上 下
446 / 1,370
第十章

431 完結している幸せ

しおりを挟む
( レオン )

俺はリーフ様に触れたくて、その背中に向かってゆっくり手を伸ばしたが────それより先に大きなお化けさやえんどうを目の前に突きつけられた。


「 美味しいの沢山食べれるね! 」


ニコニコとご機嫌で言われてしまい、俺の手はそこで止まる。


リーフ様を捕まえようとした手には、大きなお化けさやえんどうが……。


俺はそれをジッと見下ろしながら、” 欲してくれない ” 人から ” 貰う ” ためにはどうしたらいいのだろう? ” と考えた。


” 沢山の《 想い 》を貰って喜びを教えて貰った。 ”


” どんな自分でもそのまま受け入れてもらえる居場所を与えてもらった。 ”


そんな ” 幸せ ” を存分に貰った雛鳥はそこで大きく大きく育っていき、やがて大人になって大きく育った翼で広い世界へと飛び立っていく。

決して後ろを振り返らず、沢山の人、モノに触れ自分の居場所を作ったら、今度は誰かにその ” 幸せ ” を与える側へ────……。



そうなって貰う事がリーフ様の ” 幸せ ” 。
           ・・
そしてその幸せはそこで完結している。



────きっとこの価値観は一生変わらない。



だってリーフ様は────………………………だから。



俺はお化けさやえんどうの皮をペリッ……と剥き、畑に植えていくと、嬉しそうにそれを見つめるリーフ様の姿がある。


そして更にキノコ部屋を作り、キノコを植えれば喜ぶリーフ様。


「 ……こんなにも近くにいるのに、なんて遠いんでしょうね。 」


ため息交じりでそう呟いたが、リーフ様はすっかり畑に夢中になっているため俺の声などもう聞こえていない。


でもそれでいい。


だってこれもリーフ様の ” 個 ” で、それがなくなってしまえば愛しいリーフ様が消えてしまうということだからだ。


俺はそんな事は望まない。絶対に。


キラキラと畑を眺めるリーフ様をみつめながら、俺は軽く首を横に振り、いつかリーフ様が納得する形が見つかるといいなと思った。



だって俺の飛び立つための翼なんてとっくに切って捨ててしまったし、” 他 ” を見るための目も、聞くための耳も、全て喜んで潰してしまったから。



きっと今までリーフ様に沢山のモノを与えてもらった人はそれで満足して、彼の "   幸せ   "  を叶えてきたんだろうと思うが……。


俺は一瞬だけ酷く幸せな気分になって微笑んだ。





ありがとう。


俺が決してできない形でリーフ様を幸せにしてくれて。






そして良かった。



誰も戻ってこなくて。





「 二人とも色々ありがとう。

そろそろお腹が減ったしせっかくだからレオンが作ってくれた縁側でご飯を食べてみないかい? 」



そう提案するリーフ様の言葉によって、意識は再び愛しい人の元へ。



俺はそのままのあなたが大好き。

全部全部全部。俺に不都合な部分も全て。



だから何も消えてほしくない。そのままでいい。




他に奪われないなら、今はこれで幸せ。

与えられるモノだけで我慢して、いつかは……。




……────と思おうとしたのに……結局心というものはとても強欲で難しいものなのだと、この後思い知らされた。



ご飯を食べるため縁側へ向かうリーフ様とその後ろにピタリと着いていく俺。


そして到着後、俺が ” 椅子 ” になろうとしたのだが、そんな間も無く ” やほ~い! ” と嬉しそうに床に座ってしまったリーフ様にズンッ……と心に冷たいものがまたしても押し寄せてきた。


理屈では分かっているのに心はその通りに従ってはくれない。


” 俺のために変わってほしい ”  

” 俺に全てを与えて欲しい ” 


またしても、子供の癇癪の様な気持ちでいっぱいになってしまった。



日に日に心が強欲になっている自覚はある。

心は本当に忙しくて難しい……。


そんな自分に呆れながら、パクパクと幸せそうな表情でパンを食べるリーフ様の姿を見ると、ひんやりした心は徐々に治まり、代わりにホワッとした暖かい気持ちが戻ってきた。


穏やかな気持ちでリーフ様の食べる姿を眺めながら、その手に持っているパンへと視線を移す。


不思議な事にリーフ様の手にあるものはキラキラと輝いていて、どんなゴミでもまるで世界一価値のあるもののように見えるのだ。

────これも心がなにかしら作用しているからだろうか……?


不思議だ……と心の中で呟きながら、俺はリーフ様の手にあるパンをジッと見つめ続けた。


今はそのパンが欲しくて欲しくて堪らない。

全てなど望まないから、せめて目につく与えられるものだけでも俺は欲しい。


そうささやかな願望を抱きながらジッと見つめてくる俺を見て、リーフ様はいつも通り手に持つ食べかけのパンを俺の方へ差し出そうとしたのだが────そこでピタリと止まった。


そして突然その手を引っ込め、恐らくは俺に与える新しいパンを取ろうとそちらへと手を伸ばし────……ここでもう、我慢の限界がきた。

しおりを挟む
感想 264

あなたにおすすめの小説

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

【完結】竜を愛する悪役令嬢と、転生従者の謀りゴト

しゃもじ
BL
貴族の間で婚約破棄が流行し、歪みに歪んだサンドレア王国。 悪役令嬢のもとに従者として転生した主人公・グレイの目的は、前世で成し遂げられなかったゲームクリア=大陸統治をし、敬愛するメルロロッティ嬢の幸せを成就すること。 前世の記憶『予知』のもと、目的達成するためにグレイは奔走するが、メルロロッティ嬢の婚約破棄後少しずつ歴史は歪曲し、グレイの予知からズレはじめる… 婚約破棄に悪役令嬢、股が緩めの転生主人公、やんわりBがLしてる。 そんな物語です。

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

お決まりの悪役令息は物語から消えることにします?

麻山おもと
BL
愛読していたblファンタジーものの漫画に転生した主人公は、最推しの悪役令息に転生する。今までとは打って変わって、誰にも興味を示さない主人公に周りが関心を向け始め、執着していく話を書くつもりです。

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

悪役令息の死ぬ前に

やぬい
BL
「あんたら全員最高の馬鹿だ」  ある日、高貴な血筋に生まれた公爵令息であるラインハルト・ニーチェ・デ・サヴォイアが突如として婚約者によって破棄されるという衝撃的な出来事が起こった。  彼が愛し、心から信じていた相手の裏切りに、しかもその新たな相手が自分の義弟だということに彼の心は深く傷ついた。  さらに冤罪をかけられたラインハルトは公爵家の自室に幽閉され、数日後、シーツで作った縄で首を吊っているのを発見された。  青年たちは、ラインハルトの遺体を抱きしめる男からその話を聞いた。その青年たちこそ、マークの元婚約者と義弟とその友人である。 「真実も分からないクセに分かった風になっているガキがいたからラインは死んだんだ」  男によって過去に戻された青年たちは「真実」を見つけられるのか。

処理中です...