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第十二章

476 グリモアの異変

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( エイミ )



そう言って歩き出すヘンドリク様の後を私とザップルさんは大人しくついていき、やがてギルドの三階部分にある支部長室にたどり着くと、

入り口に仕掛けてある防音、防視など外部からの情報をジャミングする魔道具を作動させ中に入る。


私達もそれに続いてしっかりと扉を閉めると、部屋の中を見回した。


それほど広くはない部屋に、とてもシンプルな作業机と様々な資料が並ぶ本棚に軽食くらいなら作れる程度のキッチン。

奥の方には簡易式ベッドがあるが、たまにしか帰ってきていないせいで若干埃っぽくなっている様だ。



中央には来客用のテーブルと向かい合わせで配置されているソファが2つあり、私とザップルさんはそのうちの一つに座るよう指示されたため腰を下ろす。


それを見届けた後ヘンドリク様は「 では、とっておきのお茶でも出そうかの~。 」と言って、人数分のお茶を入れテーブルの前に置き、そのまま私達の向かい側のソファーへと座った。


御礼を告げてから、熱いお茶にフーフーと息を吐きかけてコクリと一口飲み込むと、そのタイミングを測ったようにヘンドリク様は話しだす。



「 やはりグリモアのモンスター発生は自然にではなく人為的なもののようじゃ。

これを見てくれ。 」



そう言いながらヘンドリク様は、テーブルの上に自身の袖口から取り出した手のひらサイズくらいの透明な石をゴロッと転がした。



水晶の様な透明さを持つ歪な形のその石は特殊な人工石である

< 吸魔石 >であった。





< 吸魔石 >


魔素を吸い一定量貯め込むことができる特殊な人工石。

その作りは精密かつ、作製には優れた魔術師や魔道具使いなどの特殊技術を持つ者達が大勢必要なため大量生産は難しい。

更に材料として大量の【 魔導結石 】が必要。

ダンジョンの突然の肥大化や浄化が間に合わない場合の緊急措置用として用いられるが、使用時には国への申請が必ず必要である。




目を見開いて驚く私とザップルさんに一瞬視線を向けた後、ヘンドリク様は話を続けた。




「 グリモアの異常なモンスター増加ーー

そしてまるで反比例する様にモンスターが減少した街がいくつもあることにずっと違和感があったが・・これでその理由は判明したのぉ。


最初この< 吸魔石 >を発見した時は、一昔に魔素が強まった時に使った残りかと思ったが・・それにしては数が多すぎる。

しかもーー 」



「 透明ということは、魔素を吸っていない状態ですので明らかにその当時使われたものではないと分かりますね・・。

         ・・・・・
つまり、逆に魔素を吸い取った状態の< 吸魔石 >を何者かが森に設置したと・・そういう事ですね。 」



私がその話の続きを話すと、ヘンドリク様は深刻そうに「 うむ・・。 」と頷き、ゆっくりと腕を組む。




「 < 吸魔石 >の使用には国への申請が必要じゃ。


しかし、それが上がってない事からするとどうやらこの計画を実行に移しているのは、少なくともそれをもみ消してしまえる程の権力を持つ者達・・と言うことになる。


こりゃ~思ってたよりもかなり大掛かりな計画のようじゃの。 」



まさかそんな国の重鎮レベルの大物が絡んでいるほどの事だったとは・・


流石にそこまでの事だとは思っていなかった私とザップルさんがゴクリと喉を鳴らすと、ヘンドリク様は、< 吸魔石 >へ向けていた視線を私へと向ける。




「 ーーして、何か新たな情報は上がってきているのか?

グリモア副支部長、エイミ殿。 」




私はヘンドリク様の問いかけに対し、コホンっと軽く咳をした。



元々は諜報ギルドの諜報員だった私、エイミは、その腕を買われて数年前から冒険者ギルドへ。

そしてその身分は隠しギルド職員として働いている。



理由は簡単。

その方が情報が集まりやすいから。



どうにも諜報員時代の癖は抜けそうにない。




「 はい。


これは第二騎士団元団長ドノバン様の元奥様、ジョバンヌ様からの確かな情報ですが・・

各地の貴族達がグリモアのモンスター増加の前に大量の【 魔導結石 】を買い付けていたそうです。


国内だけでなく国外からも買い付けていたのでそれに気づいたそうですが、その注文の仕方からも恐らく上にパイプ役となっている高位貴族がいそうだということでした。


間違いなくその< 吸魔石 >を作るためと考えていいでしょう。


その買い付けをした貴族達同士に目立った交流はないですが・・一つだけ共通点がありました。 」



「 それは一体なんじゃ? 」



私は一呼吸置き、真剣な表情を向けてくるヘンドリク様とザップルさんに向かって静かに告げる。



「 全員が熱心な第一王子エドワード派閥の者達でした。 」



その答えをほぼ予想していた2人は驚きもせずに腕を組み、体をゆっくりとソファーへと沈める。



そしてしばらく無言の時が流れ、やがてそれを最初に破ったのはザップルさんだった。


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