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第十二章

468 グリモア支部の事情

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( エイミ )



ーートントン


机の上で依頼書の束を整えながら、私は顔を上げてギルド内にある大時計を見る。


すると時計の針はそろそろ夕ご飯の時間を示しているのに気づき、んん~っと手を上に上げ大きく伸びをしていると、依頼を終えたザップルさんがちょうど帰って来て私に向かって手を振ってきた。



「 エイミ、疲れているところ悪いが一つ依頼書の処理を頼んでいいか? 」



「 勿論大丈夫ですよ!ザップルさんこそ、これで連勤何日目ですか?

お休みして下さいーーと言いたいところなのですが・・


今日の依頼は・・・またですか。 」



ザップルさんは眉を寄せ、少し苛立った様子でメガネをクイッと上げる。



「 まぁ、いつもと同じだな。

今日一緒になった奴らも、経験のまだ浅いパーティーの奴らに説明をわざとせず、前線に立たせては討伐の手柄は全て横取り。

更に最後はそいつらを囮にして逃げやがったよ。


勿論全員きっちりぶっ飛ばしてやったがな。

しかし結局は喉元すぎれば・・だからな、ああいう奴らは。 」



「 ・・そうでしたか。 」



依頼書に書かれている内容を読みながら、痛む頭を労わるようにこめかみを揉み込んだ。



どの組織でもそうだが、善良に仕事に取り組む人もいればその逆の人達もいる。

我がグリモア支部も例に漏れずそうであったが、厳正なルールの元厳しく見張り体制をしていたため特に大きな問題には発展してなかった。



しかしーーー


この度起きているグリモアでのモンスターの大量増加により少しづつ小さな問題が起き始めていった。


” 慢性的な人手不足 ”


それにより見張る上の者達の目が届かなくなってくると、そのルールをちょこちょこと破る者達が現れ始め、さらにそういった奴らは群れる事で力をつけ上手く他者を利用し陥れる事で利益を得ようとする様になっていく。


その際、特にターゲットにされるのは新人や経験の浅い冒険者達で、取り分を不当に減らすのはまだ良い方。

他にも囮に使う、逃亡時の置き去り、下準備なしの斥候に特攻・・などなど命を危険に晒す行為までに発展していけば、ギルド内の空気はどんどん悪くなっていった。


それでも出来得る限りそういった事態は、ザップルさんや他のベテラン冒険者達が発見次第防いでくれて、なんとか最後の一線だけは守っていたのだが・・・

そこでトドメのある事件が起こる。





それが王都で活躍していた巨大【 クラス 】を率いているCランク冒険者


< ゲイル >と< ナックル >の派遣だ。





この二人のクラスは王都にある冒険者クラスの中でも1位2位を争う人数の多さで、それを丸ごと率いてのグリモアへの派遣であったため人手不足の問題は解決するかと期待された。



ーーーーしかし・・



そいつらの事を考えると私の頭は更に痛みを増していき、更に強くこめかみを揉み込んだ。



確かにそれぞれのクラスに所属しているメンバー達のソロの実力はそれなり、数で圧倒しモンスターを討伐してくれるため結果的に街の安全には貢献してくれているのだが・・


とにかく素行が悪く、街に降りれば恐喝、暴力、無銭飲食に器物破損、などなど挙げればきりがないほど問題ばかり起こす。



守備隊が直ぐにそれを止めるが、” だったら王都に帰ってもいいんだぜ~? ” と大声で脅し始め、仕事をボイコットしてしまうので話にならない。


更にはそんな彼らに感化された、あまり素行の良くないランクが頭打ちになっていたグリモアの冒険者達は全てこの2つのクラスに加入し、今やすっかりその仲間入り。


ますます勢いがついてしまい、もう見張ることすらほとんど出来ていないのだ。


そして勿論そんな奴らは、自分たちより下のランクの人達や新人、経験の浅い冒険者を食い物にしてどんどんと肥大化していっている。


そんな中、とうとうついこの間、新人の若い冒険者達がそいつらに囮にされ重傷の状態でギルドに運び込まれた。

幸い命は助かり、今のところ死亡者は出ていないが、それも時間の問題だろう。



私はそれらの事を考え、はぁ・・とため息をつく。



今やザップルさんが率いているクラスだけが唯一その勢力に対抗しているが、” 悪 ” は手段を選ばず、こちらは防戦一方・・


それにもしこの状態が何らかのきっかけで崩されれば、あっという間にクラス同士の戦争になってしまうので慎重に動かねばならない。


こちらから手を出せば相手の思うつぼ。

それを大義名分に一斉に攻撃を仕掛けてくることは考える間もなくわかり切っているので、ザップルさんも面と向かって戦う事ができないのだ。


犠牲になるのはクラスの中でも実力や経験の浅い者達だから。



どうにもならない状態に暗くなっていく気持ちを感じ、それを振り払う様に軽く頭を振った。


とにかく今は出来ることを精一杯やるしかない、そう心を奮い立たせながら先ほど聞いた朗報ともいえる話題をザップルさんに振った。


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