上 下
571 / 1,315
第十四章

556 誰かの一番、誰かの……

しおりを挟む
( リーフ )

マリオン、クラーク君、ジェニファーちゃんは、プリプリしながら我先にと去っていき、他の生徒達も逃げる様に去って、その場に残ったのは俺とモルト、ニール、ソフィアちゃん。


モルト、ニール、ソフィアちゃんはレオンの方をチラッと見てから大きく息を吐き出したが、この後にある部活の楽しみを思い出した様で、直ぐにニコニコと笑いだした。


「「 リーフ様~とレオン!ソフィア様~!また明日お願いしまーす! 」」


「 こちらこそ明日もよろしくお願いします。 」


三人は、上機嫌のまま手を振って去っていった。

ソフィアちゃんにとっては学院にいる間だけが自由に自分の好きな事を好きなだけ調べられる時間らしく、そりゃ~もう凄く嬉しそうに。


表だけ見ると綺羅びやかな世界に見えても、王女様は本当に大変だ……。


目につくもの全てに飛びついていた自分の小さい頃を思い出し、ついついしんみりとした気分になってしまった。


やりたい事を思い切りできないのは、辛かろう辛かろう。


大人心としてはそう残念に思いながらも、それを見せない様にするソフィアちゃんは本当に凄いと尊敬の念も持つ。


そしてそれと同時に────ソフィアちゃんが我慢しなければならない最大の原因でもある彼女のお兄さん、エドワード坊やについては、全く……とため息をついた。


物語の中でもかなり苛烈で極端な思考を持ったエドワードは、最後まで一貫して自身の考えを曲げることはしなかった。


こうであるべき!という確固たる信念を持つこと自体は、別に時と場合を考えれば別に良い。


しかし、問題はそれを全員に強制する事、更に叶えてしまう事も可能な ” 権力 ” という強大な力を持っている事だと俺は思う。


"   この後どうしますか?  "   

そう言いたげな顔で見下ろしてくるレオンを見て、物語のレオンハルトの事を思い出しもう一度息を大きく吐いた。


悪役リーフが失脚後、レオンハルトが英雄と認められた後も、あの手この手と姑息なお手々をワサワサと使いながら、レオンハルトの存在を否定し続けたエドワード坊や。


” レオンハルトは英雄ではない!

あの様な身分も外見も賤しい者が英雄なものか!! ”


そう最後まで声高々に訴え続け、更に物語の進行と共に嫌がらせと妨害は加速する。



第二王子のアーサーに、” 自身の持つ価値観を突き通し、この世界と心中するおつもりですか? ” などと最初にスッパリ言われてもその考えはとうとう変わる事はなかった。


レオンハルトが旅立たねば、世界が終わるのが分かっているのに尚、妨害してくるその気持ち。

正直俺にはさっぱり分からない。


「 リーフが中ボスなら、最後の大ボスは彼になるねぇ……。 」


「 ??? 」


レオンが不思議そうな顔を見せてきたので、何でもないよと首を横に振った。


俺が考えるに、大ボスエドワードは、大事なモノの優先順位がパシと決まっている人なんだろうとは思う。


エドワードにとっては自身の持つ価値観こそが最も譲れないモノで、それが不動のNO・1。

他の事はそれよりかなり下に位置していたからこそ譲れなかったのかもしれない。


それこそ沢山の人の命や自身の価値観を受け入れようとしない ” 世界 ” はその遥か下……だったのかな。


むしろ壊してやりたいモノの一つだったのかも……。


俺は見下ろしてくるレオンの右手を触り、ちゃんとある事を確認できてホッとする。


勿論そんなエドワードだけが悪いとは言わないが、俺は彼がそれを突き通そうとする世界は ” 悲しい ” が沢山あって好きではない。


誰かの一番は誰かの最下位。


誰かがまっすぐ道を進む為には、必ず他の誰かが自分の一番を我慢して道を譲ってぐにゃりと曲がらなければならない。


それは沢山の人がいる世界では仕方のない事だが、ただ俺はその譲る人がずっと同じ人であるべきではないと思う。


きっとさぁ、ずっと譲り続けたら嫌いになっちゃうと思うんだよ、自分のいる世界の事。


それこそ心を持ってないとかじゃない限りは……。


レオンの右手から手を外し、次に左目をそっと触った。。



俺が失脚した後、今度は大ボスエドワードがレオンの進もうとする道をことごとく邪魔してくる。

きっとどうしようもできないくらい巨大で要塞化したような "  世界 "  をこれでもかとレオンにぶつけてくるはずだ。


そんなヤツに負けたら駄目だぞ~。


サワサワサワサワ~と労るように左目を揉み込み心の中で頑張れ!頑張れ!と応援を送った。


レオンはレオンで譲ったり譲ってもらったり、色々考えて世の意地悪と戦って……それで今いる ” 世界 ” がどんなものかしっかり見て、考えて、世界の未来を選んでおくれ。


気分は意地悪なクラスメートに虐められてトボトボ帰ってきた我が子を見るのと同じ気持ち!

