757 / 1,315
第二十二章
742 幸せの終わり
しおりを挟む
( クラーク )
” 我が儘放題の強欲娘 ”
” 大司教の娘だからと偉そうで傲慢な女 ”
” 差別的な思想を持ってそれを楽しむ性悪女 ”
社交界でひっきりなしに囁かれるジェニファー様の人物像は、実際はそれとは真逆。
大人しく一人で本を読んでいる事が好きで派手なものは好きではなく、身につける衣服も本当は ” 赤 ” が好きではないしアクセサリーなどにも一切興味はない。
自身が望んで欲しいと願うモノは、医療に関しての本やアイテムくらいの様だ。
なら何故そんな真逆とも言える事をしているのかと言えば、全ては ” 自身のお父様のため ” 。
ジェニファー様は必死にお父様の愛していたお母様の身代わりをしている。
周りから見れば歪んでいる ” 愛情 ” を受け取り、ジェニファー様のお父様が何処か遠くに行ってしまわないように ” 幸せ ” を周りに見せつけてこの場所に縛り付けているのだ。
何度もお母様の元へいこうとしていたお父様を守るためにはこれしか方法がなかったのか・・
いずれにせよ自分の ” 個 ” と ” 幸せ ” を全て捨てる選択肢をとったジェニファー様の前には望まぬ道だけが広がっていた。
俺と同じ様に。
ジェニファー様は気を抜けば引きつりそうな顔の上に、お父様と周りが作り出した ” 傲慢な娘 ” の仮面を被ったままツンッと顎を軽く上げ「 行くわよ、クラーク。 」と言って歩き出す。
それに俺は「 はい。 」と返事をしてその後に続き、彼女の背中を見ながら自分が今の道に流される様に辿り着いてしまった ” 始まりの日 ” の事を思い出していた。
俺にとっての ” 始まりの日 ” は4歳の時。
異母妹であるアゼリアが我が家へやってきた事から始まった。
アゼリアが来るまでの間、幼い俺には詳しい理由は分からなかったが父と母は激しい喧嘩・・いや、今思えば罵り合いか・・
とにかく酷く言い争いを毎日していて、従者達はその度に酷い暴言や時には暴力的な八つ当たりまでされていた。
俺も視界に入れば怒鳴られてしまい、邸全体が嫌な空気に包まれていた事を幼いながらにはっきりと感じていたのを覚えている。
そんな最悪な雰囲気の中、小さな馬車に連れられて当時俺と同じく4歳になったばかりのアゼリアが邸に来た時、俺が初めて持った感情は ” 嬉しい ”
” 一人だと辛かった勉強も2人なら楽しくなるかもしれない! ”
そんな純粋な喜びの感情であった。
しかしワクワクしながら見上げた両親の顔を見てそんな想いは一瞬で吹き飛んでしまう。
憎々しげに歪んだ顔、怒りに震える体を隠す事もできずジッとアゼリアを睨む母。
そして心底嫌そうに、そして静かに怒りと憎しみを込めた視線をアゼリアにぶつける父。
どうしてそんな顔をするのか分かるはずもない俺は、青ざめてとりあえず黙った。
そしてそれからだ。
我がレイモンド家に ” 幸せ ” が訪れたのは・・・
アゼリアに対し両親は非常に冷たく、ありとあらゆる暴言、嫌がらせ、時には行き過ぎた ” 躾 ” をし、それと反比例する形で俺は何をしても褒められ、讃えられ、溺愛された。
” お前だけがレイモンド家の正当な跡継ぎ ”
” あんな汚れた偽物とは違い、全てが正しい存在なのよ ”
歌うようにそう言われ続け、更に八つ当たりをされてきた従者達はそれに合わせるように ” その通りです ” ” それこそが正しい! ” と誰もが言った。
俺がアゼリアを気遣い意識が少しでも向けば、父は怒り母は泣く。
俺にとって両親は絶対的に正しい存在で、俺を愛し受け入れてくれる唯一信じるべき居場所であった。
何が ” 正しい ” ” 正しくない ” は、この時点で俺にとっては無価値なモノ。
よく理解はできていなかったが、今の状況は ” 幸せ ”
アゼリアがそういった扱いをされている ” 世界 ” では、父も母も喧嘩はしないし八つ当たりされない従者達もニコニコと笑っている。
そしてそんな両親に目一杯愛され、更に罵りあう両親の悲しい姿を見なくて済む。
ーーーなんだ。
俺は考える事を辞め、大好きな父と母が笑顔でいてくれるもっとも楽な道へとこの時から流され始めてしまった。
アゼリアという犠牲の上に乗って。
それが崩れ去ったのは、10歳の時、ソフィア様の専属聖兵士を決める為のお茶会に参加した時の事だ。
名だたる名門家の子息とご令嬢は全員参加。
魔法特化の名門である我がレイモンド家も当然の如く参加したのだが、年が近い貴族の家という事が条件であったため正式にアゼリアも招待されてしまったのだ。
それに対し両親は憤り、更に魔法の名門であるレイモンド家に籍を置いているのに魔法を満足に使えないアゼリアをいつもの如く罵る。
” 魔法も使えないレイモンド家の恥知らず ”
” 汚れた下層民が産んだのだからこれは当然の結果だがな ”
アゼリアはそれを言われる度に下を向き、それが終わるまでただジッと耐えていたが努力を諦めたりはしなかった。
魔法を捨て、物理に特化した特訓を中心にその実力を開花させていったのだ。
