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第十六章
602 父の望み
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( ジェニファー )
そうして支度を終えた私は、本日の父からの贈り物であるバラのブローチといつも通りの真っ赤で派手なドレスを身に纏い、クラークと共に馬車に乗り込む。
「 …………。 」
「 …………。 」
クラークとは向かい合わせに座り、お互い黙ったまま窓の外を見つめた。
流れゆく景色は変わり映えのしないモノで特に興味もない。
しかし何となくその景色をボンヤリと眺めながら、本日の予定について考え始めた。
現在向かっている先は『 メルンブルク家 』が暮らす豪邸で、本日はその家のご長女────< シャルロッテ >様の開催するお茶会に参加する予定だ。
シャルロッテ様からのお誘いはこれが初めてではなく、元々新しいドレスやアクセサリーなどを購入した際は必ずといっていいほど派手なお茶会やパーティーを開くので、何度もそのお誘いはあった。
【 公爵家 】ともあれば断るという選択肢は残念ながらない。
漏れそうになったため息を飲み込み視線を前に移すと、クラークの非常に不機嫌そうな顔が目に入ったため私はそれを嗜める。
「 クラーク、貴族の子息たる者感情を外に出しては駄目よ。
ましてや今から向かうのはあのシャルロッテ様の主催したお茶会……気を引き締めなければあっという間につけ込まれるわよ。
昔から貴方は感情が出やすい所はあったけど、学院に通うようになってからより一層酷くなった様な気がするわ。
自覚はある? 」
「 ────!!も、申し訳ありません……。
気をつけてはいるのですが、あのシャルロッテ様にお会いするかと思うと……。 」
ハッ!としたクラークが慌てて気を引き締めながら謝罪を口にしたが、やはりその表情は晴れないまま。
私はそれに今度こそため息を漏らしてしまった。
< シャルロッテ・ジュリー・メルンブルク >
女神すら見惚れると言われているその母、< マリナ・ジュエリー・メルンブルク >と瓜二つの容姿を持ち、誰もが魅了されるほどの絶世の美を持つ美しい少女。
しかし────……その中身は世にあふれている汚物を全て集めても足りない程、醜悪なものであった。
” 人の不幸こそ最高の喜劇である ”
そんな想いを根幹に持っている性格のシャルロッテ様は、その喜劇を楽しむ為に様々な場所でアクションを起こしてはトラブルをわざと生み出す。
お茶会やパーティーではターゲットを決めると、自身の取り巻きやその美しさに群がる蝿の様な男達を匠に誘導し、徹底的に叩き潰しては後ろでほくそ笑むのが彼女のお決まりのパターン。
それを見せられているこちらは何一つ楽しい事などなく、寧ろ気分は最悪なのにそれに気づかないのか……いや、そもそも関係ないのだろう。
自分の ” 楽しい ” 以外のモノはどうでもいい。
それこそ、自分以外をゴミと同列だと思っているため、私達がどう思おうが気にもならない、そういう事だ。
暗く沈んでいく気持ちを完璧に隠し、口を閉ざしたままのクラークに向かい静かに言った。
「 早く慣れなければいけないの、貴方も、私も。
私達はあちら側の人間にならなくてはならないのだから。 」
クラークは私の言っている言葉の意味を正しく理解した様で「 ……はい。 」と返事を返した後、僅かに視線を下げた。
痛いくらいの沈黙が続く馬車の中、私は静かに手に持っている扇子をパッと開き口元を隠す。
父が本格的に第一王子エドワード様の派閥と関係を結ぼうとしている。
そしてクラークの父< ロイド >と母< ローズ >に至っては、とっくにその派閥に……。
もし本格的に父がその派閥に入れば、これから増々エドワード派閥の動きは活発化するだろう事は、ライトノア学院の試験日に起きた『 ソフィア様の暗殺未遂事件 』で思い知った。
本来馬車につけられていた筈のモンスターを寄せ付けない為の< 回避珠 >が、逆にモンスターを引き寄せる< 魔引力珠 >にすり替わっていたという事件。
かなり高度な隠蔽工作がされていたらしい< 魔引力珠 >から、大きな組織が動いた事は間違いない。
犯人は────……?