うちの子虐めた悪い子ど~こ~だ~?と全力で特攻したいが、そこは我慢。

その嫌な体験も将来戦国時代の様な社会で戦うためには必要な事なのだ!


頭の中では悪ガキエドワードが、茶色い汚物を刺した棒を持ってソフィアちゃんやレオンに意地悪しようと追いかけてくる姿が浮かび、ゴッ!!と怒りの炎が燃え上がったが…………考えてみれば俺もその最たる悪役の一人!


ガガ────ン!!


今更ながらにショックをうけて、燃え上がった怒りの炎は、凄い勢いで鎮火した。


お、俺は茶色い汚物を持つ側の一人……。


その強烈なイメージに青ざめながら、俺はブツブツと呟く。

そしてそんな俺の前では、レオンが真っ赤な顔でクシャッと丸めたティッシュの様な表情をしていた。


「 ……お、お~い……もう話しかけていいか? 」


黄色のあげ玉がいれば、俺達信号機だね!な状態の俺達に向かい、何者かの呼びかける声が、突然背後から聞こえる。

ハッと正気に戻った俺が声がした方向へ目線を向けると、そこには木の影に隠れているルーン先生が……。


「 はーい!大丈夫でーす! 」


俺がピッ!と手を挙げてそう答えると、ルーン先生はルンルンとご機嫌で木の影から出てきて、俺に言った。



「 ちょっとリーフとレオンに頼みがあるんだぜ!

今からあたいの部屋に来てくれないか? 」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女召喚!……って俺、男〜しかも兵士なんだけど?

バナナ男さん
BL
主人公の現在暮らす世界は化け物に蹂躙された地獄の様な世界であった。 嘘か誠かむかしむかしのお話、世界中を黒い雲が覆い赤い雨が降って生物を化け物に変えたのだとか。 そんな世界で兵士として暮らす大樹は突然見知らぬ場所に召喚され「 世界を救って下さい、聖女様 」と言われるが、俺男〜しかも兵士なんだけど?? 異世界の王子様( 最初結構なクズ、後に溺愛、執着 )✕ 強化された平凡兵士( ノンケ、チート ) 途中少々無理やり的な表現ありなので注意して下さいませm(。≧Д≦。)m 名前はどうか気にしないで下さい・・

勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話

バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん< 山野 石郎 >改め【 イシ 】 世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中・・俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない< 覗く >という能力だけ。 これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。 無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。 不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜

7ズ
BL
 異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。  攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。  そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。  しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。  彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。  どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。  ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。  異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。  果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──? ーーーーーーーーーーーー 狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛  

【 完結 】お嫁取りに行ったのにキラキラ幼馴染にお嫁に取られちゃった俺のお話

バナナ男さん
BL
剣や魔法、モンスターが存在する《 女神様の箱庭 》と呼ばれる世界の中、主人公の< チリル >は、最弱と呼べる男だった。  そんな力なき者には厳しいこの世界では【 嫁取り 】という儀式がある。 そこで男たちはお嫁さんを貰う事ができるのだが……その儀式は非常に過酷なモノ。死人だって出ることもある。 しかし、どうしてもお嫁が欲しいチリルは参加を決めるが、同時にキラキラ幼馴染も参加して……?    完全無欠の美形幼馴染 ✕ 最弱主人公   世界観が独特で、男性にかなり厳しい世界、一夫多妻、卵で人類が産まれるなどなどのぶっ飛び設定がありますのでご注意してくださいm(__)m

奴隷商人は紛れ込んだ皇太子に溺愛される。

拍羅
BL
転生したら奴隷商人?!いや、いやそんなことしたらダメでしょ 親の跡を継いで奴隷商人にはなったけど、両親のような残虐な行いはしません!俺は皆んなが行きたい家族の元へと送り出します。 え、新しく来た彼が全く理想の家族像を教えてくれないんだけど…。ちょっと、待ってその貴族の格好した人たち誰でしょうか ※独自の世界線

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

処理中です...