勿論それが認められる事はなく更に激しく罵られたが・・やはりゼリアは辞めようとしなかった。
それに対し、両親同様魔法にしか価値を見出していない俺は ” 何をしても無駄なのに・・つくづく馬鹿なヤツ ” と心底侮蔑した想いを抱き、仕方なく一緒に向かったアゼリアを押し退け堂々たる態度で城の中へと入っていく。
そして結果はーーーーー・・・・
” 我が儘放題の強欲娘 ”
” 大司教の娘だからと偉そうで傲慢な女 ”
” 差別的な思想を持ってそれを楽しむ性悪女 ”
社交界でひっきりなしに囁かれるジェニファー様の人物像は、実際はそれとは真逆。
大人しく一人で本を読んでいる事が好きで派手なものは好きではなく、身につける衣服も本当は ” 赤 ” が好きではないしアクセサリーなどにも一切興味はない。
自身が望んで欲しいと願うモノは、医療に関しての本やアイテムくらいの様だ。
なら何故そんな真逆とも言える事をしているのかと言えば、全ては ” 自身のお父様のため ” 。
ジェニファー様は必死にお父様の愛していたお母様の身代わりをしている。
周りから見れば歪んでいる ” 愛情 ” を受け取り、ジェニファー様のお父様が何処か遠くに行ってしまわないように ” 幸せ ” を周りに見せつけてこの場所に縛り付けているのだ。
何度もお母様の元へいこうとしていたお父様を守るためにはこれしか方法がなかったのか・・
いずれにせよ自分の ” 個 ” と ” 幸せ ” を全て捨てる選択肢をとったジェニファー様の前には望まぬ道だけが広がっていた。
俺と同じ様に。
ジェニファー様は気を抜けば引きつりそうな顔の上に、お父様と周りが作り出した ” 傲慢な娘 ” の仮面を被ったままツンッと顎を軽く上げ「 行くわよ、クラーク。 」と言って歩き出す。
それに俺は「 はい。 」と返事をしてその後に続き、彼女の背中を見ながら自分が今の道に流される様に辿り着いてしまった ” 始まりの日 ” の事を思い出していた。
俺にとっての ” 始まりの日 ” は4歳の時。
異母妹であるアゼリアが我が家へやってきた事から始まった。
アゼリアが来るまでの間、幼い俺には詳しい理由は分からなかったが父と母は激しい喧嘩・・いや、今思えば罵り合いか・・
とにかく酷く言い争いを毎日していて、従者達はその度に酷い暴言や時には暴力的な八つ当たりまでされていた。
俺も視界に入れば怒鳴られてしまい、邸全体が嫌な空気に包まれていた事を幼いながらにはっきりと感じていたのを覚えている。
そんな最悪な雰囲気の中、小さな馬車に連れられて当時俺と同じく4歳になったばかりのアゼリアが邸に来た時、俺が初めて持った感情は ” 嬉しい ”
” 一人だと辛かった勉強も2人なら楽しくなるかもしれない! ”
そんな純粋な喜びの感情であった。
しかしワクワクしながら見上げた両親の顔を見てそんな想いは一瞬で吹き飛んでしまう。
憎々しげに歪んだ顔、怒りに震える体を隠す事もできずジッとアゼリアを睨む母。
そして心底嫌そうに、そして静かに怒りと憎しみを込めた視線をアゼリアにぶつける父。
どうしてそんな顔をするのか分かるはずもない俺は、青ざめてとりあえず黙った。
そしてそれからだ。
我がレイモンド家に ” 幸せ ” が訪れたのは・・・
アゼリアに対し両親は非常に冷たく、ありとあらゆる暴言、嫌がらせ、時には行き過ぎた ” 躾 ” をし、それと反比例する形で俺は何をしても褒められ、讃えられ、溺愛された。
” お前だけがレイモンド家の正当な跡継ぎ ”
” あんな汚れた偽物とは違い、全てが正しい存在なのよ ”
歌うようにそう言われ続け、更に八つ当たりをされてきた従者達はそれに合わせるように ” その通りです ” ” それこそが正しい! ” と誰もが言った。
俺がアゼリアを気遣い意識が少しでも向けば、父は怒り母は泣く。
俺にとって両親は絶対的に正しい存在で、俺を愛し受け入れてくれる唯一信じるべき居場所であった。
何が ” 正しい ” ” 正しくない ” は、この時点で俺にとっては無価値なモノ。
よく理解はできていなかったが、今の状況は ” 幸せ ”
アゼリアがそういった扱いをされている ” 世界 ” では、父も母も喧嘩はしないし八つ当たりされない従者達もニコニコと笑っている。
そしてそんな両親に目一杯愛され、更に罵りあう両親の悲しい姿を見なくて済む。
ーーーなんだ。
俺は考える事を辞め、大好きな父と母が笑顔でいてくれるもっとも楽な道へとこの時から流され始めてしまった。
アゼリアという犠牲の上に乗って。
それが崩れ去ったのは、10歳の時、ソフィア様の専属聖兵士を決める為のお茶会に参加した時の事だ。
名だたる名門家の子息とご令嬢は全員参加。
魔法特化の名門である我がレイモンド家も当然の如く参加したのだが、年が近い貴族の家という事が条件であったため正式にアゼリアも招待されてしまったのだ。
それに対し両親は憤り、更に魔法の名門であるレイモンド家に籍を置いているのに魔法を満足に使えないアゼリアをいつもの如く罵る。
” 魔法も使えないレイモンド家の恥知らず ”
” 汚れた下層民が産んだのだからこれは当然の結果だがな ”
