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第二十章

697 愛と孤独

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( アゼリア )


「 詳しい事は分かりませんが、先程学院の授業中に恐ろしい何かの気配を感じました。

そちらの様子はどうでしたか? 」


「 そうでしたか・・

こちらはほぼ全ての聖職者達が不調を訴え倒れました。

空の色が戻ると同時にそれもなくなりましたが・・


恐ろしい何かの気配とは一体何なのでしょうか・・?

これから各ギルドへと情報を送っておこうと思います。

ソフィア様、詳しいお話を伺っても良いでしょうか? 」


ヨセフ司教の言葉を受け、ソフィア様が学院であった出来事を詳しく説明すると、ヨセフ司教の顔は次第に険しいものへとなっていく。


「 聖職者にのみ影響を与えるとは・・

更にスキル< 鑑定 >を使うという事は、その謎の人物は聖職者である可能性もあると言う事ですか・・。

< 鑑定 >を使える者は未登録の者以外は全て教会に保管されてますので、一応調べておくべきですね。

しかし、グレスター卿の息が掛かった輩からその情報を開示してもらうのは、少々骨が折れますなぁ・・ 」


「 それならば問題ありません。

ジェニファー様にご協力をお願いいたしましたので。 」


ソフィア様のお答えに、ヨセフ司教はおぉ~??と意外そうな表情で動きを止めると、次の瞬間、ニマニマニマ~と目を三日月の様にして胡散臭い笑みを浮かべた。



「 おやおやおや~?

何だかソフィア様、最近色々と変わりましたよね?

明るくなったというか笑顔も増えた様な気がします。

人をこの様にガラリと変えてしまうモノは一つしかございません!



ーーーズバリ!!恋の病ですねっ!!?? 」



ズギャギャーーン!!と凄い熱量を込めて断言するヨセフ司教に、私とソフィア様は盛大なため息をついた。


このヨセフ司教、普段は大変有能で上にも下にも尊敬されている司教様ではあるが、人の恋路に関わる事だけはその有能さが発揮されない。

その為、多くを巻き込む盛大な余計なお世話をする事でも非常に有名なお方なのである。


それはプライベートだけならまだしも仕事にまで持ち込まれるので、つい最近では未婚の男女を集めて一緒に祈る『 お祈り来い・恋パーティー 』などというふざけたイベントを企画し、上層部から苦情が入った。


” 教会を訳の分からぬ事に使うな、無礼者 ” ーーーと。


至極真っ当過ぎる返答に対し周りは大いに納得したが、肝心のヨセフ司教はプンプンと子供の様に怒り狂った。

 ” こうなったら実力行使するしかありませんね! ” 

そんな訳のわからぬ事を言い出し、大量のカユジ虫を持って教会本部まで行こうとしたので、周りの部下たちがそのカユジ虫の一匹をソッ・・と取り出し、ヨセフ司教に投げつけ落ち着かせた事もあった。


だからこんな状況には慣れたもの。


そのため私とソフィア様はじっとりした目を向け、” また始まった・・・ ” と動じること無くヨセフ司教を見つめ落ち着くのを待った。


しかしそんなあまり好意的ではない私達の目など気にすることもなく、ヨセフ司教はニヤニヤ、ウロウロ~と私達の周りをうろつくので致し方なく私は口を開く。


「 ヨセフ司教・・ソフィア様にその様な者はおりません。

毎回毎回よく分からぬ邪推をしないで頂きたい。 」


「 ほほ~う?果たして本当にそうなんですかねぇ~?

そういえばアゼリア、お前もどうしたというのですか?その変わりようは?

まるで牙を抜かれたネコちゃん!


・・・はははは~ん???


もしやもしや~ーーーーー・・貴方も恋しちゃってますね!!? 」



ズビシッ!と指を私の頬に突き刺し、更に目が孤を描くのを見て・・・ピクピクとこめかみが蠢く。


ヨセフ司教は上司・・ヨセフ司教は上司・・・


ブツブツと呟きながら何とか気持ちを落ち着けていると、突然フッとヨセフ司教の纏う空気が変わった。



「 恋・・愛・・それは本当に素晴らしい感情です。

人を幸せに導く、生きるための希望となる事でしょう。

しかしーーーー 」


ヨセフ司教は、私の頬に触れていた指をゆっくりと外す。


「 それは人を新たな絶望へと追いやる原因にもなるのですよ。

その2つはまさに表裏一体!・・とても危うい感情だ。


そして希望を絶望に変える原因は ” 孤独 ” であると、私はそう思っています。


そして ” 愛 ” と ” 孤独 ” 

この2つは絶望的に相性が悪い。 」



ヨセフ司教は最後はポツリとそう言って天井に描かれているイシュル神の絵画を見上げた。



「 ” 愛 ” を知ってしまった者が ” 孤独 ” になること。

これは心に狂気を生み出します。

その狂気はいずれ自身だけではなく全てを飲み込むこの世で最も恐ろしいものへと進化してしまうのですよ。


それこそ、その全てを受け入れ共存できる人間がいたとしたら・・・

人はそれを ” 神 ” と呼ぶのでしょうね。


人が持ち続けるには大きすぎる感情だ。 」



上を向いて話し続けるヨセフ司教がどんな表情をしているのか私には見えなかったが・・

その直後、ふぃ・・と下がってきた顔は先程同様ニヤニヤ~とニヤついた不快極まりない笑顔であった。

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