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第十二章

469 小さな希望

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( エイミ )

「 そういえば、もう聞きました?

なんでもあの< ゲイル >が街で一般人の……しかも子供にぶっ飛ばされて気絶した話!

にわかには信じられませんが、今日は< ゲイル >のクラスの人達が妙に静かだったのでもしかして本当の話なのかもしれませんよ。

フッフッフッ~嘘でもちょっとスカッとしちゃいますよね! 」


王都から派遣されてきた二大クラスのうちの一つ【 絶炎のスネーク 】のトップ。


< ゲイル >


それがなんでも一般人の子供にぶっ飛ばされた!と突如情報が入ってきたので、最初は信じていなかったのだが、その後、依頼を出していた街の人達がギルドに顔を出した時、口を揃えて言う。


「 すごく強い子供がゲイルの野郎をぶっ飛ばしたんだぜ! 」


「 もうっ!久しぶりに胸がスカッとしちゃったわよ~。 」


興奮冷めやまぬ様子で語っていくので、まさか本当に……?と信じてしまいそうになったが、流石にCランク冒険者の中でもトップクラスのゲイルをただの子供が倒せる訳がない。


大方凄く若く見える外見の流れの傭兵か、はたまた冒険者がちょっとした小競り合いをしたのかも。

大体の人はそう思いながら聞いていたのだが、何と言っても久しぶりの明るい話題。


冒険者達の間でその話題はあっという間に駆け回り、皆面白半分で噂しているのだが────まるでそれを証明するかのように、いつもはワラワラとどこからか湧くシロアリの様にウロウロしているゲイルやその手下達が本日全く姿を見せていない。

そのため嘘か真かは分からないが、ギルド内がパッと明るくなった事は事実だ。


「 ほう!そいつは何とも嬉しくなるような話だな!

本当にそうなら、ゲイルのクラスはデカい手柄でも立てないと王都には帰れなくなってしまうんじゃないか?

これは今後真面目な働きが期待できるかもしれんぞ。 」


「 フフフッ確かにそうですね!

何処かのクラスと争って負けるならまだしも、一般人……しかも子供に~なんて噂が広がれば、それだけでも冒険者としては大打撃でしょうからね。


────でも、まだ厄介なヤツが……。 」



声を潜めてその話をしたその時────嫌な気配がして、ザップルさんと私がスッと笑みを消しさり、ギルドの入り口の方へ視線を向けると、ガタンッ!!と音を立てて入り口の扉が開かれる。


そしてそこから一人の30代半ばくらいの大柄の男が、4人程の柄の悪い男たちを連れて入ってきた。


その大柄の男は大ぶりの宝石がついた装飾品をいくつも身につけていて、そのせいで歩く度にジャラジャラと金属の擦れる音がギルド内に響く。

更に胸元が見えるくらい気崩れたフリル満載の白いシャツに、その上には襟元にふわふわした羽毛が沢山ついた豪勢な、見るからに高級そうなコートを羽織っている。


その格好だけ見れば金周りが良い貴族の様にも見えるが……まるで獲物を常に狙う猛禽類の様な目つきと、下品に歪むニヤついた口元を見れば、そんな上等な教育を受けてきた様な者とは到底思えぬ人物であった。


クラス名【 氷龍の宝玉 】


< ナックル >


彼こそが< ゲイル >率いる【 絶炎のスネーク 】と共に王都から派遣されたクラスのトップだ。


長いくせ毛を後ろ手に縛り、癖なのか?長めの前髪を弄りながら、奴はまっすぐにこちらへと向かってきた。


隙だらけに見えるが、腰に装備した金色に輝くサーベルに軽く手が触れており、それこそ殺気の一つでも感じようものならすかさず抜いて切りかかってくるくらいには隙がない事も分かっている。

ナックルはザップルさんの前に立つとニヤニヤ~と嫌な笑みを浮かべてペラペラと喋りだした。


「 よぉ~う!ザップルの旦那ぁ~。さっきはウチのモンが悪かったな~。

随分と迷惑を掛けちまったようでよぉ。

ち~っとばかしモンスター相手にビビっちまったみたいでパニックを起こしちまって、旦那のお陰で全員無事で良かったぜぇ~。


……そのかわりウチのもんは当分使い物にならなくなったがな? 」


ピリッとした攻撃的な空気がナックルから発せられ、ザップルさんとの間に一瞬火花が走る。


「 ……ほぅ?

Eランクの年数と場数だけならベテランの冒険者がパニック……なぁ?

そりゃ~冒険者という仕事自体が合ってないんだろうよ。

取り返しがつかなくなる前に引退したほうがいいんじゃないのか?

上司のお前さんからそう伝えておいてくれ。 」


「 ……おいおい、随分冷たいんだなぁ?

たかが一度依頼に失敗したからといってその言い草はよぉ~。

上に立つ者としてどうなんですかぁ~?

ザップルの旦那はぁ~!実力がねぇ奴らは全員引退しろって!そう言いてぇんですねぇ────!! 」


ニヤニヤしながら大声で叫ぶナックル。

後ろに控える4人の仲間たちはすぐに大爆笑し始めるが、現在それに対し同じく笑う者たちはギルド内にはおらず、場はシーンとしている。


「 ノリ悪ぃ~な、空気読めよ。これだから優等生様たちはつまんねぇ~んだよな。 」


それが気に食わなかったらしいナックルは、チッと舌打ちし仲間達と更に笑い合ったが、ザップルさんの怒気に気づき、ストンと表情を失くした。

          ・・・・
「 ・・今回お前達に使われた奴らはやっと成人を迎えたばかりの奴らだった。

そんな将来有望な若者が当分依頼を受けられない状態にまでなったんだぞ?


────いい加減にしてくれないか? 」


「 ……へぇ~?この俺にそんな事言っちまうんだ~?


……それがどういう結果を招くのか分かってんだろうな? 」


そう言ってナックルは、またしてもニヤニヤ~と口元を歪めながら、ギルド内にいるまだ経験の浅そうなザップルさんのクラスの子達に舐めるような視線を送る。


それに対しザップルさんからブワッと殺気が漏れ出した、その瞬間────


「 やれやれ……若いもんはすぐ熱くなるのぉ~?


結構、結構! 」

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