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第十七章

628 汚れてしまった世界、崩れてく世界

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( カール )



” 貴殿のご子息の言い方が悪かったのではないか?! ”


” いやいや、貴殿のところのご令嬢がリーフ様の機嫌を取り損ねたのが原因だろう! ”



ギャーギャーと醜く罵り合う、先程まで笑い合っていた良き同志達。

それを見てクッと小さく笑ったフランはさっそうとその場から去っていった。


この事件のせいで、今まで強固に繋がり合っていたエドワード派閥に不穏な風が吹き、モヤモヤとした雰囲気が今も尚漂っている。


特に辺境伯のライロンド家とは今まで非常に懇意にしていたのだが、此度のことでその仲に小さな亀裂が入った事は間違いない。


それもこれも全てはあの忌々しい邪神の子のせい!


その事を考えると頭がズキズキと痛くなってきてしまい、思わず頭を抱えた。





ーーーーーじわり・・じわり・・




恐ろしい何かが近寄ってくる音がする。


は破滅を抱えて、勇ましく世の ” 悪 ” と戦い続ける我々メルンブルク家を飲み込もうと今か今かとチャンスを伺っているのだ。



怒りと恐怖でブルブルと震えていると、グリードが真っ青な顔色のまま静かに話し始める。



「 そして一番我がメルンブルク家を追い詰める事実は、そんな歴代最高点をとったにも関わらず ” 次席 ” である事です。


首席はアレが奴隷にした呪われし化け物・・邪神の使い魔的な存在であるそうではないですか。


それはつまり、本来アレは満点をとるほどの実力があるにも関わらず、わざと自身の奴隷にそれを取らせたという事になります。


” 奴隷に負けたメルンブルク家 ”


そのような最大限の侮辱を与えるためにそんなふざけた ” お遊び ” を思いついたのでしょう。

・・・なんと何十にも張り巡らされた悪意ある復讐なのでしょうね。


俺はただただ恐ろしい・・・


そのせいで俺のプライドはズタズタ。

弟だけでなく ” 奴隷 ” にすら負ける公爵家だともいわれてるのですよ。


我々は。 」



グリードは親指の付け根辺りを噛み、私同様ガタガタと震えだす。



「 ・・・・・。 」



私はなんとかそんな震えるグリードを慰めてあげたかったが、新たに湧いて出た怒りによって視界は真っ赤に染まり何も見えなくなってしまった。

必死に冷静になろうとしても生まれて初めて与えられた酷い侮辱に自身の体は次第に大きく震えだし止めることができない。



” 奴隷 ” が首席。


そんなとんでもない事までしでかした邪神の使い。


数年前に呪い付きの化け物を側に置きたいと言われた時は酷く喜び、即刻OKの返事を返したが・・

期待していた呪いはアレにかかることはなく、憎らしい程にピンピンとしている様だ。


今思えばそれもアレの復讐の一つだったのだろう。



” 呪いを引き込もうとした公爵家 ” 

そんな汚名を着せるための己の命をかけた嫌がらせは見事に成功し、更には中学院まで受験させ首席の席に座らせる・・


もはやその復讐は我々だけに留まらず、必死にこの国を良くしようと切磋琢磨する ” 正しき ” 貴族達全員の顔に泥を塗ったのだ。


我々家族もそれにより地獄へ叩き落されようとしている。



私はガタガタと震えながら、「 復讐・・ 」「 ・・復讐だ・・ 」と呟き続ける痛ましい姿のグリードを見て、この場にはいない他の大事な家族の事を想う。



心を痛め、ベッドに臥せたきりになっている愛する妻のマリナ。

同じく周囲の心無い言葉の数々に傷つき悲しみにくれる愛する娘、シャルロッテ。

家族の苦しむ姿を見て辛そうに泣く末息子のジョン。

そして眼の前で様々な悪意に晒され苦しんでいる愛する息子のグリード。



身を切り裂かれる程の憎しみ、憎悪ーーー


心の底からそんな想いが溢れて飛び散れば、今度はそんな汚れてしまった ” 世界 ” に対し、憐れみの気持ちが覆いかぶさってきた。



すると心は恐ろしい程静まりかえり、私は自身の使命を思い出す。



神により与えられた我々にしかできない使命を・・





そしてーーーーその準備は既に完了しているという事も



震えが完全におさまった手でとうとう泣き出してしまったグリードを強く抱きしめ、私は安心させるよう、子守唄を歌うような優しい声で言った。




「 グリード、安心しなさい。


もうすぐ汚れてしまった ” 世界 ” は直ぐにキレイになるからね。


グリモアを選んでおいて本当に幸運だった。

・・これも神のお導きか。


我々は待つだけでいい。


そうすれば、今度こそ本当の家族に戻る事ができるから。 」




「 神の・・?グリモアを選ぶとは?

父上、一体何の話をなさっているのですか? 」



不思議そうにそう尋ねてくるグリードにフフッと笑い、私は内緒話をする様に小さな声で囁いた。




「 もうすぐグリモアは跡形もなく消え去るだろう。


黒い神の怒りが我々を苦しめるモノ全てに天罰を与えてくれるよ。




もう、誰にも止める事はできない。  」



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