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第二十三章

789 ” 幸せ ” な人生ってやつ

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( ドノバン )


下層民は上層民に命じられればたとえ火の中水の中でも喜んで突っ込んでいく。

それが常識な世界でこいつは何を言っているんだ?

本気でそう思っての事だったが、俺の攻撃をまたしても大きくしゃがみ込んで避けた奴はそのまま俺の顎に一発アッパーを食らわしてきた。


「 そんな無能な上官のせいでどれほどの人間の命が無駄になっていると思ってる!!

命を預かっている自覚を持てっ!!この無能クズ男!!! 」


” 無能 ” 

” クズ ”

とにかく今まで言われたことのない酷い暴言の数々に沸騰どころかマグマの様に熱くなった頭で、やってやられての激しい打ち合い、罵り合いを経て、とうとう勝負は佳境に入る。

お互いボロボロ、そしてハァハァと息を乱しながらにらみ合い。

次の攻撃で恐らく勝負が決まると察した俺は、今の自分の最大攻撃スキルを発動し、奴に向かって切りかかった。


そしてーーーー


「 こんのぉぉ~っ!!頭ガチガチのオリハルコン頭!!

モテモテの俺を羨んでんじゃねーーーよ!童貞野郎!! 」


ーーと、とりあえず男の名誉を傷つける様な悪口を言いながら大剣を振り、そのままその刃が奴に届くーーっ!!ーーーーと思われた、その時・・・




ーーーガクンっ!!


大剣を持つ手から急に力が抜け、何だ!?と慌てて周りに視線を向ければヒラヒラと一匹の蝶が飛んでいるのに気づいた。



< 夜人蝶 >ーーー!!!??


Fランクの毒を持つモンスター。


まさかその毒を??

いつの間にーーーっ!!


そう思っている内にとっくに奴は俺の目の前に移動していて、大きく拳を後ろに引く。


「 まだ結婚していないのだから全員童貞だろうがっ!!!

巫山戯た事を抜かすな!!この間抜け男っ!! 」


ーーーーえっ???


一瞬呆けたのと同時に顔を襲う凄まじい痛み。

しかしその殴られた強烈な痛みや怒りよりも先に頭に浮かんだのはーーー・・


” こいつ何言ってんの??? ” 


ーーという疑問であった。



次にハッ!!と目を覚ませば俺は回復担当医に上半身を起こされていて無傷。

そして目の前には< 仮想幻石 >を外され、ボコボコに殴られた状態のイケメン君が横たわり、その周りを学院の守衛達がズラリと取り囲んでいた。


” 侯爵家のご子息になんてことを!! ”

” 不敬罪だ!!即刻死刑に処すべき!! ”


口々にそう叫ぶ守衛達とこの戦いを見ていたギャラリー達でその場は熱く盛り上がっていてテンションは最高潮!

” 間違い ” を犯したたった一人の人間を寄ってたかって罵り、笑い合い、自分たちの掲げる ” 正義 ” を叫ぶ。


俺は冷静な頭でその光景を見て思っちゃったよな~。



” 何コレ?? ” ーーーってな!



だってさ、俺、負けたわけ。

戦闘系資質で爵位も上のこの俺が完膚なきまでに。


自分で決闘を申し込んで負けて?

そんで目を覚ましたら勝者であるはずのヤツがフルボッコで倒れていて俺は無傷。


何で俺の負けた事実なくなっちゃってんの??


それに気づいてしまうと権力というものの重さを初めて感じてゾッと背筋を凍らせた。


権力は真実をこんなにもあっさりと曲げてしまう ” 力 ” で、それを俺は子供のおもちゃのようにひょいひょ~いと軽く雑に扱っていたって事。


ーーーつまりつまり・・?



俺の人生って ” 真実 ” なんてものは無いも同然で、嘘だらけって事じゃねーの?



辿り着いてしまった答えによって今までの ” 幸せ ” な人生にビシッ!!と大きな亀裂が走る。


それに焦った俺は必死に ” 幸せ ” な日々を思いだそうとしたがーーーー

何一つ具体的なハッピーな記憶が思い出せなかった。



” あ~俺の人生超ハッピ~! ”

” 楽勝だったな~楽しかったな~得しちゃったよな~ ”


そう感じた思い出は腐る程あるのに、じゃあ何がハッピーなのか?何が楽勝だったのか?何が楽しかった?何か得だった??


な~んにも出てこない!!



俺を支持し褒め称える人達。

くっついて回っては賛辞を述べる取り巻きたち。

素敵だ、愛していると囁く極上の女達。

それを喜ぶ自分の感情だけは何となく覚えているのに、俺の頭の中にいるそいつらは皆同じ顔で・・まるで笑い顔が書かれた仮面をつけている様であった。


「 ・・うそ・・だろう? 」


ガラガラと完全に崩れていった ” 幸せ ” な人生ってやつに愕然とする俺。

そしてそんな俺を気遣う様に声を掛けてくる回復担当医や駆け寄ってきた取り巻きたち。

そいつらの顔にもやはり思い出の中の人々同様同じ仮面がついている。


突然せり上がってきた得体の知れない恐怖により思わず目を瞑ると、不意にたった一つだけ色鮮やかに光り輝く記憶が突然前へ前へと飛び出してきた。


” 恥を知れ!この愚か者め!! ”


それは先程のイケメン君の怒り狂った恐ろしい顔と怒鳴りつけられた映像。

不快マックスな気持ちが溢れ出し、嫌だ嫌だと思っているのに・・イケメン君との記憶は、次から次へと鮮明に再生されそのままド真ん中に居座ってしまった。


負けて悔しい、悲しい、憎いーーー!!


そんな ” 幸せ ” とは程遠い感情しかない思い出がこびりついて離れない。



気がつけば俺は回復担当医や守衛達、取り巻き達の声を振り切り、ボロボロな状態で倒れているイケメン君の側に行きその場にしゃがみ込む。

するとイケメン君の手がピクリと動き、イケメン台無し!・・な血だらけの顔で俺を見上げたが、その顔には皆と同じ様な仮面はついていなかった。

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