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第十三章

512 VS……??

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( リーフ )

過去に何度もあったこの状況下では、基本は俺が100%譲るしかなかった。

だから今までは全部譲ってお終いにしてきたのだが……流石に3年間地べたに座らせての授業は良くないと思うので、今回は俺も引けない。


100歩譲って俺が虐めの一貫としてやらせるなら、皆から同情を引けるかもしれないが、自主的にでは何一つメリットなし。

ただの変な人として認識されるだけ。


さらに皆との距離が開いてしまう!



それを証拠に後ろからは────……。


「 おいっ!いい加減にしろ!奴隷如きが逆らうな! 」


「 駄々をこねるな!!奴隷の分際で!!

リーフ様のひっつき黒虫!!呪いの腰ポーチ!! 」


「 床が自分の場所だと理解したのだけは褒めてやる!ずっとそうしているがいい! 」


ギャーギャーと順番に、アゼリアちゃん、マリオン、そして新参者のクラーク君の怒号が飛んでくる。


マイナスに振り切る様な発言の数々……。

もう、頭が痛い。


どうにかこの場を収めたいが、多分ここで偉そうに命令しても、レオンは絶対に引かない事は分かっているので、俺は作戦を変えてみようと椅子から立ち上がった。

そして椅子の上に敷かれた赤いクッションを、ポムポムと叩いてそれをレオンに見せつける。


「 ほ~ら、ほらっ~。レオン、見てご覧?

なんて触り心地の良いクッションなんだろう!


まさしくこれは、世界一の椅子だよ!

ふわっふわだよ~?

レオンも最高級の椅子におすわりしてみようよ! 」



名付けて『 北風と太陽作戦 』


意地になって無理やり座らせるのではなくレオンが座りたくなるよう誘導する作戦だ。


俺はニッコニッコと笑いながら、レオンにどうかな~?とそのご様子を伺うと────突然レオンからドス黒い殺気に似たオーラがブワッ!!と放たれた。


「 ……??????!! 」


その殺気に当てられて、俺も教室内の誰しもが固まって動けなくなり硬直していると、その状態のままレオンはズイズイ!!と俺に詰め寄ってくる。


「 どういう事ですか!!

俺を捨ててこんな吹けば飛んでしまうような役立たずの椅子を選ぶんですか?!

俺のどこが駄目なんですか!理由を教えて下さい!! 」


「 えっ?何っ?何?どういう事?? 」


さっぱり何を言っているのか分からないので、とりあえず俺は怒り狂っているレオンに問うたが……プンプン大激怒しているレオンの耳には届いていない様で……。


” 俺の方が強い! ”

” 安定感だって負けていない! ”


そんな意味不明な発言を繰り返すばかりで全く話にならない。


「 ねぇ!!そうですよね!!? 」


「 ?????

あ、うんうん。そうそう……。 」


刺激しない様に赤ベコの様に頷いたが、頭の中はハテナで一杯だ。


勿論周りの人達も誰一人として何を言っているのか分からず、皆一斉に首を傾げていたが……俺だけは記憶にチリっと引っかかるものを突如思い出し、続けて強烈な既視感を感じた。



綱引きするようによいっしょと記憶から引っ張ってきた思い出、それは────……。


” 馬 ” との初対面の時!



あ~……!

確かな手応えを感じ、ポンッ!と手を叩く。



確かあの時も、俺の方が速いだのなんだのと、馬と比べていかに自分の方が優れているかを語っていた。

そして最終的には ” 馬と自分の違いは何!? ” まで話が飛び────俺はつらつらとその違いについて説明する羽目になったのだ。



しかし────……?


俺は思い浮かんだその可能性に対し、ゴクリと唾を飲み込む。


まさか、まさかだよ?

馬ならまだしも椅子と張り合うなんて事ある??


俺は ” いやいや……。 ” と首を振りながら、その可能性を否定しようとしたが……とうとうレオンが最後にたどり着いた言葉に、動きをまた完全に止めた。


「 俺とこの椅子はどう違うんですか!! 」


また辿り着いちゃった……。


前回の馬と同じ終着点へと辿りついたのを見ると、動揺を誤魔化すためニッコリと笑う。



椅子と人間が別物なんて当たり前。

寧ろ共通点を見つける方が難しいぞ~?



心の中で、一人で突っ込み一人でハハッ!と笑った後、俺は直ぐにストンと表情を消した。


レオンの突然入る『 負けず嫌いスイッチ 』

そしてそのスイッチが入ってしまえばその対象に勝つまで永遠に質問と主張は止まらない。


俺の頭の中で、今までのレオンとの思い出がくるくるとベッド・メリーの様に周り、今の時点で最適ともいえる解決法を弾き出した。


「 レオンの ” 椅子 ” は一番強い! 」


バシッ!と宣言した言葉にレオンの肩はピクッ……と小さく揺れる。


良いぞ良いぞ~と気分が乗ってきた俺は、パンパンと手を叩きながら歌う様に続けて言った。


「 安定感は世界一~♬ 」


「 マッサージ付きのお得仕様~冬はポカポカ機能付き~♬ 」


「 ご飯まで食べさせてくれる高性能~♬ 」


俺が言葉を発する度にみるみる上機嫌になっていくレオン。

そのまま俺はフィニッシュとばかりに人差し指を上に挙げ、大声で叫んだ。



「 レオンの ” 椅子 ” がNO・1────!!! 」



シーン……と静まり返っている教室内で、結局大声で歌ってなんだか楽しかった俺はニッコ二コで、レオンは勝利を確信してニンマリ笑う。


そしてそんな満足気に微笑んだレオンは上機嫌で俺の脇に手をズボッ!と入れると、そのまま軽々と人形の様に俺を持ち上げそのままクルッと教壇の方へ俺の体を向けた。


すると、隠れながら顔を半分出してジー……と俺達の様子を伺っていたクルト先生と目が合うと、そのままレオンは椅子に着席、俺はレオンの上に着席する羽目に……。


安定のレオン椅子。

大人しく座っている俺を見て満足したのか、レオンは嬉しそうにモミモミとハンドマッサージを開始してくれる。


無事に豪華なキラキラ椅子に勝てたことでレオンは上機嫌になったが、ふわふわ椅子にこれから座れると思っていた俺はいつも通りの座り心地にガックリだ。


これなら最初の隣同士で妥協しておけば良かった……。


後悔してももう遅い事は、前にある棚の様なものからソロ~……と顔を出し、汗を拭って出てきたクルト先生の笑顔を見たらよく分かる。


” そのままキープでお願いしますね? ”


そう目で語ってきた先生は、恐ろしい程何もなかったかのようにニッコリと笑ったまま、不自然なほど自然に明日からの授業についての説明を始めた。

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