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第十九章
659 欲しかったモノ
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( マリオン )
” スタンティン家の両親が酷い事をしたんじゃないか? ”
” いや、弟が当主の座を狙って兄を陥れたのだろうよ、末恐ろしいな。 ”
” でも出ていった方の長男の方が優秀で正しかったから、そっちの方が上手くいっているなんて憐れなもんだ ”
そんな心無い言葉をどれほど浴びせられてきたか。
両親も俺もそんな声には一切負けず何百倍にして嫌味返しをしてやったが、実際にそう思われているという事実は変わらない。
俺たちは一生兄の自由のツケを払い続けなければならないのだ。
両親の塞ぎ込む姿を思い出しギリッ・・と唇を強く噛み締めていると、突然リーフ様が関心するように「 へぇ~! 」と明るい声を上げた。
” それは凄いじゃないか。
マリオンのお兄さんって事はまだまだ若いだろうに親元を出て一人で独立して、更に自分の店まで作っちゃうなんて中々できる事じゃないね。
そりゃ~マリオンもご両親も鼻が高い! ”
素直に驚いているリーフ様の様子がパッと目に浮かび、俺の目は点になる。
多分俺と同様にそうなったであろう取り巻き達が、” い、いえ・・そんな穏やかな話ではないと思いますけど・・ ” とゴニョゴニョと言い返したが、リーフ様は不思議そうな様子で言った。
” 子供の独立は結局親の一番の願いさ。
めちゃくちゃ寂しいし辛いけど、嬉しい!
複雑なんだよ、親心ってやつは。
そんな寂しさをグッと抑えて見送ったご両親は立派な人だよ。
でもそれを支えるマリオンが一番凄いと思うよ、俺は。 ”
本当に難しいんだよ・・とブツブツ言いながら大きく息を吐き出すリーフ様に、周りはもう何も言えない様子であった。
それを聞いた俺の方はというと、何だか一気に体中から力が抜けてしまい、真っ直ぐ前を向いていた顔が徐々に下へ下へと項垂れていく。
そして一人では立っていられなくて扉に頭をもたれるようにくっつけると、ポタッ・・・と水滴が床に落ちたのが見えた。
その水滴はポタポタ、ポタポタと雨の様に落ちていき床を濡らすと、やがてそれは自分の目から流れている事に気づき呆然とする。
涙ーーー兄が出ていった時も絶対に流さなかったのに・・・
慌ててゴシゴシと目元を剃って、俺は直ぐにその場から走り去って誰もいない学院の裏手の場所へと向かった。
キョロキョロと誰もいないことを確認し、俺は一本の木に背中をつけズルズルとその根本に腰を下ろすと、身体を丸めて膝に顔を埋め自身の気持ちと初めてしっかりと向き合う。
兄には兄の、そして両親には両親の考えがあった。
そして俺は俺で今まで大事にしてきたものや両親を全て否定し傷つける兄が憎らしくて悲しかった。
だから兄は自分の意見を我慢し、両親に従え。
そしてスタンティン家の従来のやり方で今後の人生を歩め・・
そんな俺の想いもやはり自分の意見を主張しているだけで、俺たち家族は皆自分の意見を通したくてぶつけ合って、そして結果、兄が去っていった。
そして今も尚、俺たちは全員自身の考える今の状況への不満を抱え、自分が正しいのだと必死に見えない敵と戦い続けている。
でも、リーフ様から見れば俺たちは誰も悪くなくて、寧ろそれで良かったのだという。
何だかそれが、自分の中で必死に負けないよう気負っていた何かを吹き飛ばしてしまった。
またボロボロと流れる涙を乱暴に手でぬぐい、濡れてしまった手をボンヤリと見下ろす。
俺にだってやりたいことが沢山あった。
本当は形に捕らわれない魔導具を好きなように作ってみたい。
でもそれを言えば両親を悲しませてしまうし、兄がいなくなった事で俺の肩にはスタンティン家の義務や責任が一気にのしかかってきてしまった。
俺にとって自分のやりたい事、夢は両親に悲しい想いをさせてまで叶える物ではなかったから、俺は両親と家を支えていく道を選んだ。
苦渋を飲みながらその選択をした俺の気持ちを理解してくれる人などおらず、
” 兄を蹴落とし次期当主の座を得た運の良い次男 ”
” 野心家で気が強い次期当主様 ”
などと無責任な言葉を散々ぶつけられてきたが・・・そんな俺を ” 凄い ” と言ってくれた。
せっかく拭いた涙はまたポロポロと目から溢れ、今度は俺の膝を濡らす。
きっとリーフ様の言葉は、俺がずっと欲しかった言葉だ。
” ありがとう ”
口に出して言えない言葉が次々と目から涙になって流れていった。
それからリーフ様との関係性は何か変わったのか?と言われれば何一つ変わらず、相変わらず顔を見かければあーだこーだと絡んではチクチクネチネチと嫌味を言ってしまう日々が続いた。
あれだけ今まで盛大に嫌がらせをしてきたのに今更どの面下げて・・と考えると態度や言動を改めることがどうしても出来ない・・
それでも何とか・・!と悩みに悩み、リーフ様に追いつき認めて貰おうと努力しても本人には勝てず、更にもっと厄介な存在がいるせいで、リーフ様の ” 凄い ” は常にそいつに独占されてしまう。
呪いの化け物
< レオン >
いや、化け物なんかでは生ぬるい。
その非常にインパクトのある外見すらも些細なものに感じてしまう程、レオンは強かった。
座学は100点、実技も100点
遥か上の実力を持つリーフ様の更に先が見えない程上。
いつの間にかNO・1はレオン、そしてNO・2はリーフ様、仲良く不動のツートップーーーが学院内の常識になってしまい、悔しくて悔しくて毎日地団駄を踏んだ。
” スタンティン家の両親が酷い事をしたんじゃないか? ”
” いや、弟が当主の座を狙って兄を陥れたのだろうよ、末恐ろしいな。 ”
” でも出ていった方の長男の方が優秀で正しかったから、そっちの方が上手くいっているなんて憐れなもんだ ”
そんな心無い言葉をどれほど浴びせられてきたか。
両親も俺もそんな声には一切負けず何百倍にして嫌味返しをしてやったが、実際にそう思われているという事実は変わらない。
俺たちは一生兄の自由のツケを払い続けなければならないのだ。
両親の塞ぎ込む姿を思い出しギリッ・・と唇を強く噛み締めていると、突然リーフ様が関心するように「 へぇ~! 」と明るい声を上げた。
” それは凄いじゃないか。
マリオンのお兄さんって事はまだまだ若いだろうに親元を出て一人で独立して、更に自分の店まで作っちゃうなんて中々できる事じゃないね。
そりゃ~マリオンもご両親も鼻が高い! ”
素直に驚いているリーフ様の様子がパッと目に浮かび、俺の目は点になる。
多分俺と同様にそうなったであろう取り巻き達が、” い、いえ・・そんな穏やかな話ではないと思いますけど・・ ” とゴニョゴニョと言い返したが、リーフ様は不思議そうな様子で言った。
” 子供の独立は結局親の一番の願いさ。
めちゃくちゃ寂しいし辛いけど、嬉しい!
