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第九章

385 レオンの挨拶

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( リーフ )


レオンのやる気スイッチON!

よ~し、よし!これはいい感じだぞ~?


俺は直ぐにマフィアの黒猫ちゃん席からピョンッと飛び降り、座っているレオンの脇にズボッ!と手を入れると、そのまま起っきさせる。


立ち上がったレオンの頭、寝癖な~し!

いつも通りのサラサラツヤツヤヘアーOK!

更に服の汚れ、シワな~し!

表情筋は死んでいるが、食べカスはお口についてな~い!


ピッ!ピッ!と指差しチェックをすると、そのままフンッ!と背中を押して、レオンを舞台へ送り出した。


するとそのままレオンはやる気満々で、ザッザッと前のスピーチ台の前まで行き、全校生徒の前にゆっくりと向き直る。


会場内は痛いくらい静まり返っていて誰一人動くものすらおらず、多分お通夜でももっと音がするよ~?と言うくらいの恐ろしいまでの静けさが漂った。


恐怖からゴクリと唾を飲む全生徒と教員たち。

ホームビデオ欲し~もしくはカメラみたいな魔道具もってくれば良かった!と死ぬほど後悔している俺。

そんな俺達の前で、レオンは静かに話しだした。




「 この世界はリーフ様のためにある。 」




??????



…………えっ?何?

あれ?今、レオンなんて言った???



耳をホジホジしてしっかり聞くことに完全集中した俺の耳に、その後も次から次へとレオンの謎の言葉達が容赦なく入ってくる。



「 お前たちを含めたこの世界のありとあらゆる全てのモノは、リーフ様のためだけに存在している。 」


「 それ以外に価値などない。それを忘れずに日々過ごすことだ。 」


「 リーフ様のために戦い、リーフ様のためだけにその命を使え。

────分かったな? 」



固まってしまった教員と生徒たち、そしてビッシビシ叩く様に入ってきた言葉で言葉が出ない俺のせいで、その場はシーンと静まり返ってしまった。



……俺、なんか変なこと言った?

レオン、何で急にそんなこと言っちゃったの???


オロオロしながら思ったのは、馬車で移動中話す内容を完璧に書いておけばよかったという事。

勿論後悔しても遅過ぎた。


目元をグニグニと揉み込んで、どうしてレオンがそんな酷い事を言ってしまったのかを必死に考えてみる。


レオンの現在の身分は俺の奴隷。

奴隷は主人に絶対服従で、逆らえば奴隷陣から耐え難い痛みが体中を襲う。


そんな状態で先程の俺のあいさつに対する説明を聞いて、レオンの頭の中は多分こうなった。


” 大事な事はご主人に逆らわない事、働くことこそ幸せであると言う事~。

それが奴隷の幸せ、つまり皆もそれが幸せ。

だから主人( リーフ様 )のために馬車馬のように働くべきだと思うな~。

そうしないと、体に痛いのビリビリきちゃうしね! ”



…………そっか~。


今更レオンを脅してしまった事に気づき、血の気が引いたが……ニッコリ笑ってなんとか誤魔化す。


挨拶程度の軽い言葉でも、相手次第で高圧的な発言やセクハラ的発言に捉えられてしまう。

奴隷と主人の関係はそのいい例だった。


後悔と反省に打ちひしがれている俺とは逆に、レオンは、キラキラと輝く目を俺に向けてきて ” 俺、ちゃんと言えましたよ! ” と目で語ってくる。


そんなまっすぐで純粋な目を直視できずに、視線を舞台の上のイシュル像へと向けて逸らし、ついでにお祈りしていると……。






「 …………ふざけるな……。 」




ボソッと小さい声がレオンの横の方、舞台に立つ教員たちの端から聞こえたため、俺や他の生徒達、教員達も一斉にそちらへ視線を向ける。


するとそこにいたのは熟したトマトの様に真っ赤になって激おこしている「 ないない君 」……じゃなくてジュワンであった。


ジュワンは周りの教員たちが止めようとするのも振り切り、大声で怒鳴り出す。



「 ふっざけるなぁぁぁぁぁぁぁ────────っ!!!!この化け物がっ!!!


そこは奴隷如きが立っていい場所じゃねぇんだよっ!!

試験の時は訳の分からねぇ手を使いやがってっ!!!

そのご主人様に高価な魔道具でも持たせてでも貰ったんだろ!?────あぁっ!!? 」



突然ビシ──ッ!!と激おこジュワンに指さされ、おおおお???と驚いたが……魔道具のびっくりおったまげな値段を思い出し、買うお金な~い!と首をブンブンと振っておいた。


突然の険悪な空気と、ブワッ!!!と上がったジュワンの殺気により全員が固まってしまった、その瞬間────ジュワンは剣を抜き、スキルを発動した。



<剣才士の資質>  (ノーマルスキル)

< 刹那 >

気づけば切られていたと錯覚するほどの凄まじいスピードで敵を斬り伏せる攻撃系スキル。

自身のスピードが早いほど攻撃力がUPする。

(発現条件) 

一定以上の攻撃力、スピードを持つ事

一定回数以上剣のみの勝負をして勝つこと



あまりのスピードに生徒達はおろか、教員たちすら動けず立ち尽くす中、ジュワンは一瞬でレオンに向かって突っ込んで行き、その剣先が首を捉えた!



────────と思われたが……。





────ヒョイッ。



レオンは俺に視線を向けたまま、一切ジュワンの方を見ずに軽~くその剣を避ける。



「 …………はっ……??? 」



間抜けな表情を晒したジュワンは直ぐに体制を立て直そうとしたのだが、それより先にレオンはジュワンの後頭部をワシっと掴み────。



そのままスピーチ台へと顔から叩きつけた。




バキバキバキ────────!!!!


大きな音を立ててスピーチ台は見るも無惨に砕け散る。


そしてその原因?となってしまったジュワンの体は、頭から床に半分くらいめり込んだ状態でやっと止まった。



「「「「 ………………。 」」」」」



下半身のみがプランと外に飛び出ているその姿は、まるで何かの野菜が床から生えている様……。


会場内のほぼ8割以上の者達は、気がつけばジュワンがレオンの足元で畑の野菜になっていた様にしか見えず、ポカンと口を開けていた。


しかし残りの何があったのか一瞬でも分かった者達はドッ!と大量の汗をかき、全身を震わせながら椅子から転げ落ちる者達までいる。


ちなみに立っている教員達は全員が目の前でそれを目撃してしまったため、もぐらたたきで叩かれる様に次々とへたり込んで、全員の視線は野菜のジュワンから平然と立っているレオンへ。


そしてそのまま会場中の視線がレオンへ集結したのを察知した俺は────────自分のすべきことをはっきりと理解した。



────────トウっ!!


俺は直ぐに舞台の上に飛び乗り、レオンと『 ないない君 』改め『 畑の野菜 』に変身したジュワンの前に堂々と立つ。


そしてビシッ!!と天を突く様に右手で天を指差し、意気揚々と叫んだ。

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