上 下
758 / 1,315
第二十二章

743 叩くモノ

しおりを挟む
( クラーク )



ソフィア様はそんな俺の傲慢な心を全て見抜いていたのだ。


大した努力もせず、自分よりも下だと決めつけた存在を馬鹿にする事で自分の価値が高いと勘違いする傲る俺を。

そしてただただ自分の意志なく楽な方へと流されるだけの俺を。


今まで見えていた世界が急に崩れ去り、見えてきたのははっきりとしたアゼリアとの境界線だ。

” 辛い ” を乗り越え自分の意志を貫き見事に上に登っていったアゼリアと、” 楽 ” を取り、急に見えてきた世の広さに呆然と立ち尽くす俺。

その距離は遠く、流され続けていた俺の足はどうやって動かせばいいのかすらこの時点で分からなくなっていた。



しかし時は無情に流れるし、周りはゆっくりと待ってはくれない。

両親がソフィア様に対して言った苦言は周りの選ばれなかった子息達の言い訳には格好の材料となってしまい、我が< レイモンド家 >はどこに行っても嘲笑の的になってしまった。


アゼリアがいなくなった途端、我が家を包み込んでいた ” 幸せ ” は消え去り、また以前の様に毎日罵り合う両親、そして以前より激しく八つ当たりされるようになった従者達はお互いいがみ合う様になってしまう。

従者達はこの最悪の職場を離れたくとも "  レイモンド家の元従者 "   と笑われまともに雇ってもらえず耐えるしかなかった。


その姿は家にいた頃のアゼリアそっくりだ


それに気づくと背筋は凍った。




” 入り婿のくせに!!低い身分の貴方を拾ってやった恩も忘れてよくも!! ”


” うるさい!俺を認めようとしないドルトン様や他の奴らがストレスなのだから仕方ないだろう!

女遊びくらい許せ!! ”



言い争う両親を見て真っ先に頭を過ったのは『 因果応報 』

今までアゼリアを使って ” 楽 ” をしてきたツケが全員に返ってきた。


それにどっぷり浸かってしまっていた俺にとって ” 変わる ” 事は酷く難しい事で、特に今更アゼリアに対する態度を変える事や、ましてや謝罪をするなど恥ずかしくてできない。


それにこの最悪な形になってしまった場所でも俺にとっては唯一の大事な場所であったから、今度こそ "   俺   "  が守らなければと思った。


ツケを払い続けよう。

それが俺の罰であり、同時に ” 愛 ” という唯一手の中に残ったものであると思ったからだ。



そこから俺は才能に胡座をかくのを辞めひたすら努力を始める。

睡眠時間を削っての座学に、実習、社交界への挨拶周りにと自分にできる事は何でもやった。


しかし、その努力は認められる事はなく、

” 不義の子に負けた出来損ない ”

” 魔法の名門もこれでお終い ”

” そもそも入り婿殿を未だに先代のドルトン様達が認めていないらしいし、実の娘だって実績の一つもない出来損ないじゃないか ”

” 現当主様は実力はないが女を誑し込む術だけは一流で、奥方はそれにコロッと落ちた愚か者ね ”

至る所で囁かれては笑いものにされる日々。



辛かった。

でもその通りだと思った。



そしてーーー

” 出来損ないの不義の子 ”

” 魔法もまともに使えぬならお終いだな ”

” 母親は汚れた下層民。 ”

” 男を誑し込む才能にだけは恵まれた愚かな女だ ”


