上 下
740 / 1,315
第二十一章

725 それぞれの最後

しおりを挟む
( リーフ )


俺はずっとずっと叫んでいるのに声一つ届かない事に更に叫び、唸り声まで上げたが何一つ伝わらず・・

また景色は変わり、今度は冒険者ギルドがある東門の前に俺はいた。


ここも沢山のモンスターが襲い掛かってきており、ほとんどの冒険者達が既に息絶えそこら中に物言わぬ死体として転がったまま。

そんな中で戦い続けているのは数人でその内の三人は非常に見覚えのある人たちであった。



「 まさかこんなものを手にしていたとはのぉ・・

神の罰をも恐れぬ愚か者どもが。

恐らくこの街も周辺の街々も全て全滅じゃろうて。


を倒すためにはドロティア帝国と同じ選択をするしかあるまい。

ニコラ王は決断を迷われている様じゃが長引けば長引くほど被害は拡大していく。

もう既に遠い街にまで被害の手は広がっているようじゃな。 」



「 そんな・・!

せめて子供達だけでも助けられないのでしょうか?

仕方がないとはいえ、まだ幼い子供達にそれを負わすのはあまりにも酷い・・! 」



一人は2m・・いや下手をしたら3mくらいはありそうなムキムキの大男だが、声と口調からそれがヘンドリクさんだという事が分かった。

そしてそのヘンドリクさんと話しているのはゴツいナックルを装備しているエイミさんで、二人は飛びかかってきたモンスターをやすやすと倒しながら会話をしているが・・

ヘンドリクさんはいつもの穏やかそうな顔ではなく非常に険しい顔をしており、エイミさんも同様に険しい顔をしていてかなり怒っている様子だ。


会話の詳しい内容はよく分からないが、何者かのせいで何か恐ろしいモノがグリモアを襲い、それによって街は壊滅状態であるという事は分かった。

そしてそのせいでグリモアだけではなく遠い街までそれが広がっているほど被害が甚大である事も・・


俺の脳裏には先程森の上空いっぱいを覆っていた ” 何か巨大な影の様なモノ ” が浮かんだ。


      
まさか・・・がその原因のヤツ・・?



その正体について考えていると、エイミさんの悲痛な声を聞いたヘンドリクさんは、キュッと顔を歪め、辛そうな声でそれに答える。



「 ・・・無理じゃろうな。

わしとてなんとか助けてやりたいが・・その経路は全て閉じられてしまっている。

相当な魔術の使い手が向こうにはついているようじゃ。


こんな老いぼれの命なら喜んで差し出すのに・・神はなんと無慈悲な事を・・。 」


最後は自傷気味に言ったヘンドリクさんの元に上からドスンッ!!と両手に巨大な斧を持った男性が振ってきて、キッ!と向かいくるモンスター達の集団を睨みつけた。



「 俺は・・俺は情けないっ!!

今まで必死に努力して努力して・・っ!!A級冒険者までせっかく上り詰めたのに子供一人すら救えないとはっ!!

こんな事をした奴らを全員ぶっ飛ばしてやりたい!!

ヘンドリク様、これは神の起こした事ではありません。

非道な人間たちが起こしたただの最低最悪の人災です!

俺は無駄だと分かっていても抗ってやるさ、最後までっ!! 」


両手に大斧を持った男はザップルさんであった。

ザップルさんはその後「 うおおおーーー!! 」と大声をあげると、そのままモンスター達の集団に突っ込んで行ってしまう。

それを見たエイミさんは悲しげな顔を見せたが、やがてフフッと笑った。


「 確かにそれしか私達にできる事はありませんね。

こうなったら暴れるだけ暴れて、後に残される人たちに対し精一杯のメッセージを残しましょう。

グリモアの冒険者達は ” 悪 ” に屈せず戦い抜いたと。

そしてどうか、後世で ” 悪 ” を討ち滅ぼす者達が現れますように・・! 」



エイミさんは一度祈りを空に捧げると、ナックルがついた両拳をパンッ!と打ち合い、ザップルさんに続いてモンスター達の集団の中に消える。


ヘンドリクさんはそんな2人を見送った後、ふぉっふぉっと嬉しそうに笑った。



「 全く・・。そんな事を若者に言われてしまえば年寄りの立つ瀬がなくなってしまうのではないか。

助からんならせめて順番は守らねばのぉ。

死ぬのは老いぼれのワシが先じゃ。

こんな出がらしみたいな老いぼれがどれだけ命を燃やせるか、楽しみになってきたわい。 」



そうしてヘンドリクさんもモンスターの集団の中へと消えていった。




ーーーカチャッ!