複雑なんだよ、親心ってやつは。
そんな寂しさをグッと抑えて見送ったご両親は立派な人だよ。
でもそれを支えるマリオンが一番凄いと思うよ、俺は。 ”
本当に難しいんだよ・・とブツブツ言いながら大きく息を吐き出すリーフ様に、周りはもう何も言えない様子であった。
それを聞いた俺の方はというと、何だか一気に体中から力が抜けてしまい、真っ直ぐ前を向いていた顔が徐々に下へ下へと項垂れていく。
そして一人では立っていられなくて扉に頭をもたれるようにくっつけると、ポタッ・・・と水滴が床に落ちたのが見えた。
その水滴はポタポタ、ポタポタと雨の様に落ちていき床を濡らすと、やがてそれは自分の目から流れている事に気づき呆然とする。
涙ーーー兄が出ていった時も絶対に流さなかったのに・・・
慌ててゴシゴシと目元を剃って、俺は直ぐにその場から走り去って誰もいない学院の裏手の場所へと向かった。
キョロキョロと誰もいないことを確認し、俺は一本の木に背中をつけズルズルとその根本に腰を下ろすと、身体を丸めて膝に顔を埋め自身の気持ちと初めてしっかりと向き合う。
兄には兄の、そして両親には両親の考えがあった。
そして俺は俺で今まで大事にしてきたものや両親を全て否定し傷つける兄が憎らしくて悲しかった。
だから兄は自分の意見を我慢し、両親に従え。
そしてスタンティン家の従来のやり方で今後の人生を歩め・・
そんな俺の想いもやはり自分の意見を主張しているだけで、俺たち家族は皆自分の意見を通したくてぶつけ合って、そして結果、兄が去っていった。
そして今も尚、俺たちは全員自身の考える今の状況への不満を抱え、自分が正しいのだと必死に見えない敵と戦い続けている。
でも、リーフ様から見れば俺たちは誰も悪くなくて、寧ろそれで良かったのだという。
何だかそれが、自分の中で必死に負けないよう気負っていた何かを吹き飛ばしてしまった。
またボロボロと流れる涙を乱暴に手でぬぐい、濡れてしまった手をボンヤリと見下ろす。
俺にだってやりたいことが沢山あった。
本当は形に捕らわれない魔導具を好きなように作ってみたい。
でもそれを言えば両親を悲しませてしまうし、兄がいなくなった事で俺の肩にはスタンティン家の義務や責任が一気にのしかかってきてしまった。
俺にとって自分のやりたい事、夢は両親に悲しい想いをさせてまで叶える物ではなかったから、俺は両親と家を支えていく道を選んだ。
苦渋を飲みながらその選択をした俺の気持ちを理解してくれる人などおらず、
” 兄を蹴落とし次期当主の座を得た運の良い次男 ”
” 野心家で気が強い次期当主様 ”
などと無責任な言葉を散々ぶつけられてきたが・・・そんな俺を ” 凄い ” と言ってくれた。
せっかく拭いた涙はまたポロポロと目から溢れ、今度は俺の膝を濡らす。
きっとリーフ様の言葉は、俺がずっと欲しかった言葉だ。
” ありがとう ”
口に出して言えない言葉が次々と目から涙になって流れていった。
それからリーフ様との関係性は何か変わったのか?と言われれば何一つ変わらず、相変わらず顔を見かければあーだこーだと絡んではチクチクネチネチと嫌味を言ってしまう日々が続いた。
あれだけ今まで盛大に嫌がらせをしてきたのに今更どの面下げて・・と考えると態度や言動を改めることがどうしても出来ない・・
それでも何とか・・!と悩みに悩み、リーフ様に追いつき認めて貰おうと努力しても本人には勝てず、更にもっと厄介な存在がいるせいで、リーフ様の ” 凄い ” は常にそいつに独占されてしまう。
呪いの化け物
< レオン >
いや、化け物なんかでは生ぬるい。
その非常にインパクトのある外見すらも些細なものに感じてしまう程、レオンは強かった。
座学は100点、実技も100点
遥か上の実力を持つリーフ様の更に先が見えない程上。
いつの間にかNO・1はレオン、そしてNO・2はリーフ様、仲良く不動のツートップーーーが学院内の常識になってしまい、悔しくて悔しくて毎日地団駄を踏んだ。
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