そうアゼリアを笑っていたかつての自分が、今の俺を指差し笑っている姿が常に頭に浮かんでいた。



それを振り切って頑張る俺に反し、両親は社交界に行くことを辞めてしまう。

そして ” 全ては次期当主のクラークの仕事である ” と全ての責任を俺に押し付け、そのまま家に閉じこもる様になってしまった。


それについて周りは更に両親に対し悪いイメージ抱いたようだが、両親に対する愛情は消える事はなく、俺は冷たく吹き付ける世の風よけになり続けた、がーーー・・


ある日大司教の娘ジェニファー様の専属聖兵士に選ばれた事で俺の環境はまたガラリと変わる。


選ばれた俺に対し今まで陰口を叩いていた周りは意見をコロリと変え、また俺とレイモンド家を褒め称え始めた。


勿論それに対し思うことはあったが・・

彼らも俺と同様にただ楽な方にながされているだけだとよく知っていたので、それを責める資格はない。


結局大多数の人は流されて、気がつけば望まぬ場所にいて・・そしてそこに慣れていってしまうのだろうな。


自分のしてきたことと照らし合わせながら、どこか仕方がないとまた楽な方に流れようとする自分に気づき思わず苦笑いを漏らした。




そうして流されていく事にも慣れてきたはずの俺であったが、以前と違うのは何となくモヤモヤしたものが心の隅に存在する様になった事だ。


それは俺が専属聖兵士に選ばれた途端、今まで風よけになるため前に立っていた俺を押し退け ” 俺こそがレイモンド家の当主である ” と前に進み出た父と、自慢げな笑みを浮かべる母を見て強くなっていった気がする。


そして意気揚々と毎日の様に着飾ってパーティーに出掛けていく両親に手を振りながら、コツンコツン・・と何かが叩く音が常になっているのを感じていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女召喚!……って俺、男〜しかも兵士なんだけど?

バナナ男さん
BL
主人公の現在暮らす世界は化け物に蹂躙された地獄の様な世界であった。 嘘か誠かむかしむかしのお話、世界中を黒い雲が覆い赤い雨が降って生物を化け物に変えたのだとか。 そんな世界で兵士として暮らす大樹は突然見知らぬ場所に召喚され「 世界を救って下さい、聖女様 」と言われるが、俺男〜しかも兵士なんだけど?? 異世界の王子様( 最初結構なクズ、後に溺愛、執着 )✕ 強化された平凡兵士( ノンケ、チート ) 途中少々無理やり的な表現ありなので注意して下さいませm(。≧Д≦。)m 名前はどうか気にしないで下さい・・

勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話

バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん< 山野 石郎 >改め【 イシ 】 世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中・・俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない< 覗く >という能力だけ。 これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。 無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。 不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜

7ズ
BL
 異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。  攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。  そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。  しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。  彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。  どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。  ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。  異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。  果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──? ーーーーーーーーーーーー 狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛  

【 完結 】お嫁取りに行ったのにキラキラ幼馴染にお嫁に取られちゃった俺のお話

バナナ男さん
BL
剣や魔法、モンスターが存在する《 女神様の箱庭 》と呼ばれる世界の中、主人公の< チリル >は、最弱と呼べる男だった。  そんな力なき者には厳しいこの世界では【 嫁取り 】という儀式がある。 そこで男たちはお嫁さんを貰う事ができるのだが……その儀式は非常に過酷なモノ。死人だって出ることもある。 しかし、どうしてもお嫁が欲しいチリルは参加を決めるが、同時にキラキラ幼馴染も参加して……?    完全無欠の美形幼馴染 ✕ 最弱主人公   世界観が独特で、男性にかなり厳しい世界、一夫多妻、卵で人類が産まれるなどなどのぶっ飛び設定がありますのでご注意してくださいm(__)m

奴隷商人は紛れ込んだ皇太子に溺愛される。

拍羅
BL
転生したら奴隷商人?!いや、いやそんなことしたらダメでしょ 親の跡を継いで奴隷商人にはなったけど、両親のような残虐な行いはしません!俺は皆んなが行きたい家族の元へと送り出します。 え、新しく来た彼が全く理想の家族像を教えてくれないんだけど…。ちょっと、待ってその貴族の格好した人たち誰でしょうか ※独自の世界線

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

処理中です...