上 下
669 / 1,001
第十九章

656 スタンティン家の主張

しおりを挟む
( マリオン )



エドワード派閥に完全に入りたくない我が家としては事を荒立てる事なく、そのエドワード派閥のトップに対し緩く線を引けたわけで結果としては良い機会にもなった。


胸糞の悪いあの性悪一家を思い出し、ざまあみろと言わんばかりに、はっ!と鼻で笑いながらも、今後その強大なエドワード派閥の者達とどう付き合っていくべきかと考えると頭が痛い。


ふぅ・・とため息をつき、お茶をもう一口ゴクリと飲み込んだ後、父は気まずそうに口を開く。




「 マリオン・・お前も既に準成人となった。

今度はこの国の様々な情勢について理解を深めていかなければならない。

そしてそんな中、我がスタンティン家はどう在っていくべきかも決めていかなければならなくなるだろう。


これは非常に難しく辛い選択が沢山存在するはずだ。


・・もしもう一度生まれ変われるなら迷いなく平民を選ぶほどには、な? 」



気まずい空気を和らげるため軽くジョークで話を締める父様に、母様はいくらか空気を和らげクスリと笑う。



我がスタンティン家は身分に重きを置く身分至上主義・・よりは大分緩和した、いうなれば身分尊重主義・・とでも言おうか。

とりあえずハッキリしている事としては過激な身分至上主義を主張するエドワード派閥とは一線を引いた非常に不安定な位置を現在まで何とかキープしている。



スタンティン家は代々魔導具やトラップ制作など、この世界に欠かすことの出来ない物作りを生業にし繁栄を続けてきた名家で、

その商業戦略としては ” 貴族にのみに売る ” 事で高いブランド力を生み出し事業を爆発的に大成功させた。



身分に重きを置く貴族にとってこのブランド力は大変魅力的であり、現在まで絶大な支持を得ているのだが・・

問題は貴族のほとんどがエドワード派閥の者達であると言うことである。



エドワード派閥はこの国を動かす国の重鎮から末端の貴族達まで貴族の9割ほどを取り込み、極端な身分にたいする思想の元、非常に巨大な権力を持っていた。


そんな大きすぎる権力を前に致し方なく加入せざるを得ない者達も多い。


それを断る事で自身の家、家族のみならず治めている領民や事業に携わる全ての者達の生活、下手をしたら命まで奪う結果になるかもしれないのだから、それは致し方ない。


中には我が家と同様にある程度力を持った貴族達は我々同様のらりくらりとその派閥に入ることに抵抗し続けているがーーー


このまま王位争いが苛烈化し、エドワード派閥が力をつけていけば全員がエドワード様に従う他なくなるだろう。



つまり、もしこのままエドワード派閥に加入を拒めば・・恐らく我が家は近い将来潰される。


貴族達に命じ、魔導具を買わせない様に手を回されてしまえば打つ手がなくなるからだ。



「 ・・・・・。 」



近い将来 ” 選ぶ ” 時が来る。

その覚悟をしなければならない時は近い。



俺は手に持つカップへ視線を落とし中で揺らめく飴色の紅茶を見つめると、ゆらゆらと揺れる水面がこれからの未来を示している様で・・何とも嫌な気分になった。




エドワード様の掲げる身分を尊重する価値観と我が家が掲げるそれは、同じ方向を向いてはいるが全く異なるもので、

” 貴族と平民は身分の違いを意識しその線引きはしっかりとするべきである ”

同じなのはここまで。

それから先は完全に道が別れている。




そもそも貴族とは全体を見据え人々を纏め導くための存在であり、本来そこには自由などない。

発言の自由も人付き合いも婚姻も、領地と領民達を守るため全てを犠牲にする生活が強いられる。


自身のたった一言の発した言葉で戦争を引き起こす可能性もあるし、交渉が上手くいかなければ犠牲者を出してしまう程の損害を出してしまう事だってある。


更に婚姻は自身の家や領に利益がある者と縁を作る為のモノであるし、更に有事の際は兵を導いて前線へと戦いに行かなければならない。

そのため幼き頃からありとあらゆる英才教育が施され、遊ぶ時間など一秒たりともとったことなどないーーにも関わらず、これで立場も暮らしも同じでは、貴族は家畜にも劣る存在ではないかと少なくとも俺は思う。



だからこそ、

” 貴族は貴族のメリット、デメリットを平民は平民のメリット、デメリットを理解し、その上でお互いの義務を果たそう ” 

それが我がスタンティン家の身分尊重主義の主張なのだ。


デメリットなしにメリットだけを望む者達は、貴族だろうと平民だろうと数多く存在しているが、それを望む貴族がトップ層にウジャウジャいるエドワード派閥には加担したくはない。


そのためこのままを望んでいるのに・・世はそれを許してくれないらしい。



揺らめく紅茶を見つめていると酷く歪んでいる自分の顔が写り、そこでようやく自分の手が小さく震えている事に気づいた。



俺は両親に気づかれない様にソッとテーブルに紅茶のカップを置くと「 分かっております。 」と動揺を隠しながら告げる。



恐らく俺のそんな動揺などとっくにお見通しであろう父様は困った様に笑ったが、あえて見て見ぬふりをしてくれて、それに安堵しながら俺はリーフ様の事を思い出していた。


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【R18】異世界で傭兵仲間に調教された件

BL / 連載中 24h.ポイント:163pt お気に入り:490

骸骨公爵様と聖女の約束

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,670pt お気に入り:452

自分の恋心に気づかない勇者✕転生したら淫魔だった主人公

BL / 連載中 24h.ポイント:92pt お気に入り:392

竜王妃は家出中につき

BL / 連載中 24h.ポイント:234pt お気に入り:3,038

その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:312pt お気に入り:769

White cat in Wonderland~その白い猫はイケメンに溺愛される~

BL / 連載中 24h.ポイント:106pt お気に入り:62

綺麗じゃなくても愛してね

BL / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:1,048

超越者となったおっさんはマイペースに異世界を散策する

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:284pt お気に入り:15,831

処理中です...