私はゾッとし現実から目を逸らす様に目線を下に下げる。
学院の受験日の前日、私は父から一通の手紙を受け取った。
そこにはいつもと同様に私を気遣う内容や試験に関しての激励などか書かれていたのだが……他にはこんな事が書いてあった。
” 受験日当日にソフィア様を会場入りさせない様、妨害する ”
” グリモアで不安になっている街の人々の精神的支柱、< 聖女 >になるのはお前に決まるだろう ”
そして最後には ” 絶対にお前を幸せにしてみせるよ ” という言葉で手紙は締めくくられていた。
その ” 妨害 ” がまさか、その命まで奪おうとするものだったとは夢にも思わず……。
聖兵士団から急遽連絡を受けたクラークに耳打ちされて、思わず震えてしまった。
幸いな事に未遂に終わり、犠牲者も出なかったようでホッと胸を撫で下ろしたが、私はこの時、もう戻れない所まで父が行ってしまったのだと悟る。
” ソフィア様を殺して私が聖女になる ” それを父は望んでいるのか……。
そうして支度を終えた私は、本日の父からの贈り物であるバラのブローチといつも通りの真っ赤で派手なドレスを身に纏い、クラークと共に馬車に乗り込む。
「 …………。 」
「 …………。 」
クラークとは向かい合わせに座り、お互い黙ったまま窓の外を見つめた。
流れゆく景色は変わり映えのしないモノで特に興味もない。
しかし何となくその景色をボンヤリと眺めながら、本日の予定について考え始めた。
現在向かっている先は『 メルンブルク家 』が暮らす豪邸で、本日はその家のご長女────< シャルロッテ >様の開催するお茶会に参加する予定だ。
シャルロッテ様からのお誘いはこれが初めてではなく、元々新しいドレスやアクセサリーなどを購入した際は必ずといっていいほど派手なお茶会やパーティーを開くので、何度もそのお誘いはあった。
【 公爵家 】ともあれば断るという選択肢は残念ながらない。
漏れそうになったため息を飲み込み視線を前に移すと、クラークの非常に不機嫌そうな顔が目に入ったため私はそれを嗜める。
「 クラーク、貴族の子息たる者感情を外に出しては駄目よ。
ましてや今から向かうのはあのシャルロッテ様の主催したお茶会……気を引き締めなければあっという間につけ込まれるわよ。
昔から貴方は感情が出やすい所はあったけど、学院に通うようになってからより一層酷くなった様な気がするわ。
自覚はある? 」
「 ────!!も、申し訳ありません……。
気をつけてはいるのですが、あのシャルロッテ様にお会いするかと思うと……。 」
ハッ!としたクラークが慌てて気を引き締めながら謝罪を口にしたが、やはりその表情は晴れないまま。
私はそれに今度こそため息を漏らしてしまった。
< シャルロッテ・ジュリー・メルンブルク >
女神すら見惚れると言われているその母、< マリナ・ジュエリー・メルンブルク >と瓜二つの容姿を持ち、誰もが魅了されるほどの絶世の美を持つ美しい少女。
しかし────……その中身は世にあふれている汚物を全て集めても足りない程、醜悪なものであった。
” 人の不幸こそ最高の喜劇である ”
そんな想いを根幹に持っている性格のシャルロッテ様は、その喜劇を楽しむ為に様々な場所でアクションを起こしてはトラブルをわざと生み出す。
お茶会やパーティーではターゲットを決めると、自身の取り巻きやその美しさに群がる蝿の様な男達を匠に誘導し、徹底的に叩き潰しては後ろでほくそ笑むのが彼女のお決まりのパターン。
それを見せられているこちらは何一つ楽しい事などなく、寧ろ気分は最悪なのにそれに気づかないのか……いや、そもそも関係ないのだろう。
自分の ” 楽しい ” 以外のモノはどうでもいい。
それこそ、自分以外をゴミと同列だと思っているため、私達がどう思おうが気にもならない、そういう事だ。
暗く沈んでいく気持ちを完璧に隠し、口を閉ざしたままのクラークに向かい静かに言った。
「 早く慣れなければいけないの、貴方も、私も。
私達はあちら側の人間にならなくてはならないのだから。 」
クラークは私の言っている言葉の意味を正しく理解した様で「 ……はい。 」と返事を返した後、僅かに視線を下げた。
痛いくらいの沈黙が続く馬車の中、私は静かに手に持っている扇子をパッと開き口元を隠す。
父が本格的に第一王子エドワード様の派閥と関係を結ぼうとしている。
そしてクラークの父< ロイド >と母< ローズ >に至っては、とっくにその派閥に……。
もし本格的に父がその派閥に入れば、これから増々エドワード派閥の動きは活発化するだろう事は、ライトノア学院の試験日に起きた『 ソフィア様の暗殺未遂事件 』で思い知った。
本来馬車につけられていた筈のモンスターを寄せ付けない為の< 回避珠 >が、逆にモンスターを引き寄せる< 魔引力珠 >にすり替わっていたという事件。
かなり高度な隠蔽工作がされていたらしい< 魔引力珠 >から、大きな組織が動いた事は間違いない。
犯人は────……?
私はゾッとし現実から目を逸らす様に目線を下に下げる。
学院の受験日の前日、私は父から一通の手紙を受け取った。
そこにはいつもと同様に私を気遣う内容や試験に関しての激励などか書かれていたのだが……他にはこんな事が書いてあった。
” 受験日当日にソフィア様を会場入りさせない様、妨害する ”
” グリモアで不安になっている街の人々の精神的支柱、< 聖女 >になるのはお前に決まるだろう ”
そして最後には ” 絶対にお前を幸せにしてみせるよ ” という言葉で手紙は締めくくられていた。
その ” 妨害 ” がまさか、その命まで奪おうとするものだったとは夢にも思わず……。
聖兵士団から急遽連絡を受けたクラークに耳打ちされて、思わず震えてしまった。
幸いな事に未遂に終わり、犠牲者も出なかったようでホッと胸を撫で下ろしたが、私はこの時、もう戻れない所まで父が行ってしまったのだと悟る。
” ソフィア様を殺して私が聖女になる ” それを父は望んでいるのか……。
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