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第二十章

693 間違えては駄目

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( アゼリア )



” 何で産まれてきたのかしらね?誰も望んでなんかいないのに!ほんと疫病神。 ”


” ちょっと遊んだだけだったのに・・。ーーはぁ~・・。

お前さえできなきゃ誰も嫌な思いしないですんだんだぞ?分かってるのか? ”


” 父を誘惑し財産や地位に目が眩んだ汚い女の子供。お前と同列などあり得ない。

視界に入るな。汚らしい混じりモノめ。 ”


沢山の私を拒絶する言葉達は心の奥底で根を張り、” 周りが認めてくれた! ”  ” 凄いって言ってくれた! ” そして誰かが ” そんな事はないよ ” と慰めてくれても、逃さないと言わんばかりに否定の言葉を囁き続ける。


それは何かにつけて現れては一瞬消え、現れては一瞬消え・・嫌な事があった時、迷いが生じた際は更に威力を増して襲ってくる。


弱みを見せればあっという間に襲ってくるそれが怖くて、だから周りには常に何でもないように振る舞い続けた。

” 私は何も思っていない。 ”

” 私は強いから大丈夫だ ” 

そう必死にアピールし虚勢を張る。



” 可哀想 ”

” 大変だね ”

” だからどうにかしてあげたいな ”

” 辛いなら辛いって言っていいよ ”


そう言われる度、思われる度に更に心は深く沈んでいく。


私が欲しかったのは ” 共感 ” やその境遇に関しての ” 違い ” を感じさせる言葉たちではなかった。


それなら暴言を吐かれている方がマシ。

同じ世界線に立っていると感じる事ができるから。



きっと私は普通じゃない。どうしようもなく歪んでいる。



” 世界 ” から見た自分という存在の歪みを認識すると、心の奥に根を張った想い達はまたあっという間に私を殺そうと絡みついて締め付けてきた。


” 普通 ” だったらここで素直に救いの手を伸ばし、助けてと素直に言えるのかもしれない。



でも私にはそれはできない。

” 歪み ” が救われる事を拒む。



その根本にある想いは ” 自分が嫌い ” ーーーーだ。



嫌いなヤツを助けたくない。

それが分かると、心の中に根を張り否定の言葉を掛け続けるモノの正体は・・・



” 自分 ” であるという事に気づいた。



気づいてしまった・・。




嫌いな ” 自分 ” を助けたくない

だから救われたくない







ーーーー何故??




更にボロボロと流れ出てきてしまった涙を止めようと、頭を抱え込みその場にしゃがみ込み目を閉じる。


そしてパチッと目を開くとーーーー・・・





私はいつの間にか狭い何もない空間に立っていた。





「 ・・・ここは? 」


その部屋の中は真っ白で、本当に何もない。

ドアどころか窓も。


狭い箱の中の様な場所?


そんな閉鎖空間に閉じ込められている事に恐怖をーーー不思議と感じない。

寧ろ心穏やかでどちらかといえば落ち着く様な・・そんな感情を持ちながら、漠然とこここそが自分のいるべき場所なのだと思えた。


” 外 ” を見る必要はない、その方が幸せ。

誰も入ってこれない、安全で安心できる場所だ。


それにホッとしていると、その空間の中に自分以外の ” 何か ” がいる事に気づく。

   ・・
いや、自分がいる事に気づいた。


・・
自分は「 あ~あ・・。 」と心底面倒くさそうに声を吐き出し、両手を頭の後ろで組むと、まるで古くから仲よくしている友人の様に馴れ馴れしく私に話しかけてきた。



『 世の中にはないほうが良いモノって結構沢山あると思わないか? 』


                     ・・・・・・・
『 ” そんな事ない! ” って言う奴らは、そうじゃない奴らだからな。

差し出される手の先に行っても奴らの ” 正しい ” 世界で ” 正しくないまま ” の自分を見続けるだけだろう? 』


『 ” 正しくない ” と思っているから人は手を差し出す。

そしてその自分の世界こそが ” 正しい ” と信じる世界に引っ張って、一生そいつは ” 正しくない ” 自分を否定され続けるんだ。 』


『 嫌いな自分のまま。自分を ” 正しくない ” ものとする世界で生きていくのは・・辛いだろう。 』



『 だから何も入れないここが一番いい。 』



全てを分かっていると言わんばかりの言い方に私は視線を下に向け、もう記憶も朧気な母について考える。



母は私のせいで全てを失った。

輝く様な未来全てを取り上げられ、不幸な人生を歩む羽目になったはずだ。



” 貴族のお手つき ”

” 貴族に取り入ろうとして失敗した売女 ”


そう言われて何処に行っても嘲笑われ、働き口もなかった母は当てもなく遠い遠い土地に行くしかなかったのだと思う。


誰がなんと言おうとそれが結果で、私がいなかったら母はそんな目に合わなかった。

         ・
押し黙る私に対し、私は満足気に微笑んで笑顔で拍手をする。


『 そうだろう、そうだろう。

これが ” 正しい ” のだからこのままでいい。


ーーあ~これで皆幸せだ!悪いのは私。後は考えなくていい。 』


「 皆幸せ・・・悪いのは・・・私・・ 」



まるで自分に言い聞かせるようにブツブツと口の中で呟いた、その時ーーーー耳元に小さな声が聞こえた。




” 大体不義の子のくせにっていうけど子供に一体何の罪があるんだい ”




耳元で聞こえた囁き声は段々と大きくなっていく。



” あんな無垢で純粋な存在に悪いところなんて一つもないさ ”


” もし不義の子が悪いものだっていうなら、それを生み出した親が悪いに決まっているだろう ”


” 何故原因である悪い親御さんの方を責めないんだい? ”



視線はゆっくりと上がっていき、眼の前にいる自分を見ると・・酷く焦っている様な表情を浮かべているのが見えた。

必死になって『 違う! 』『 悪いのは・・!! 』と大声で叫んでくるが、不思議な事に静かにささやく声の方が私の耳にはしっかりと聞こえる。




” 責められるべきは加害者、そんなの八つ当たり以外の何者でもない ”


” 恨みを抱く対象がそもそも間違っているんだ ”





” 怒りをぶつける相手を間違えちゃ駄目だ。絶対に ”


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