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第十九章

657 勝ちたい気持ち

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( マリオン )


美しさに絶大な価値観を持ち、自分たち以外の人間は楽しむための玩具か何かだと思っているメルンブルク家。


それは日常的に交わされる発言や行動、態度からも嫌というほど理解でき、何度かお会いした時は正直狂人としか思えなかった。


人の不幸が大好きで大好きで仕方がない!!


それが全身から溢れて止まらない様な気質をその全員が持っていて、その最高のショーを見るために彼らは何でもやる。


やり方は非常に狡猾、残忍、残酷、非情・・・一切の情など持ってはおらず、逆らう者は容赦なく消し去る。


証拠を作り上げて没落は可愛いもの。

脅迫、暴力、暗殺・・何でもありなのに、証拠ごとすべて消し去る奴らを罰する事は酷く難しい。



” 巨大悪 ”

” 悪のカリスマ ”



こんな途方もない ” 悪 ” 相手では誰もが口を閉ざし従うしか無い、そんな彼らの唯一の弱点。

それが< リーフ様 >だ。


自分たちを ” 正義の神の遣い ” だの声高々に上げるメルンブルク家は世間体をとても大事にしているため、リーフ様に直接手を下す事は出来ず、かといって共に暮らす事もできず、その結果レガーノに捨てたという所だろう。


俺としても ” 付き合う価値もない汚らしい不義の子供 ”


そんな価値しか見出すことはできず、そんな思いを抱いたまま初めての出会いを果たす事になったわけだが・・


身の程を解らせてやろうと挑んだ最初の出会いは俺の完全なる敗北で終わってしまった。


なんと言ってもその肝心の最初の出会いが ” 呪いの化け物 ” に背負われての通学だ。


そんな度肝を抜かれる登場をされてしまえば、先制パンチを仕掛けようとしていた手は完全に止まってしまい、初日は一切の接触はできず無言の帰宅。


気を取り直し、呪いが伝染しないと確信がとれたその数日後、今度は自身の取り巻き連中をゾロゾロと引き連れてリーフ様に挨拶という名の先制パンチを食らわせに行った。


” 公爵家といえど貴様は不義の子であり名ばかり貴族 ”


” この正式な伯爵家の跡取りであるマリオンに今後逆らうな ”


そんな意味合いを込めた挨拶をしに行ったのだが、結果、俺はまたしても完全なる敗北を叩きつけられてしまう。


チクチク、ネチネチと剣で突き刺すような嫌味の数々は全てひらりひらりと舞い落ちる落ち葉の様に躱されて・・いや、意味が通じていないのか?と感じる節もあり、とにかく思い描いた様な会話にならない。


業を煮やした俺が ” リーフ様がご両親と似てないのは本当の子供ではないからですよね!! ” とつい怒鳴り散らす様に言ってしまうとーーー


” ーーーしっ!! ”


人差し指を口につけながら、更に俺の口を空いている方の手でパパーーンッ!!と塞いでくるリーフ様。

その突然の行動に ” ーーッ!!フゴッ!! ” と上げたこともない様なくぐもった声を上げてしまった。


感情的になり怒鳴ってしまったこと。

そして突然口を塞がれるという屈辱・・


その2つの ” 初めて ” により顔を真っ赤にして怒りに震えていると、突然リーフ様はこしょこしょと内緒話をするように小さな声で言った。



” そうそう、実は全然似てないんだけどね。

それ言うと多分傷つけちゃうからさ。シーッで頼むよ。 ”



キョロキョロ、チラチラっと俺の取り巻き達の様子を気にしながらピュピュ~♬と口笛を吹いてごまかそうとするリーフ様を見て、” 俺はお前を傷つけたかったんだ!! ” と怒りのまま心の中で叫んだ。


それでもめげずに毎日チクチクグサグサと顔を見れば嫌味と暴言の嵐を浴びせ続けた俺に対し、最初周りの生徒達は全員が俺の味方であった。


なんといっても初日から ” 呪いの化け物 ” を連れてきたと思えば常に後ろに控えさせ毎日学院に連れてくるのだから、全員がーー


” 貴族の平民への嫌がらせ ”

” 化け物を連れてきて怖がっている様子を見ては楽しんでいる ”


そう思っていたからだ。



勿論俺もそう思ったし、流石は血が半分とはいえメルンブルク家の人間だなと心底軽蔑する目で見ていたのだが、段々と周りの反応は変わっていった。


” 別に無茶な命令もしたりしないし、様子がおかしくない? ”

” いつもあの化け物に負けているのに怒らないよね ”

” 無茶な事も言ってこないし普通だよね。寧ろ・・ ”


恐怖する目から徐々に興味や関心が色濃く出た視線へと変わっていけば、取り巻き達も徐々にリーフ様に対し何か言う事に消極的になっていく。



それに対し俺はカッ!となった。



何故このマリオンがあんな捨てられた子供なんかに負けるのか?

俺は完璧でなければならないのだ。


あんな貴族らしからぬ自分勝手に生きている様な奴に負けるものか!!


その時、俺の脳裏に浮かんでいたのは、自由気ままに出て言ってしまった兄の姿であった。


俺はリーフ様に勝ちたくて勝ちたくてしかたがなくて、自分でもどうかと思うほどリーフ様に対し酷い態度と扱いをし続けたと思う。


そしてそれはリーフ様の側に控える2人の低位貴族にも向き、

” そいつらにそっぽを向かれればリーフ様は悲しむだろう ”

そんな思惑から俺はリーフ様の取り巻き2人、男爵家のモルトとニールを呼びつけ高慢ちきに言いきかせてやった。

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