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第十五章

581 気持ちは分からないでもないが?

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( カルパス )


「 ずっと四つん這いになっていたから、膝と……何より叩かれた尻がまだ痛い。 」


体格のいい大の大人が、まるで幼子の様にソファーの上で膝を抱えて座っている。

更にブツブツと恨み言の様な事まで呟きだした為、そのうっとおしさに私は大きく息を吐き出した。


「 無垢な少年にふしだらな世迷い言を吹き込むからだろう。

本来は死刑に相当する大罪だ。

それで済んだ事を、イシュル神様に感謝すると良い。 」


「 あ、あれは、俺はレオンの事を思ってだな~! 」


全く……ともう一度息を吐き出し睨みつけてやると、ドノバンはバッ!!と顔を上げ、小鳥の様にピーピーとわめき出したが────私の蔑む目に耐えきれず、また膝を抱えて丸まる。

更にグスングスン……と、わざとらしい鼻を啜る音まで聞こえ、私は痛みだした頭を労わる様に擦った。


「 まぁ、お前の考えている心配事は理解しているがな……。 」


浮き彫りになった問題について考え、私はもう一度大きなため息をつく。



────恐らくレオン君は、また強くなった。

しかし、その強さはどのくらいのモノなのかは不明。


” 測る ” という概念がそもそも存在しない程のレベルなのではないだろうか……?

そう思ってしまうほど別次元の強さを持っているかもしれない。


初めてリーフ様がレオン君を連れてきた時、そして側で生活し続けた日々、奴隷になってからの事。
                               ・・・・・・・・
その全てを出来る範囲で見張ってきたが……どうもレガーノという、完結していた環境から出た直後くらいから、また急速に変化した気がする。


そこから考えるに、恐らくそのトリガーは『 感情 』

そしてその『 感情 』を引きずり出しているのは────……。


一向に収まらない頭の痛みに、私はこめかみを念入りに揉み込んだ後、手を引っ込めた。

すると、だらしなくダラ~と手足を投げ出しソファーに身体を預けたドノバンが突然大きなため息をついた。


「 俺が思うによ~、リーフってさ。

   ・・・・・・・
完全に出来上がってるんだよな。まだガキンチョなのによ。

今まで感じていた違和感の正体はそれだ。


物事の考え方や価値観に迷いがねぇ。

まるで中身じいさんっていうか……だからある種の人にとっては ” 始まりの場所 ” になっちまうんだ。

わかり易く言うとママだな、ママ。

あいつらママと息子……やっべっ、俺あんなおっかない息子絶対育てられない。

こ、こわぁ~……! 」


ヒィィィ~……とわざとらしくブルブル震えるドノバンを一切の表情なく見つめていると、「 相変わらず冗談通じねぇ奴ぅ~。 」と言いながら、頭をポスッとソファーにつけて続けて言った。


「 ……普通はよ、” 親 ” の側なんつーもんは、いつか出ていかなきゃ行けねぇ場所だし、子供の目なんて常に広い世界に向くもんだろ。

だからレオンの目も落ち着けば、多少は外に向くだろうと期待したんだけどなぁ……。

……うん、上手くいってる気がしねぇわ。


────っつーか、なんか街から出てから酷くなってない?あいつ。 」


そうしてジッと視線を向けてくるドノバンに対し、無言で肯定を返す。


正直言うと、ここまで執着心が育つとは思っておらず ” 分散されない想い ” がこんなにも恐ろしいものだということを、レオン君という存在に出会って初めて思い知らされた。


そのたった一つの大事なリーフ様を守る為、レオン君はたった一人でSランク傭兵 ” 神の戯れ ” と、一筋縄ではいなないAランク傭兵多数をあっさりと葬り去ってしまったのだ。


それも怪我一つせず、精神に波風一つ立てずに……。


こんな強大な力を持った者の全ての感情が、たった一人によってしか引き出せないなど、恐怖以外の何者でもない。


現在レオン君はリーフ様によって引きずり出される感情達に夢中で、それによって ” 何か ” を得る度に彼は笑う。

世界で一番の幸せを手にした男の様に。


その時の笑みを思い出すと、ゾクッ……と冷たいモノが背中に走った。


リーフ様を介したこの世界はきっと楽園の様に綺麗な世界なのだろうが、反対にそれを介さずに見たこの世界に、多分レオン君は一切の未練はない。


もし仮にリーフ様が一言──── ” 世界を壊せ ”


そう命じれば、レオン君は世界一幸せそうな笑顔のまま何の迷いもなくあっさりと世界を滅ぼそうとするだろう。


「 ……リーフ様の側にいる内は大丈夫だろうが、それを失くした時どうなるか……。

確かにそれを考えると恐ろしいな。 」


「 だろ?だろ~?!そろそろ離れていく準備させねぇとやばいって!

” ずっと一緒! ” なんて……先はどうなるかわからねぇもんだからな。 」


やれやれ~と僅かに戯けた様子で言うドノバンだったが、その態度が胸に走るチクリとした痛みを払う為だということを知っていた。


元騎士であるドノバンは失うことの辛さ、そして残された者達の ” 結末 ” を沢山見てきたからこそ、沢山の者に情を掛け、失った時の ” 辛い ” を分散させて心を守ろうとする。

これがこの男の心を守るための最大防衛方法なのだ。


そして、その信念に従い他の者にもそれを勧め────……今回のレオン君へのふしだら発言に繋がるというわけだ。


ストン……と、顔から全ての感情が消え失せた。

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