上 下
843 / 1,315
第二十四章

828 俺にできることは・・

しおりを挟む
( マリオン )


” 呪い ” 

そしてハッキリと告げられた言葉に全員が下を向く。

「 ・・どうにか倒す方法は・・? 」

絞り出す様な声でそう尋ねると、父は《 一つだけある。 》と答えたため、俺達は希望を抱いた。

ーーーが・・それは父の次の言葉で見事に打ち砕かれる。 


《 禁呪魔法 ” 聖令浄化 ” を使えば倒せる。

かつてのドロティア帝国はそれを使ってあの化け物を倒したのだ。

しかし・・それには代償が必要でな・・


簡単に言えば ” 大勢の人の命 ” か ” 聖属性の天賦の才能を持つソフィア様 ” のどちらかの命が必要になるだろう。 》



「 そ・・そんな・・・

嘘・・ですよね・・? 」


俺の問いに父は無言でYESと答えた。


その瞬間、身体に冷たいモノが走り体中から力が抜けると・・そのまま力なく背もたれに身体を預ける羽目になる。

そして全員が下を向いて黙っているのを見回した後は、膝の上に力なく乗っている自分の両手を見下ろした。



ソフィア様が死ねば世界戦争・・

では犠牲になるのは沢山の他の国民達・・?

グリモアにはまだ沢山の人達が・・



そこで一番に頭に浮かんできたのはーーーーリーフ様の姿。



まだ・・リーフ様がグリモアにいる!!


「 ・・ふざけるなよ・・? 」


ボソッ・・と呟いた声にフリック達は顔を上げ、父と意識が繋がっている伝電鳥がギョッ!として顔を向けてくるが、俺は直ぐに馬車の窓から顔を出し大声で御者に怒鳴りつける。


「 おいっ!!今直ぐグリモアに引き返せ!!

まだリーフ様だってあそこにいるんだぞ!!?

そもそもこんな時に貴族の俺達だけおめおめ逃げられるかっ!! 」


外に落ちそうになりながら叫ぶ俺に驚いたフリック達は、慌てて俺の服を引っ張り馬車の中に戻した。


伝電鳥も必死に俺の髪を引っ張り《 お、落ち着け!マリオン! 》と必死に叫びなだめてくるが、俺はそれを振り払い、もう一度窓の外に身を乗り出そうとした、その時・・



「 ーーーだって・・呪いですよ・・。 」



そう呟くフリックの声が聞こえて一旦動きを止める。


するとフリックは引っ張っていた俺の服から手を離し、ポスンッ・・と力なく座席に座り直した。


「 浄化も効かない呪いなんて・・悔しいですが、今更誰が行こうが何もできる事はありません・・。 」


そう言って下を向いてしまったフリックを見て他の3人はくしゃりと顔を歪めた。


「 どんなに屈強な騎士だとしても呪いに勝つことはできない・・

俺達にできる事は何も・・ 」


「 マリオン様・・どうか冷静にお考え下さい・・ 」


「 皆・・死んじゃう・・・マリオン様も・・行ったら・・ 」


ロダン、ルナリーは目を閉じ何とか平静を取り戻そうとしているが、ローリンは既に泣き喚く一歩手前の様に顔を歪めたまま。

沈痛な面持ちで下を向いてしまったフリック達を見渡し言葉に詰まっていると、伝電鳥から父の静かな声が聞こえてきた。


《 マリオン・・悔しいのは分かるが、お前が行った所でできることは・・ない。

無駄に命を失うだけだ。

今のお前にできることは今いる子たちを連れて王都に避難することだけなのだ。

後は我々大人が最善を尽くす。 》



” 俺にできる事は何もない ”

