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第十三章

515 謎は深まる

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( リーフ )


” ちなみにこの6カ国以外に国はないのか? ”


そう言われれば現在は ” ない ” とされていて、その理由としては────


 ” この6つの国以外の周りの土地は、非常に濃厚な魔素に覆われていて未開の地だから ” 


────である。



なんでも魔素は、ある一定の濃度を越えると、人の体はそれに耐えきれずドロドロの液体になってしまうらしいので、少なくともそこには ” 人 ” は住むことができないと言われている。


” 溶ける ” という恐ろしい表現に思わず鳥肌が立ち、腕をサスサスと擦った。


更にそこに濃厚な魔素を好む高ランクモンスターがウヨウヨ……となれば、迂回ルートを作っての進軍は流石にできないと、ドロティア帝国も判断した様だ。


そうしてドロティア帝国はその魔素が濃い領域からは手を引いたが、今でも【 始まりの大地 】への攻略の方は諦めていない。


なぜならそこで《 神書 》が見つかっているからだ。


それはつまりそこへ立ち入った者が存在しているということで、何らかの侵入方法があるはず!とドロティア帝国は考えている。

だから今でも活発的にその研究を続けているらしいが、今のところ何も分かっていないらしい。


俺はうう~ん?と考え込みながら、パンくれないの?と言わんばかりのお目々を向けてくるレオンに「 ごめんごめん。 」と軽く謝りながらまた口にパンを突っ込んであげる。


ウマウマ~と嬉しそうに頬張るレオン……こと英雄様は、この【 始まりの大地 】に多分入れる。

というか入れないと ” イシュルの聖大樹 ” にはたどり着けないし……。


だが、ここで一つ疑問。


《 神書 》は誰が置いたのだろう?


英雄以外入れない場所なのに、一体誰が入れたんだ???


その事を考えると、フッと思い浮かぶ事といえば、< ゼロの歴史 >の時代ではもしかして ” イシュルの聖大樹 ” 自体がなかったのだろうか?という事だが……それを確かめる術は今のところない。


謎が深まるね~!


ワクワクしながら顔を上げて周りの皆を見回すと、全員俺同様考え込んでいる様子を見せている。


何かこういうのいいな~と思わずホッコリしていると、ニールが初めにリタイアしたらしく、はぁ~と大きく息を吐き出しながら椅子に深くもたれかかる。


「 謎はますます深まるばかりっすね~。


……そういえば俺が生まれた日に作ってもらった短剣はどこに行ったんだろう?

昔じいちゃんが草を刈る時使って以来見てないっすね。 」


ハハッとニールが笑っていうと、それに待ってましたとばかりにレイドとメルちゃんがそれに乗る。


「 あ、俺んちは肉切り包丁に使ってるぜ~。 」


「 ウチはじゃがいも剥く用……。 」


それを聞いたモルトはふぅ~と呆れた様なため息をついた。


「 全く三人共使用方法が野蛮すぎるぞ。

俺はきちんと果物ナイフとして使っている。 」


「「「 同類!! 」」」


モルトの発言にニール、レイド、メルちゃんは即座にツッコミを入れ、モルトを一斉に指をさす。


それに対しモルトは「 失礼な!肉とかじゃがいもと一緒にしないでくれ! 」やら「 無くすなど論外! 」とブツブツと不満を漏らした、その時────突然隣にいるアゼリアちゃんがスッ……と静かに立ち上がった。


その顔は鬼の形相だ。


「 生まれた日に授けられる神聖なる短剣を失くした?

肉切り??じゃがいも???それに果物ナイフ!?


……神の怒りを恐れぬ愚か共め。大人しくその首を神に捧げろ。 」


果物ナイフのあたりでガガーン!!と非常にショックを受けた様子のモルト。

そしてキョトンとした顔をしていたニール、レイド、メルちゃんだったが、アゼリがちゃんが刀に手をセットすると、直ぐにサ────ッと青ざめ、俺とレオンの後ろへ移動した。


そのまま全員みっちりとくっついて、何とか隠れようとし、それを見てサイモンは腹を抱えて笑い、リリアちゃんはニチャッと笑う。


俺とソフィアちゃんは、まぁまぁとアゼリアちゃんをなだめながらも "   怒るのは仕方ないか~   "    と納得はしていた。


この世界はこういった習慣というか、前世で言えば節句のお祝いとか?そういったものに対して、その捉え方は身分によって結構違う。


王族や高位貴族にとって、この ” 生まれた時に子供の名前入りの短剣を授ける ” という習慣は、必ず行う大事な祝い。

その際に贈られた短剣は、生涯家宝のレベルに保管されるが……下の身分にいくに従って、その重要度はガクンと下がっていくのだ。


神書に基づき ” 我が子に女神様の加護が一生ありますように ” という願いが詰まった短剣を渡す事を、形式的にきちんと行い、その後もそれを大事にしていくのが貴族。

そしてそれが最大のリスペクトを表す事であると主張するのは、当たり前の事。


それに対し、気持ちが重要、今までのしきたりを形式的にやることより無理せず心の中でしっかりリスペクトするのが大事だよね!────が、その下の身分の人達の根本的な考えというわけだ。


サラリーマンの年収何年分??と聞きたくなる様な最高級の短剣を授ける貴族達に対し、平民さんは短剣の形をしたパンを焼いて皆で食べて終わり!な事も多く、その落差は結構凄い。


確かに自分が大事だと思っている物が粗末に扱われている話を聞けば悲しい気持ちになるか……。


「 アゼリアちゃんは短剣をとても大事にしているんだね。 」


プンプン怒り狂っているアゼリアちゃんを見て、解決は難しいと判断し話を逸らしてみる。


するとアゼリアちゃんは突然の質問に慌てたのか、頬をピンクに染めて「 ……は、はい。 」と答えて大人しくなったので、それを見た後ろに隠れている4人はチャンスとみたらしくペコリと頭を下げた。


「「「「 ごめんなさ~い。 」」」」


一斉に謝られては、これ以上怒るわけにもいかず……。


アゼリアちゃんがググっ!と口を閉ざしたのを見て、四人は "   あ~びっくりびっくり~!  "   と言いながら自分たちの席に戻る。


そんな4人を見て、チッ!と舌打ちするアゼリアちゃんは、とりあえず許したが文句は言いたかったらしく、ブツブツと4人に対し文句を言い始めた。


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