スライドする様に景色が変わり、今度は見るからにボロボロの小屋の中。

そこには辺り一面色とりどりのキノコの残骸が散らばっていて中に生えているキノコは全滅、そして何かを引きずる様な血の跡が小屋の隅の方へと続いている。


俺は嫌な予感をビシビシと感じながらその血の跡を目線で辿っていくと、その先にいたのは・・


必死に数本のキノコを抱えて壁にもたれ掛かっている・・血だらけのライキーさんであった。


ひゅー・・ひゅー・・というか細い呼吸音は外の沢山のモンスター達の足音や鳴き声によって掻き消され、直ぐにでも逃げなければ命はない事は誰が見ても明白であったがーーー

ライキーさんは既に腹の側面は全て食いちぎられており、更に両足も喰われてしまったのかなくなっていたため、息絶えるのが先か、モンスターに襲われるのが先かという状態であった。


そんな中、ライキーさんは抱えているキノコをギュッ・・と抱きしめ、幸せそうに笑った。


「 ・・僕・・と・・君を繋ぐ・・大事・な・・最後の絆・・・。

絶対に・・離さ・・ないよ。


ーーーあーちゃん・・・ 」


そう口にした瞬間、巨大なモンスターの足が小屋を踏み潰す。




ーーーグシャッ!!!


大きな破壊音と赤い血しぶきと共にライキーさんのキノコ小屋は全壊してしまった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女召喚!……って俺、男〜しかも兵士なんだけど?

バナナ男さん
BL
主人公の現在暮らす世界は化け物に蹂躙された地獄の様な世界であった。 嘘か誠かむかしむかしのお話、世界中を黒い雲が覆い赤い雨が降って生物を化け物に変えたのだとか。 そんな世界で兵士として暮らす大樹は突然見知らぬ場所に召喚され「 世界を救って下さい、聖女様 」と言われるが、俺男〜しかも兵士なんだけど?? 異世界の王子様( 最初結構なクズ、後に溺愛、執着 )✕ 強化された平凡兵士( ノンケ、チート ) 途中少々無理やり的な表現ありなので注意して下さいませm(。≧Д≦。)m 名前はどうか気にしないで下さい・・

勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話

バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん< 山野 石郎 >改め【 イシ 】 世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中・・俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない< 覗く >という能力だけ。 これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。 無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。 不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜

7ズ
BL
 異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。  攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。  そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。  しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。  彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。  どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。  ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。  異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。  果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──? ーーーーーーーーーーーー 狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛  

【 完結 】お嫁取りに行ったのにキラキラ幼馴染にお嫁に取られちゃった俺のお話

バナナ男さん
BL
剣や魔法、モンスターが存在する《 女神様の箱庭 》と呼ばれる世界の中、主人公の< チリル >は、最弱と呼べる男だった。  そんな力なき者には厳しいこの世界では【 嫁取り 】という儀式がある。 そこで男たちはお嫁さんを貰う事ができるのだが……その儀式は非常に過酷なモノ。死人だって出ることもある。 しかし、どうしてもお嫁が欲しいチリルは参加を決めるが、同時にキラキラ幼馴染も参加して……?    完全無欠の美形幼馴染 ✕ 最弱主人公   世界観が独特で、男性にかなり厳しい世界、一夫多妻、卵で人類が産まれるなどなどのぶっ飛び設定がありますのでご注意してくださいm(__)m

奴隷商人は紛れ込んだ皇太子に溺愛される。

拍羅
BL
転生したら奴隷商人?!いや、いやそんなことしたらダメでしょ 親の跡を継いで奴隷商人にはなったけど、両親のような残虐な行いはしません!俺は皆んなが行きたい家族の元へと送り出します。 え、新しく来た彼が全く理想の家族像を教えてくれないんだけど…。ちょっと、待ってその貴族の格好した人たち誰でしょうか ※独自の世界線

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

処理中です...