それがスッ・・と自分の中に入ってくると、俺は静かに座席に座り込む。



確かに父様の言う通り・・

呪い相手では俺にできることなど何もない


そのため俺は、自分に言い聞かせるように「 仕方がないんだ・・ 」と何度も呟き、力が入っていた拳を徐々に緩めていった。


仕方がない

俺が行っても何も役に立てないのだから

だから・・これでいいんだ。



そうひたすらブツブツと呟いていると、不意に兄が出ていった時の事を思い出す。



俺はあの時もそうだった。


大声で怒鳴り合う父と兄

泣き喚く母

そしてーーーそんな三人を黙ったまま部屋の端で見ていた俺


今と同じ様に ” 仕方がない ” と呟きながら、ただ事が収まるのをひたすら待っていただけだった。


結局俺はあの頃から何一つ変わっていない。

今もただ黙って事が収まるのを待つだけ。




心は黒く塗りつぶされていき、視線は下へ下へ下へ・・・


そしてやがて瞼が完全に閉じてしまうと、視界は真っ暗闇。




これでいいんだ・・・



そう最後に呟こうとした瞬間ーーーーー


ホワッとした暖かい体温を身体に感じた。



ハッ!!として目を開けると、そこは馬車の中ではなく真っ暗な闇の中。

俺はその中で誰かにおんぶされて進んでいる最中であった。


驚いて慌てて上体を起こすと、目に飛び込んでくるのは見覚えのありすぎる茶色い髪の後頭部。


「 リ、リーフ様!! 」


同じくらいの体型なのに、リーフ様は俺を背負ったままふらつくこともなく真っ暗闇の中スタスタと歩いていく。


俺はその暖かな体温とリーフ様におぶられているという安心感に泣きそうになり、そのままその背に縋るようにしがみついた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女召喚!……って俺、男〜しかも兵士なんだけど?

バナナ男さん
BL
主人公の現在暮らす世界は化け物に蹂躙された地獄の様な世界であった。 嘘か誠かむかしむかしのお話、世界中を黒い雲が覆い赤い雨が降って生物を化け物に変えたのだとか。 そんな世界で兵士として暮らす大樹は突然見知らぬ場所に召喚され「 世界を救って下さい、聖女様 」と言われるが、俺男〜しかも兵士なんだけど?? 異世界の王子様( 最初結構なクズ、後に溺愛、執着 )✕ 強化された平凡兵士( ノンケ、チート ) 途中少々無理やり的な表現ありなので注意して下さいませm(。≧Д≦。)m 名前はどうか気にしないで下さい・・

勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話

バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん< 山野 石郎 >改め【 イシ 】 世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中・・俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない< 覗く >という能力だけ。 これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。 無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。 不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜

7ズ
BL
 異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。  攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。  そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。  しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。  彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。  どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。  ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。  異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。  果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──? ーーーーーーーーーーーー 狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛  

【 完結 】お嫁取りに行ったのにキラキラ幼馴染にお嫁に取られちゃった俺のお話

バナナ男さん
BL
剣や魔法、モンスターが存在する《 女神様の箱庭 》と呼ばれる世界の中、主人公の< チリル >は、最弱と呼べる男だった。  そんな力なき者には厳しいこの世界では【 嫁取り 】という儀式がある。 そこで男たちはお嫁さんを貰う事ができるのだが……その儀式は非常に過酷なモノ。死人だって出ることもある。 しかし、どうしてもお嫁が欲しいチリルは参加を決めるが、同時にキラキラ幼馴染も参加して……?    完全無欠の美形幼馴染 ✕ 最弱主人公   世界観が独特で、男性にかなり厳しい世界、一夫多妻、卵で人類が産まれるなどなどのぶっ飛び設定がありますのでご注意してくださいm(__)m

奴隷商人は紛れ込んだ皇太子に溺愛される。

拍羅
BL
転生したら奴隷商人?!いや、いやそんなことしたらダメでしょ 親の跡を継いで奴隷商人にはなったけど、両親のような残虐な行いはしません!俺は皆んなが行きたい家族の元へと送り出します。 え、新しく来た彼が全く理想の家族像を教えてくれないんだけど…。ちょっと、待ってその貴族の格好した人たち誰でしょうか ※独自の世界線

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

処理中です...