アゼリアはそれを言われる度に下を向き、それが終わるまでただジッと耐えていたが努力を諦めたりはしなかった。
魔法を捨て、物理に特化した特訓を中心にその実力を開花させていったのだ。
勿論それが認められる事はなく更に激しく罵られたが・・やはりゼリアは辞めようとしなかった。
それに対し、両親同様魔法にしか価値を見出していない俺は ” 何をしても無駄なのに・・つくづく馬鹿なヤツ ” と心底侮蔑した想いを抱き、仕方なく一緒に向かったアゼリアを押し退け堂々たる態度で城の中へと入っていく。
そして結果はーーーーー・・・・
88
お気に入りに追加
1,993
あなたにおすすめの小説
聖女召喚!……って俺、男〜しかも兵士なんだけど?
バナナ男さん
BL
主人公の現在暮らす世界は化け物に蹂躙された地獄の様な世界であった。
嘘か誠かむかしむかしのお話、世界中を黒い雲が覆い赤い雨が降って生物を化け物に変えたのだとか。
そんな世界で兵士として暮らす大樹は突然見知らぬ場所に召喚され「 世界を救って下さい、聖女様 」と言われるが、俺男〜しかも兵士なんだけど??
異世界の王子様( 最初結構なクズ、後に溺愛、執着 )✕ 強化された平凡兵士( ノンケ、チート )
途中少々無理やり的な表現ありなので注意して下さいませm(。≧Д≦。)m
名前はどうか気にしないで下さい・・
勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話
バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん< 山野 石郎 >改め【 イシ 】
世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中・・俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない< 覗く >という能力だけ。
これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。
無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。
不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜
7ズ
BL
異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。
攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。
そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。
しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。
彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。
どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。
ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。
異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。
果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──?
ーーーーーーーーーーーー
狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛
【 完結 】お嫁取りに行ったのにキラキラ幼馴染にお嫁に取られちゃった俺のお話
バナナ男さん
BL
剣や魔法、モンスターが存在する《 女神様の箱庭 》と呼ばれる世界の中、主人公の< チリル >は、最弱と呼べる男だった。 そんな力なき者には厳しいこの世界では【 嫁取り 】という儀式がある。 そこで男たちはお嫁さんを貰う事ができるのだが……その儀式は非常に過酷なモノ。死人だって出ることもある。 しかし、どうしてもお嫁が欲しいチリルは参加を決めるが、同時にキラキラ幼馴染も参加して……? 完全無欠の美形幼馴染 ✕ 最弱主人公 世界観が独特で、男性にかなり厳しい世界、一夫多妻、卵で人類が産まれるなどなどのぶっ飛び設定がありますのでご注意してくださいm(__)m
奴隷商人は紛れ込んだ皇太子に溺愛される。
拍羅
BL
転生したら奴隷商人?!いや、いやそんなことしたらダメでしょ
親の跡を継いで奴隷商人にはなったけど、両親のような残虐な行いはしません!俺は皆んなが行きたい家族の元へと送り出します。
え、新しく来た彼が全く理想の家族像を教えてくれないんだけど…。ちょっと、待ってその貴族の格好した人たち誰でしょうか
※独自の世界線
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる