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第十三章

506 いつの間にかいない人

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( リーフ )


「 おおおお~ー……。 」


まだ俺の頭の匂いを嗅ぎ続けているレオンを後ろにくっつけたまま、眩しさに目を細め、教室の前の方へ視線を向ける。


するとまず目に飛び込んでくるのは、部屋に見合う金ピカデザインの教壇とその後ろに設置されている巨大スクリーンだった。


そして教壇に向かい合う形で、生徒たちが座る用の机と椅子がズラリと並んでいるのだが、机の形がかなり横長の形状をしている事から多分2人席タイプであることが分かる。


今度はその長い机を目で追っていくと、徐々に視線は上の方へ。


2列に分かれて並んでいるその机は、後ろへ向かっていくにつれて、ちょうどひな壇の様に後ろが徐々に高くなって設置されていた。


ドラマなどでよく見る、大学の講義の時に使う教室みたいだ。


「 凄いな、ここが今日から教室になるのか。 」


隠しきれない喜びは、フンフンッ!という荒い鼻息によって現れ、まだまだ俺の匂いを嗅ぎ続けるレオンを伴って、意気揚々と中に一歩入った。


すると既に集まっていた生徒たちがザッ!と移動してしまい安定の離れ小島になる。


「 …………。 」


最初の一歩を踏み出したまま止まり、自分とレオンの立ち位置を思い出した。


……まぁ、人間関係は長期戦、長期戦。

焦らない焦らない。


近くに誰もいないのに視線だけは一身に集めるという、この奇っ怪な状態にため息をつきながら席に向かおうとしたその時────。


「 おはようございます。リーフ様。 」


聞き覚えのある女の子の声が遠く離れた集団から聞こえてきたので、直ぐに振り返る。

すると声がした方向から、優雅な仕草で前に進み出てきたのは────なんとジェニファーちゃんであった。


赤!赤!赤!と運動会を連想させるクッキリした赤色で統一されたドレスに、沢山のフリルがつく事でゴージャスさが増し増し。

手にはそんなドレスに見劣りしない、大きなルビーがゴロッとついた金ピカキラキラ扇子を持っている。


戦闘で例えるなら、超攻撃力特化型の前衛攻撃班。


相手を圧倒するほどの輝きを放つジェニファーちゃんだが、ドレスのデザインは毎回違えど少なくとも俺が見た限りは全て【 赤 】。


もしかして赤色が大好きなのかもしれない。


車に轢かれにくい目立つ色~♬

子供に着せるのには最高の色で俺も大好き!


「 おはよう!ジェニファーちゃん。 」


勝手に仲間意識を持ちながら挨拶を返せば、後ろからはその専属聖兵士のクラーク君も同時に姿を現す。
  

「 おはようございます。リーフ様。 」


「 クラーク君もおはよう。 」


クラーク君は、これまたお手本の様な礼をして朝の挨拶。


流石は高貴な生まれの二人。

挨拶の一つでも粗がない。


二人はそんな完璧な朝の挨拶の後、俺とレオンを交互に見ながら鋭い視線を送ってくる。


もしや何かマナー違反でもやらかしてしまったか?と思ったが、ジェニファーちゃんは開いたセンスをスッ……と口元に持ってきて、何事もない様に普通の世間話を始めた。


「 まぁ、私だけではなく専属聖兵士のクラークの事までご存知だとは思いませんでしたわ。

流石試験で300点越えの偉業を達成した方は違いますわね。

余裕を感じますわ。 」


「 友達になった子にクラーク君の名前を教えて貰ったんだ。

褒めてくれてありがとう。


2人と同じクラスになれて嬉しいよ。これからよろしくね。 」


「 フフッ、私も嬉しいですわ。


……それにしても、リーフ様はとても親しみやすい方でしたのね。

なんだか予想していた方とはだいぶかけ離れていて……当分戸惑うかもしれません。 」


そう言ってジェニファーちゃんはクラーク君と目をチラッと合わせ、軽く笑い合う。


"  外見が周囲に溶け込みすぎて背景と一体化。  "


"  親しみやすさは空気と同列。  "


────と言われ続けてきた俺にとって、そう思われていなかったなど予想外の出来事だ。



これは通行人の役から完全脱却。

苦労……はしてないけど、悪役宣言したかいがあったというもの。


思わずニンマリと笑みが溢れる。



「 そう!?俺的にこんな感じで今後はいくつもりだから!


────いやいや、志は高く持とう!更に高みを目指すよ、俺は。 」


「 ???えっ……???


?????


────そ、そうですか……。高みを目指すことは良いことだと思いますけど……?? 」


少々口ごもりながら答えたジェニファーちゃんは、直ぐにキリッ!と目に力を入れて、話題を変えた。


「 ……わ、わたくし、実はメルンブルク家のシャルロッテ様とはよくお茶会でご一緒する仲でして……。

リーフ様はあまりシャルロッテ様と似ておりませんね。内面的なものも含めて。


シャルロッテ様はご家族の方とそっくりですし、メルンブルク家の方々は全員とても ” 似ている ” 事で有名ですから少々戸惑いがありますの。 」


ジェニファーちゃんはセンスの上からチラチラッと俺の顔から体まで見つめ、ふぅ……と小さくため息を溢す。


シャルロッテ……シャルロッテ…………。


聞き覚えのない名前を呟きながら、記憶を懸命にほじくっていると、ボンヤリ記憶に引っかかる人物を思い出し、ポンっ!と手を叩いた。


< シャルロッテ >は、メルンブルク家の長女、つまりリーフの2歳上の姉に当たる人物だ。


何故こんなに俺の記憶が朧げなのかというと、実はシャルロッテは物語の中でも出てくるのだが、出番がほぼないから。


基本レオンハルトを虐めるのはリーフ。


そして、その姉のシャルロッテの唯一の登場シーンは、レオンハルトを虐めるリーフの後ろ、そこでちょうど今のジェニファーちゃんの様にセンスで口元を隠し笑っている場面のみ。


更にリーフと共に家が没落した後は、一切出てきてない事から、” いつの間にか消えていた女の子 ” というのが俺の中のシャルロッテの記憶の全てだ。


正直名前を覚えていただけで奇跡レベルなんだよね~。


またぼやっとしていくイメージを必死に食い止め、ドンっ!と主張するリーフの挿絵のその後ろに小さく小さ~く写っているシャルロッテの姿を思い出す。


確か、キンキラキンの金髪に青い目……?

メルンブルク家は美形で有名なお家なので、多分彼女も相当の美人……?


ブツブツと必死に記憶のカケラをかき集めていると、俺の頭の匂いを嗅ぎすぎて酸欠を起こしたのか、レオンがグテ~と俺の背にもたれかかってきた。


それをヨイショッと後手に体を支え転倒を防止しつつ、最近はついつい忘れてしまっていたメルンブルク家についても頑張って思い出す。


そうそう、俺の外見から様々な誤解を受けてしまっている可哀想なメルンブルク家の人達……。

それなのにお金を沢山送ってくれて親の責任を果たそうとするなんて……本当にありがとう!


ワッ!と感動してしまい、更に今まですっかり忘れていた罪悪感もあってブルブルと震えてしまった。


ありがとう。ありがとう。

ご迷惑をおかけしております。

そしてこれからもう少しお世話になります&今まで忘れててごめんなさい。


感謝と謝罪する事しかできない!

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