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第十章

415 せっかちだね

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( レオン )

普通に聞いただけなのに、リーフ様は突然青ざめ、ササッとヒヨコもどきの後ろへ移動してしまう。


「 ?? 」


とりあえず視覚だけで追いかけてみれば、地面に何かを書いていて、どうやら俺に説明するため考えをまとめているだけの様だ。


ならば待つ。いつまでも。

そう決心して待つと、意外にすぐに出できたリーフ様はしどろもどろになりながら、必死にその説明をしてくれる。


「 あそこは、ちゅっ……チューしてくれたり、抱きしめてくれたり……。

一生懸命体を使ってお金を稼ぐ場所なんだ。 」



────────なんだと?


リーフ様の言った言葉が一瞬脳から飛び出そうになったが、ギリギリでそれをキャッチした。


そしてしっかりとそれを頭の中に焼き付けると、今度はブワッ!!と黒い何かが外へ飛び出そうとしたので、慌ててそれを中に押し込む。


” 今後、俺は体を使ってお金を……。 ”


つい先程言っていたリーフ様の言葉を思い出し、決して誤解がないように、俺は慎重に慎重に……リーフ様に尋ねた。


「 ……体で稼ぐとは……キス……したり……抱きしめたりする事……なのですか? 」


「 えっ?……あー……うん、そうそう。

要はその魅力的な体を触らせたりして相手に満足してもらうお仕事だね。 」


誤解しようがない返しに、体温は氷点下まで下がる。


しかし……まだ決めつけるのは早い!


己を奮い立たせ、続けて尋ねた。


「 それは何処をどれくらい触らせるおつもりなんですか……? 」


呼吸も辛いほど混乱しながら、その質問を投げかけたのだが……リーフ様はさも当たり前の事の様にあっさりと答えた。


「 う~ん、そうだねぇ、主におっぱいとかお尻とか……?

とりあえず好きなところを好きなだけ触っていいみたいだよ。 」


お……おっぱい……?

……お尻……???


インパクトの強すぎる言葉!


クラクラしながら、俺はリーフ様の胸部や下半身の方へと視線を動かし……ボンッ!!と羞恥で頭が破裂してしまった。


そ、そんなところを好きなだけ触って良いのか……。


その様子をモヤモヤと考えてしまえば、すっかり俺の意識は夢の中へ……。


そして、以前見た夢と同じ、裸のリーフ様が俺の眼の前に現れ ” いっぱい触って良いよ。 ” と言う。


俺はドキドキしながら、その体に手を伸ばしかけた……が────?


気がつけばリーフ様の後ろに沢山の男女が入り混じった人々がいた。


────スゥ……。


嬉しいドキドキは、もの凄い速さで消え失せる。


無言でその集団を睨んでいると、そいつらは口々に喋り出した。


「 俺も触るー! 」


「 順番よ~!早く交代して~ 」


「 私、沢山お金もってきたから沢山触れるわ。 」


全員金貨を握りしめながら、ワーワー!と騒ぎ出したため、消してやろうとしたが……リーフ様は天使の様な笑顔で、後ろの集団に目を向ける。


「 いいよー!

じゃあ、順番に並んで待っててね~! 」




……────ハッ!!


直ぐに現実へ意識は戻り、俺は縋るようにリーフ様の両腕を強く掴んだ。


「 ……それを複特定多数の人間にさせると……そういうおつもりなんですね? 」


否定してくれ!

そんな願いを込めてそう尋ねたが、リーフ様は迷う素振りは一切ない。


「 あ、うん。 」


完全に肯定されてしまった……。


その瞬間、俺の体から抑えられるはずがない殺気が溢れ出す。


俺以外の者が触る?

あの夢の中の様に?



────────そんな事許せるわけないだろう!


そんな想いがグルグル頭の中を周り暴れて制御できなくなってしまった。


きっとリーフ様にとって体を触らせる行為はさほど重要ではない。

その事は、貴族の入浴時の嗜みの話から分かっていた。


貴族は入浴時体を触り合うのがマナーらしいので、リーフ様も、恐らく俺と出会う前は何度もそういった触れ合いを経験済みのはず。


それが俺は気が狂いそうなくらい苦しいのに、これからも?!


───────ミシミシっ!!


怒りのあまり、リーフ様の腕を握った手に力が入っていった。


どんなに辛くとも、過去の事実は消えない。

だから俺は俺の全ての能力を駆使し、そのような嗜みをしようとする輩がいないか見張っているのだ。


今後触って良いのは俺だけ。

もしそういった触れ合いをしようとする輩が現れたその時は────……。


薄暗い想いを持ちながら日々見張っているおかげか、今のところ入浴時は毎日一人で入っている様だ。


だが、安心はできない。

しかも入浴時以外で触らせるなどあり得ない!


感情がぐんぐんと高ぶり、それに合わせて黒いドロドロした嫌な感情がドバッと溢れる。

そしてそれはリーフ様を目掛けて、絡みつく様にベタベタとくっついていった。


「 駄目です。それは、絶対に。

何故そんな事をする必要があるのですか?

その体を沢山の者に触らせるなど……そんな事をしようとする奴は全員消します。 」


残り僅かな理性で必死の説得を試みたが、反応はイマイチの様だ。


そんなに俺以外に体を触らせたいのか……。


そう理解すると、ドロドロと粘着質の俺の黒い心はリーフ様をまるで隠してしまうかの様に覆い始めた。


それをボンヤリと眺めながら、悲しくて悲しくて……。

今にも零れそうな涙をグッと我慢した俺は、黒に覆われとうとう目だけしか見えなくなってなってしまったリーフ様に最後に呟いた。


「 どうしてですか……?

俺はそれも我慢しなければ一緒にはいられないのですか?

そんな……そんな事を許す世界なんて……。


いっそ……。 」



──── ” 無 ” にしてしまって永遠に1つにしてしまえば?



ボソッと囁く声が聞こえた瞬間…………まるでその声を遮る様に、突然誰かに両目を隠された。


背後から抱きつくように、暖かい両手で。




「 レオンは本当にせっかちだね。


……そんな意地悪な声に負けては駄目だ。


せっかく手にした "   もの   "   取られないようにね。 」




それなりに歳をとっていそうな男性の声で、耳元で囁かれた優しげな言葉。

"    俺が背後を取られた   "   という事実だけで……それが誰なのかは直ぐに分かった。

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