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第十四章

528 そのままの君

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( リーフ )


やっぱりレオンに冒険者は……。


心配と悲しみの心のまま首を横に振っていると、マリンさんの店が見えてきたので意識は現実へと一旦戻る。

すると店の前に小さな子供がチョコンと座っているのに気づいた。


まだ小学院に上がるか上がらないかくらいの女の子で真っ赤なリボンが印象的の────。


「 あれ?リーンちゃん?


────お~い!リーンちゃ~ん! 」


その子は、以前スキンヘッドもどきに絡まれていた女の子、リーンちゃんだ。


俺はブンブンと手を振り「 こんばんは~! 」と挨拶をしながら近づいていくと、リーンちゃんが随分と大きな紙袋を抱える様に持っているのが見えて ” なんだろう? ” と首を傾げた。


「 あっ!リーフさ~ん!こんばんは~! 」


俺が近づいてくる事に気づいたリーンちゃんは、ご機嫌な様子で挨拶を返してくれたので、そのままリーンちゃんの前にしゃがみ込む。


「 この間蹴られたところはもう大丈夫? 」


「 うん! 」


しっかりと頷いた様子に、” 子供って逞しい! ” と関心しながら、続けて今日はどうしたのかと尋ねると、リーンちゃんは手に持つ紙袋をズイッと俺に差し出した。


「 はい!リーフさんへパンのお届け物だよ! 」


「 えっ!こんなに沢山……?いいのかい? 」


受け取った大きな紙袋を開けて覗くと中には沢山の種類のパンが入っていて、小麦のいい香りと、食欲を誘うお肉や香辛料のガツンとくる匂いがフワッと香る。

どうやら、本日はマルクさんではなく娘のリーンちゃんが、わざわざ届けてくれたらしい。


「 うん!全部食べてね! 」


「 うわぁ~!ありがとう! 」


キラキラした目でパンを見つめながらお礼を言うと、リーンちゃんはブンブンと大きく横に首を振った。


「 御礼を言うのはこっちだよ。ありがとう!リーフさん。


昨日貰ったお肉で新作作ったら全部売れちゃったの!

皆久しぶりにお肉沢山食べれたって嬉しそうだったよ。


それに今日は沢山お肉が入荷したって、ついさっき冒険者ギルドから速達が来たんだって!

歩いてくる途中、街の人達が言って喜んでた。 」



「 どういたしまして!

そっか~、喜んで貰って良かったね!


それにお肉も沢山入ったみたいで良かったよ。

お肉は美味しいから無いと悲しいもんね。 」


興奮気味にワー!と喋るリーンちゃんの話をニコニコしながら聞いていると、【 森の恵み 】の扉がバーン!と開き、中からマリンさんが顔を出した。


「 誰が話しているかと思ったら、リーフとリーンだったのかい!

ほらほら、皆、中に入った、入った。


リーンもご飯一緒に食べていくだろう? 」


マリンさんはニッと笑って手を来い来いと手招きするので、マリンさ~ん!とそれに誘われる様に中に入ろうとした、その瞬間────。



ドス────ン!!


大きな音を立ててあげ玉が空から降ってきた。



リーンちゃんは驚いて近くにいる俺に飛びつきギュギュ~と抱きついてきたので、俺は「 大丈夫だよ~。 」と言ってその背中を擦ってあげた。


すると熱視線を感じ、フッと視線をそちらに向けると、痛い程見つめてくるレオンの瞳とぶつかる。


「 ……?レオンどうしたの?? 」


「 ……いえ。 」


ムッ!とした様子で、ジロジロ俺達を睨むレオンは、突然あげ玉の方へ視線を向けるとクイッと軽く顎を上に動かす。


するとあげ玉は「 クッピッ!! 」と小さな羽で敬礼?をし、そのままテッテッテ~と屋根に登った。


突然どうしたんだろう??


わけが分からない行動をし始めるあげ玉を俺とリーンちゃんは目で追い、上を見上げる。

すると、揚げ玉はそこからバッ!!と飛び降り、フワンフワンと優しく着地したのだ。


音もなく着地した事で、リーンちゃんは今度は驚かず、俺からソロっ……と離れると、すかさずレオンは俺の腰に手を回し、グイ~と自分の方へ引き寄せ、そのままピッタリくっついてきた。


そしてそれと同時に、あげ玉はリーンちゃんと俺の間にモコモコとした羽毛を揺らしながら体をねじ込んでくる。


その奇行にポカーンとする俺とリーンちゃんであったが、フカフカのあげ玉の羽毛から顔を離したリーンちゃんは何か気づいた様子でクスクス笑い、ムッとしているレオンに向かって言った。


「 黒いお兄さんは、リーフさんの一番の友達なんだね! 」


んん~????俺たち主人と奴隷~。


いまいちピンッとせず首を傾げる俺に、リーンちゃんは続けて説明する。


「 あのね!私、一番仲良しの友達がいるんだけど、その子が違う友達と凄く仲良さそうにお話していると凄く不安になっちゃうんだ……。

黒いお兄さんは、私とリーフさんが仲良そうに見えたから不安になっちゃったんだよ。 」


そう説明してニコニコするリーンちゃんに、俺は大きく頷いた。


────なるほど?


そういうものか~主人と奴隷だけど……と一応納得した俺は、ギュッとしがみついてくるレオンをチラリと見上げた。


仲良しの子が他の子とお話して仲良くなるのは、俺にとっては嬉しい事。

でもレオンは違う。不安になる。


意識する様になると、改めて俺とレオンの違いというものがバシバシと身にしみる。

本当に俺達は正反対だ。


しみじみしながら、俺がレオンという人間に対して思う事は一つ。


「 レオンはレオン。そのままでいい。 」


一つも合うところがなくても、俺はそれを変えて欲しいとは思ってない。

レオンが出していく答えは、レオンの一部だから全部まとめてレオン。

それでいいなと思った。


でも────……。


チリっ……と線香花火の様な?何らかの小さな感情が一瞬心に現れる。



────そんな俺達ってどう ” 在れ ” ば、同じ景色を見る事ができるのかな?



フッと浮かんだ疑問に、いやいや俺は何を考えているんだ??と一人でツッコミ、その考えを吹き飛ばした。


主人公と悪役!

主人と奴隷!

俺たちはお別れ後、一生関わることなんてないんだから、そんな事考える必要なんてないんだ。


ペシペシペシ~!と頭の中の俺に連続ツッコミしていると、続けてフッと浮かんだのは、” 誰かと同じ目線で同じ景色を見たい ” って……何だか……初めて…………??かも……???っていう事実。

今まで感じた事がない感情が不思議で、俺はグイ~と頭を大きく傾けた。


「 ……レオ……。 」


何となく口に出そうになった名前は、上を見た時にパッ!と目に入ってきたレオンの笑顔によって掻き消される。


何だかレオンの ” 嬉しい ” を見るのは、他の人の ” 嬉しい ” を見る時と何だか違う気がする。


でも何が違うのかは分からない。


「 ????? 」


またまたよく分からない感情に戸惑っている間に、レオンはリーンちゃんに対し、大きくプイッ!!と顔を背け、更にあげ玉の体を押し、物理的にリーンちゃんを遠ざけようとし始める。

そのあまりに幼稚な行動を見て、疑問や不思議がポポーンッ!!と、あっという間に消え失せた。


やっぱりレオンは、ちょっと変えた方がいいかもしれない。

このままでは、ただの黒歴史になってしまう……。


真剣に考えている俺の事など構うものかと、レオンは更にペト~と体全体を俺にくっつけて……いや、もたれかかってきて、とても満足そうな笑みを浮かべていた。
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