上 下
445 / 1,370
第十章

430 見つからないね

しおりを挟む
( レオン )


……ふぅ。


小さく息を吐き出し、その考えを散らすと、俺はベッド・マッシュと巨大な瘴核、そして分離した素材達を多次元ボックスに入れ、建設途中であった『 巣 』へと戻った。


そしてまずは寝室へベッド・マッシュを設置した後、リーフ様ご所望の温泉へと向かい、湯船の真ん中に黒いドラゴンの瘴核をセット。

そのまま瘴核に向かってレイピアをスイスイと動かし、台座の上に立つリーフ様の像を創り上げると、その出来に思わず口角が上がる。


完全に再現された美しいリーフ様の姿に、神々しさが増す白い簡素なドレス。

更に手には全てを受け入れる器の広さを象徴した聖杯を持たせ、完璧ともいえる出来の像が完成した。


しかも嬉しい事に、この瘴核は物凄いエネルギー量を秘めているようで、これだけで家中の魔道具を操作可能。

しかもそれが少なくとも10万年分くらいはありそうだという事が判明。


これは良いものを手に入れたと、満足気に頷いていると……俺の ” 目 ” に写るリーフ様が楽しそうに人と話す姿が見え、一気に機嫌は下降した。


俺がいなくてもリーフ様は楽しそう。


それがとても悲しかった。


俺はこんなにもリーフ様がいないと何も得ることが出来ないのに、リーフ様は俺がいようがいまいがその生活も心情も何一つ変わりはしない。


俺の存在がリーフ様に影響することは決して無いのだと、改めて突きつけられた気分だった。


────別にそれでも良い、結局ついていく事は変わらないのだから……。


そうは思ってはいても、心は複雑に絡んで絡んで────……。


” こんなにも欲して、俺は全てを捧げているのになぜそれと同じものを返してくれないのか? ”


そんなお門違いとも言える思いを抱いてしまう。


最初は単純だったはずの感情達は、その種類が多くなれば多くなるほど複雑化し、思いもよらぬ形で新たな感情を生み出しては俺を翻弄する。
     ・・
俺1人ではこれをどうすることもできなくて、だからそれをその発生源であるリーフ様にぶつけてしまうのだ。


こんな事、冷静に考えれば良くない事だと思っているのに止められず、俺は帰ってきたリーフ様をひんやりと凍る心のまま見つめた。


「 おかえりなさい、リーフ様。 」


なんとなくいつもと少し様子が違う俺に、リーフ様は戸惑う表情を見せながら「 た、ただいま! 」と返してくる。


「 ……街、楽しそうでしたね。 」


俺はリーフ様に捧げられたであろう食べ物達を、嫉妬で握り潰してやりたい気持ちを必死に抑えながら、淡々と話を振った。


「 うん!凄く楽しかったよ。

グリモアの人達は凄くいい人達だったから今度レオンも行こうね。 」


そして、そんな望んでいない答えを返され、更に心が冷えていくのを感じた俺は、直ぐに話を逸らす様に『 巣 』についてどうか?と尋ねた。


するとキョトンとした表情を見せた後、リーフ様は酷く喜んだ様子でこの『 巣 』を気に入ったと言ってくれる。

そしてニコニコと笑みを浮かべながら、俺が作った『 巣 』へと入っていくリーフ様の姿を見ると、心の冷えは治まった。


一時的にだが……。



そして一つ一つ丁寧に部屋についての説明をすると、その全てに喜び、” ありがとう ” と言ってくれて、心は少しづつポカポカと暖かくなっていくが、やはり先程浮かんだ想いは中々消えてくれない。


” なぜ俺とだけ一緒じゃだめなのか? ”


” 外なんていらない。

リーフ様を奪うそんな場所に行って欲しくないし、行きたくない。 ”


心にモヤモヤする気持ちを抱えながら、あの黒いドラゴンで作ったリーフ様の像のところまで案内すると、その出来に感動している様でフルフルと震えているのが、後ろ姿から分かった。


確かにアレは素晴らしい出来だった。


そう自画自賛しながら満足気に頷くと、リーフ様はテッテっテ~と少し離れたところまで行き────そのまま走って俺に抱きついてきたのだ!


その分かりやすい喜びの表現に、ドキッ!と俺の心臓は大きく跳ねた。


「 レオ~ン!!凄いじゃないか!俺、本当にびっくりした!

やればできる子レオ~ン!

流石は俺の奴隷だ!よく頑張ったね~。 」


全力で嬉しい!と訴えながら、満面の笑みで胸に顔を擦り付けてくるので、俺の心は "    嬉しい "  で 一杯になる。


” こんなに喜んでくれて俺も嬉しい! ”


その気持ちを返したくて、そのまま抱きしめ返そうとしたのだが……リーフ様はあっさりと俺の上から降りようとし、更には帰ってきたヒヨコもどきに興味が移ってしまった。


俺の ” 悲しい ” は再び蘇り、心は冷える。


心の冷えを感じながら、それを訴える様に抱きしめ、そのまま畑の方へと飛んだ。

するとリーフ様は、黄色いヒヨコもどきが持って来たものを興味津々で眺め、あっさりと俺から離れていってしまう。


リーフ様は何も欲しがらない。

だからそれ以上俺は何も手に入れることができずに、ここで強制終了。


俺はもっとたくさんたくさんリーフ様からの気持ちが、想いが欲しい。

……なのに求めてくれなければ何も貰えない。


「 ────────。 」



────そこで俺は唐突に理解する。






リーフ様という人間の孤独な世界観を。






……だから沢山いるのにあなたは見つからないんですね。

しおりを挟む
感想 264

あなたにおすすめの小説

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

お決まりの悪役令息は物語から消えることにします?

麻山おもと
BL
愛読していたblファンタジーものの漫画に転生した主人公は、最推しの悪役令息に転生する。今までとは打って変わって、誰にも興味を示さない主人公に周りが関心を向け始め、執着していく話を書くつもりです。

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

悪役令息の死ぬ前に

やぬい
BL
「あんたら全員最高の馬鹿だ」  ある日、高貴な血筋に生まれた公爵令息であるラインハルト・ニーチェ・デ・サヴォイアが突如として婚約者によって破棄されるという衝撃的な出来事が起こった。  彼が愛し、心から信じていた相手の裏切りに、しかもその新たな相手が自分の義弟だということに彼の心は深く傷ついた。  さらに冤罪をかけられたラインハルトは公爵家の自室に幽閉され、数日後、シーツで作った縄で首を吊っているのを発見された。  青年たちは、ラインハルトの遺体を抱きしめる男からその話を聞いた。その青年たちこそ、マークの元婚約者と義弟とその友人である。 「真実も分からないクセに分かった風になっているガキがいたからラインは死んだんだ」  男によって過去に戻された青年たちは「真実」を見つけられるのか。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。

処理中です...