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第十三章

488 別れ話

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( レオン )

そうして ” お金を稼ぐ事 ” ができる冒険者ギルドに向かいながら、致し方ないとはいえまたリーフ様と交わる世界が広がるのかと思うと胸がチリチリと痛み出す。


また世界が広がっていく……。

邪魔で邪魔で仕方がない広い世界が。


蝋燭で焦がす様な嫌な気持ちが顔を覗かせたが、以前街で交わされていた会話が頭の中にひょっこりと出てくると、俺は押し黙った。



恐らく恋仲の男女の会話。


その二人が何やら言い争いをしているのか、急に男の方が激怒し女に向かってガーガーと怒鳴り出す。


” さっきの男は何だ!!?? ”


” 微笑んで会話していただろう!! ”


そう詰め寄って必死に尋ねていたが、女は冷静そのもの。


呆れた様に、はぁ……とため息をつき非常に冷たい目つきで男を見た。


” ただ買い物して男性定員にお金を渡しただけなのにそれも駄目なんて……あなたは心が狭すぎる。 ”


” これでは何もできない。

私は疲れたし、あなたも疲れるでしょう? ”




” 私達、今後は一人になった方がいいと思うの。 ”




それを聞いた男は青ざめ、途端に弱気になる。



” そ、そんな……別れ話なんてしないでくれ! ”


” 俺を捨てるつもりか?捨てないで……。 ”



腕を組んだ女は、その懇願する男を見下ろしながら、面倒くさそうな態度で言った。



” 今後も一緒にいましょうね。



ただし、仕事仲間としてね。 ”



そう言って泣き崩れる男を置いて女は颯爽と去っていった。



それから理解した事。


” どんなに好き合っていたとしても一方的に嫌われてしまえばあっさりとその縁は切られてしまう事。 ”


” 心の狭い男はそれを決定打にする事。 ”


この2点だ。



他で囁かれる類似する会話パターンを見ても、この ” 心の狭い男 ” はありとあらゆる場面にて嫌われる傾向が強い様。


だから俺はリーフ様が人に近づく事に対し、チリチリした心の命じるがままストップを掛けすぎてはいけない。


” ある一定の距離まで物理的に近づき過ぎた時 ” のみ対応すれば良いのだと誓ったのだが……どうにもこうにもその一定距離を平気で越えてこようとする輩が多すぎる!


周りの人間達のあまりの図々しさに再度ムッ!としてしまった。


学院で絶えず近づこうとする輩。

随分と明確な好意や尊敬を向けてくる街の人間。

そしてリーフ様がお気に召したらしき朝に出会ったクッションの様な女……。


その時、モワモワと頭に浮かんだのは、バンっと前に出る胸についている二つの塊とご飯だ。


『 ご飯とクッション 』


リーフ様の大好きなものが合わさっていたからか、随分と今朝は興奮していた様子だった。

ムッ!としたが、特に一定距離に近づいてくる気配がなかったので、アレは放って置いて良いものと一応は判断する。


────が、どうにもリーフ様の幸せそうな表情に違和感が……。


うう~ん???


そう頭を悩ましている間に、もう目的地に着いた様で、大きな建物の前でリーフ様は止まった。


ここが冒険者ギルドとやらか。


目を輝かせて建物を見上げるリーフ様の隣で、俺は興味は全くないがとりあえず同じ様に見上げておく。


面倒……。


そんな俺の心情などお構いなしで、リーフ様は中に入り、訳の分からない大きな男や受付にいる女とごちゃごちゃとお喋りを始めてしまった。


……ソワソワ。

ソワソワ。


早く終わらせて帰りたい……。


その思いで頭の中が一杯になって、体はそれに合わせて小さく揺れる。


しかし願いも虚しく、女の方はまだまだ続き、突然< 魂の汚れ度 >を測定する変わった石を取り出した。



「 さっ!じゃあ登録の前にこの< 精盗視石 >に順番に触ってね。

それに合格したら晴れて冒険者としての一歩が踏み出せま~す。 」



それに触れろと言われたリーフ様が、それに触れようと手を伸ばすのを黙って見てると、ギルド内に沢山の、"   黒い人間達 "  が紛れ込んでいるのに気づいた。


真っ黒く染まった体。

口からは中に収まり切らなかったらしい黒いドロドロしたヘドロの様なモノが、溢れて下へと落ちていく。


そして歩く度にグチャリ、グチャリと音を立て、下に大きな黒い水たまりの様なモノを作り出していた。


「 …………。 」


そうして汚れてしまった床を見ていると、そこから腐りかけた黒い手がいくつも這い出てきては、周りにいる人間達をそこに引きずり込もうとしている様だ。


随分多いな……?


普段見る割合よりも多過ぎたため多少疑問を感じたが……リーフ様に近づいてこなければ、俺にとってはどうでも良いモノ。

そのまま自身の視界からその ” 黒い人間達 ” の存在を完全に消した。



魂の汚れはある一定まで黒くなってしまえば元には戻れない。

           ・・
そして行き着くところはアレ。


白いものを染めるのは簡単で、少し色を加えればあっという間にその色は変わってしまう。


まぁ、そう決められているのだから仕方がないが……わざわざ ” 終わり ” を早めるのは ” 幸せ ” を求める目的から考えて本末転倒なのに、不思議な事だ。


自死行為に近いものか?などと考えていると、リーフ様のせいで石は透明になってしまい、それに驚くデカい男と職員の女だったが、俺は予想通りの結果に驚くことはなく、後ろに立ってその様子を見ていた。



だからあなたを見つけるのは難しい。

沢山いるのに……。




” 俺、かくれんぼ大得意なんだ! ” 


そう言って巨大な鳥の巣の中で温められている卵の横、親鳥の羽毛が膨らむお尻の下に潜り込んで隠れていた時は、簡単に見つけられたが……。


確かにかくれんぼは得意だなと納得した。

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