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第九章

404 補正力

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( リーフ )

夏の定番 "  流れるプール  "  の中で浮き輪にしがみつき流されていく俺とレオン。

その映像を思い浮かべると、思わずプッと吹き出してしまったが、直ぐにキリッ!と表情を引き締めた。


俺が最も恐れるのは運命に逆らったことで起こる< 強制力 >と< 補正力 >

それがどんな形で現れるか分からないから、レオンハルトの運命は大きく変えないほうが良いと、レーニャちゃんは言っていた。

最後は変わらないとしても、それをする事で代わりに何が犠牲になるか分からない。

それって本当に怖い事だ。


ボンヤリと星を見ながら今まで共に過ごしてきた人達との思い出を振り返り、最後にレオンとの思い出がブワッと頭の中を駆け巡る。


あの時レオンはこうだった、あーだった。

心配だった、悲しかった、楽しかった、迷った────と、今も続くレオンとの思い出達。


俺にとっては宝物の思い出たちを1つ1つ振り返っていると、唐突に────ううん?と僅かな違和感が湧き上がった。


最終的な運命は変わらないとしても、どうしても俺には今のレオンが ” 無 ” の世界を望む様には見えない。


レオンは表情にこそ出ないが凄く優しいし、周りの人達を傷つける様な事はしない。

それに最近は必死に周りに溶け込もうと努力をしている。


そんな子が物語のレオンハルトの様に全てが ” 無価値 ” であると果たして答えるだろうか?
 

キラキラ輝く沢山の星達を見上げながらそんな事を考えた。


狂気ともいえる社畜思想であるとしても、お仕事をしているレオンはとても楽しそうだし……。

まぁ、ちょっと引っ込み思案のため1人になりたがるが、だからといって世界がなくなればいいという極端思考にはならないと思うし……


だとすると、レオンが ” 無 ” を望まなければ、その< 補正力 >はどこからくるのだろう……?


スィ~スィ~と手を軽く振ってやる気のない背泳ぎをしながら更に考えたが、レオンハルトの根本となる運命さえ大きく変えなければ大丈夫だとレーニャちゃんは言っていたので、恐らくそこは大丈夫だろう……と思う。


なら、やっぱりレオンが最終的に選ぶ答えは変わらないのか……


そうか~……と美しく輝く夜空を見つめしんみりとしてしまったが、ちっぽけな俺にできる事はとても少ない。


俺にできる事は、自分の手が届く先の未来だけを考えレオンの未来を大きく変えずに虐めて決闘して、負ける事だけ。


だがーー……


それ以外の脅威からは俺が死んでもレオンを守り抜いてみせる!





…………



な~んちゃって!なんちゃって!



照れながら手の動きを止め、むひょひょ~と笑う。

そしてまた湯船の揺れに体を預け流されながら、眠る様に目を閉じた。


"  まっ!大丈夫大丈夫~!なんとかなるなる~。

この人生2度目のおじさんに全てド~ンとお任せなさーい!  "  


心の中で胸を叩きながらご機嫌で目を瞑りプカプカ浮かんでいると、いつの間にかお湯がジャバジャバ溢れ出る俺の像の真下へと移動していて、滝の様に流れる湯が顔面に直撃!


あっけなく俺の体は沈没してしまった。


────ゴボゴボ~!


完全に油断していた俺が溺れていると、俺の様子をジッと観察していたらしいレオンがすかさず海難救助の様に俺を助ける。

そしてそのまままたジ~……と俺の様子を隈なくチェックし、完全に体の力が抜けている事を確認すると、ご機嫌でそのまま俺を後ろから抱き込んだ。


レオンはこうして基本俺のしたいことを邪魔しない。


そして今の様に俺が、飽きたかな~?というタイミングを狙いこうしてモソモソと近づいてくるのだ。

それに居心地の良さを感じるのと同時に、俺に合わせようと努力してくれる姿にもジワッとした喜びを感じる。


相手のために自分を変えようとしてくれるってことは ” 想い ” をかけてもらっているってこと。

それって本当に嬉しくて一番の幸せな事だと俺は思う。


後ろからぬいぐるみの様に抱っこされながら、居心地の良さにハァ~と息を吐き出した。



人に与えてもらう ” 想い ” こそが、本当に心が満足するために必要なものなのかもしれない。

前世で最終的に出した答えはコレ。


特に前世の俺が最後を過ごした場所、死を待つしか無い人達のための終末の場所では、誰しも死に近づけば近づくほど、欲するのは自分以外の人が自分に向けてくれる ” 想い ” だったから余計にそう思ったのかもしれない。


死んであの世に持っていけるものは何もなくて、今まで築き上げた富も名声も、それこそその他者がくれる気持ちだって同じなのに、揃いも揃って後者のものを望んで旅立っていく。


” 大事な人達は皆死んで自分が最後の1人なの ”


そう言っていた人も、最後は沢山の思い出が詰まったアルバムや思い出の品とともに笑いながら逝ってしまった。


だから、人がくれる” 想い ” ってものは自分という存在が消え去る時に、最後に持っていきたい大事なものなのかもしれない。


そして俺自身もそれを実感しながら、最後は人生を終えた。



鼻と耳にお湯が入ってしまったためブンブン首を振り、水気を飛ばす。

その後は後ろから抱きしめてくるレオンに体をすっかり預けると、レオンは嬉しそうにより一層強く俺の体を抱きしめてきた。


レオンの側は不思議な場所だ。


なんだかホカホカしてて、どんなに出鱈目な場所に行ってしまっても変わらずそこにあるって思わせてくれて……そしてさりげない ” 想い ” を感じさせてくれる。


そういう場所って一体なんて呼べばいいんだろう??


今までの自分の記憶、思い出と合致しない ” 不思議 ” に頭をグイッ~と傾けると、頭を掻いてくれの合図と勘違いしたレオンが片手でヘッドマッサージを開始した。


するとレオンからはとても嬉しそうな雰囲気が漂う。


” 人に頼られると嬉しい ”

もしかしてレオンの社畜的な働きっぷりはそこから来ているのかも。


フッとそう思いついてしまい心が痛むが、貰えるものは貰っとけの図々しいおじさんはコレ幸いとそれに頼り、そして同時にこんなに純粋で将来大丈夫かと心配になってしまった。


だからついクドクドと人の悪意に対して偉そうに語ったが、モニモニ頭を揉まれてウットリしてるから説得力なし。


多分うるさいネズミ男だと思われている。


そうしてそのまま喋り続ける駄目駄目な俺の話を、レオンはひたすら頷いてくれて、何だかそれも嬉しくて、フッと思った。


こういった日常の中でレオンが少しでも何か想うことがあったなら……


” 最後の時 ” に、俺はレオンが最後に持っていく思い出の……端っこの端っこくらいにはいられたりするのかな?


そうだといいな~と思いながら、あげ玉が黄色から赤に変わってしまった事に気づくまで、俺とレオンは二人で一緒に夜空を見上げていた。

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