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第十九章

654 スタンティン家

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( マリオン )



「 マリオン!お前が先日作った ” オルゴール ” 凄いじゃないか!

今、どこの貴族からもそれを求めて注文の連絡が殺到している。

特にあのメルンブルク家のマリナ様も大層気に入ったそうでな、これからもっと増えるだろう。

流石は我がスタンティン家の次期当主、よくやってくれた。

これからも期待しているぞ。 」



「 ありがとうございます。父様。 」



淡いピンク色の髪にストレートの髪を後ろにしっかりと撫でつけ、キリッとした目元にスッと高い鼻、スラリとした体格に文句の付け所がないくらい凛とした美しい姿勢。

まさに付け入る隙などない完璧な貴族といえる男。


伯爵【 スタンティン家 】現当主


< オルガノ >



この俺、マリオンの実の父親でもあるオルガノは息子の俺から見ても完璧な人物で、魔導具を作る技術力も貴族を相手にした交渉術や社交界を渡っていく処世術もまだまだ足元にも及ばないと思わされる最も尊敬する人の一人である。


そんな父に褒められ嬉しくない訳がないが、貴族としてそれを表情に大きく出す事はせず、あくまで冷静に淡々とお礼を告げた。


それを見て父様は満足そうに微笑み、近くに設置されているソファーへ座るように勧められる。


それに逆らう事なく腰を掛けると、父もそれに続いて向かい側にあるソファーへと座り、後ろに控えていた母もそれに続いて父の隣に座った。



「 本当に素晴らしいわ、マリオン。

貴方はこのスタンティン家の・・いえ、この母の誇りよ。

我がスタンティン家の歴史上最も優秀で素晴らしい当主となってくれるでしょう。 」


橙黄色のサラサラヘアーをしっかりと上にUPし、父同様凛とした美しい姿勢に堂々たる態度。

華奢な体格だがくっきりとした印象的な目元と漂う高潔な雰囲気に弱々しさは一切感じられない女性。



伯爵【 スタンティン家 】現当主の妻


< アリシア >



俺の母であるアリシアはまさしく貴族の女性の鏡とも言える貞淑で賢い女性で、常に父の一歩後ろで夫を立て、社交界ではしっかりと妻としての役目を完璧にこなす。

そんな非の打ち所がない完璧な貴族女性であった。


俺はそんな二人の息子として生を受け、今の今までそれに恥じない様努力をしてきたつもりだ。


母様からの称賛の声に対しても「 ありがとうございます。 」と淡々と答え、俺は侍女が用意したお茶に口をつける。



そんな俺を見て母も嬉しそうに微笑み、父はハハッ!と朗らかに笑いながら侍女たちを下がらせた。



「 まさか宝石箱と音楽を一緒にするなど考えもしなかったぞ。

一体どこでそんなアイディアを思いついた? 」




ワクワクしながら尋ねてくる父様。

魔導具の話の時だけ父はまるで少年の様に好奇心旺盛な面を見せる。


それについて特に隠し立てする気もなかったので、俺は直ぐに「 リーフ様に教えて頂きました。 」と答えた。


すると父様と母様は表情にハッキリとは出さずとも、気まずそうな雰囲気を出し動きを一瞬止める。


シン・・と静かになった部屋の中で、父様は眼の前のテーブルに置かれているカップに手を伸ばし、中の紅茶に口をつけた。



「 メルンブルク家のリーフ様か・・。 」


そう言って口ごもる父様と目を伏せわずかに眉を寄せる母様。

二人が何故こんなにも気まずそうにしてしまったのか、その理由はなんとなく理解している。


リーフ様は不義の子


そしてたった一人で家族に捨てられてしまったいらない子供だからだ。



それは小学院前に初めて父様からレガーノの学院に通うであろう公爵家の< リーフ様 >の絵を見せられた時に直ぐに気づいた。


茶色い髪に緑色の瞳、そしてどこにも突出した特徴のない容貌・・

唯一覚えられそうな特徴がそばかすだけというメルンブルク家の血筋など何一つ感じない容姿を見ればそんなもの嫌でも気づく。


多分それを気づかせるため父様は事前に俺にそれを見せ、そして今後の付き合い方は自分で決めよという意図を持っていた様だが、俺の答えなどとうに決まっていた。



” 捨てられた高位貴族の子 ”


” 将来我が家にとって何のメリットもない相手 ”



ならば付き合い自体する意味がない。



当時の俺は、フッと鼻で笑って差し出されたリーフ様の絵をビリビリに破いた。



同時に提示された調査書によれば公爵家の子息というのに護衛は若い女が一人、更に使用人は数人に家庭教師もたった二人。

男爵家でももっとマシだという暮らしをしているようで、勿論一度としてメルンブルク家の人間はレガーノの家を尋ねることも手紙一つもよこすことはないらしい。



とるに足らない相手、かつ将来は平民落ちするであろうデメリットだらけの者

そんなヤツをこのマリオンが相手するわけがない。



そんな思いと共に破いてしまった絵を床に落とし、そのゴミを呼びつけた侍女に片付けさせると、父様は小さく息を吐き出し「 お前の好きにしなさい。 」と何とも言えない表情で言った。

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