・パチッ。




祈りながら目を開けた俺の目に飛び込んできたモノ。

それは目の前に座っていたはずのジェニファー様ではなく、馬車の中の景色でもなかった。



ギラギラと照りつける太陽、どこまでも続いていそうな焼け焦げた大地と真っ黒に焦げてしまっている枯れ木達。


” 灼熱地獄 ” 


その名にふさわしい場所に俺はポツンと立っていた。



「 ・・・はっ??? 」


突然来たこともない様な酷い場所に立っていて、驚いた俺はポカンッとしたまま立ち尽くす。

夢か幻か・・?

そう思いたくとも、じわじわと地面から立ち上る火傷しそうな程熱い湯気が、これが現実である事を語っていた。


ジェニファー様は!!?


慌てて辺りを見渡すと、俺同様ポカンッとした表情で隣に立っていたのだが・・どうにも格好がおかしい。


ジェニファー様のいつも美しく整えられた髪はボサボサ。

グレスター卿から贈って貰った真っ赤なドレスは薄汚れていて所々破けているし、更に靴は履いておらず傷だらけで、まるで裸足でこの灼熱の大地を何時間も歩いてきた様であった。


そして両手には長くて太いヒモが肩に掛ける形で握り締められていて、何か荷物を引いている様な姿をしていた。


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