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第八章

365 アーサーの言葉

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( ユーリス )

そんな事を言っていたアーサー様の事を突然フッと思い出した。

他国に旅立つ直前に、突然そんな事を言い出したアーサー様に急に何だ?と顔を向けると、彼はフフフ~と機嫌が良さそうに小さく笑った。


” いきなり何のお話ですか?

とりあえずは今は本日討伐が完了したモンスターについての報告がしたいのですが・・ ”


” いやいや、大事な話なのだよ、ユーリス君。

どんなに努力しても人の歴史の中では何度も争いがおきてしまうんだ。

それを引き起こすのはほんの一握りの人間だというのにね。

分かっていても止められないんだよ。

嫌だと願う人達の方が圧倒的に多いというのに・・


では、それを止めるには何が必要なんだろう? ”


訳の分からない質問には慣れているため、俺はいつものことかとそっけなく返す。


” さぁ?それを鎮圧する圧倒的な力・・とかでしょうか? ” 

すると、ぞんざいに返したにも関わらず、アーサー様は機嫌が良さそうに頷いた。


” それもありだね~。

1人の圧倒的な力を持った ” 英雄 ” によって世界の命運が決まる・・

何をしても辿り着く先が変わらない "  人  "  に対して、神様がそういう世界のシナリオを作ったのかもしれないね。


でもその命運は ” 英雄 ” の選択で決まるとしても、その選択自体は、それまで彼が生きてきた環境とその環境によって発生してきた感情によって決まる。

つまり結局は、世界の命運は全世界の人々が決めるのと同義というわけだ。 ”


” はぁ・・・ ”


アーサー様の話は基本8割くらいがこんな感じで、いまいち要領を得ない話が多い。

その為いつも通り右から左へ流しながら聞いていると、アーサー様はそれは重々承知とばかりにニコリと微笑んだ。


” 絕望しかないと分かっていても、俺はたった1つの希望に向かって歩いていかないといけないかな。


険しい道になるし、途中に最悪ともいえるシナリオも・・

ーーそして結局それを越えられなければーーーー・・・ ”


アーサー様はそこで話を不自然に切り、突然自身の机の引き出しを開け一冊の絵本を取り出す。



『 シュペリンの踊り猫 』


この国の子供なら一度は見たことがある有名な絵本だ。


なぜ急に??

頭にはてなマークをいくつも飛ばしていると、アーサー様は、ニカッ!と子供の様に笑ってから、今度はクローゼットの中から旅人が持つような大きなバックを取り出しそれを背負う。

そしてキョトンとする俺の前で更に帽子までボフッと被った。


” じゃっ!あとはよろしく!俺、他国に行ってくる~ ”


ヒラヒラと手を振りながら部屋を出ていくアーサー様。

その時はふざけているだけと思い普通に見送ったが、なんとその後アルベルト団長を連れて本当に他国へと旅だってしまった。


結局は、恐らくエドワード派閥に対抗する手段として他国の協力を得るため旅立ったのだろうが……それにしても急な出発にこちらはてんてこ舞いの大迷惑を被る事に。

全く・・と呆れてしまったが、他国との関係性を強固にするという作戦は現状では確かにとても効果的であるといえよう。


なぜならエドワード派閥は他種族に対しかなり激しい排他的感情をもっているため、他国の有権者からの支持が得やすいからである。


現在、この人族の国< アルバード王国 >

獣人の国 < ジェンス王国 >

エルフの国 < レイティア王国 >

ドワーフの国 < ガンドレイド王国 >


この四カ国は【 四カ国同盟 】を結び、友好な関係を築いている。


そしてそれを結ぶきっかけは、ある国の存在にある。


それが人族至上主義かつ侵略により他国を常に危機に晒そうとする侵略国家ーーー

< ドロティア帝国 >である。


そして、その隣に位置する豊かな資源と商人達が多く暮らす人族のみの国

< ガリウス帝国 >

ーーーは、そんなドロティア帝国と【 二カ国同盟 】を結んでいる。


この二カ国により世界は常に危険に晒されているのだ。


” この世界は人族によって支配されるべき ”

” 真の強者が治める世界こそが正しい世界のあるべき姿である ”


< ドロティア帝国 >はその様なかなり振り切った実力主義を掲げ、他種族の国を蹂躙し自国を発展させていった。

そしてそんなドロティア帝国を経済的にバックアップし恩恵を得てきたのが、商人の国ともいわれている< ガリウス帝国 >である。


この二カ国と他種族は戦ったが、強大な力に豊富な資金と資源、種族特有の弱点を巧みについてくる高度な戦闘戦術などにより苦戦を強いられていた。


ーーーが・・その時、助けに入ったのがこの< アルバード王国 >だ。


ドロティア帝国と同じく人族の多いこの国に種族特有の弱点はなく、相手の複雑な戦術にも対応してくる上、< 仮想幻石 >による徹底された防衛戦に、他種族の優位特性を生かした戦術との共同戦線まで練られてしまえば、流石に撤退するしかなかった。


つまりその戦争後に結んだ四カ国同盟とは、ドロティア帝国とガリウス帝国に対する最大の抑止力でもある。

その同盟が破棄されることになれば、あっという間にドロティア帝国は戦争を始め世界中がそれに巻き込まれていくことになるだろう。


そんな事、子供でも分かることだというのに・・・



真っ赤に染まった大地、そして死体の山々の上に立つ男。

天高い空だけ見つめ平然とそこに立ち続けるその男こそ、第一王子の< エドワード >


そして下に広がる恐ろしい光景を見ながら酷く楽しそうに大笑いしているのが、そのエドワードを支えしメルンブルク家とエドワード派閥の者達だ。



目をソッ……と開けるとすっかり景色は元通りになっており、美しいと感じる自然豊かな平野と笑う人々の姿が目に映り込む。


絶妙なバランスの中、この平和の光景は保たれている


例え俺にとってこの光景こそが最も価値あるものだとしても、エドワードにとってそれは一切価値を感じるものではない。


『 自身の持つ価値観を貫く事 』


これこそが彼にとっての一番大事なものなのだ。


そもそも同じ世界線にないくらい違う考え方に、頭はズキズキと痛み、思わずこめかみを押さえた。


それこそそれを貫くことで世界戦争が起きたとしても、今度は自身の正当性を証明するため何が何でも相手を武力で叩き潰し勝とうとする。

そして彼の ” 正しき世界を証明する ” ため、沢山の者達が消費され消えていくことだろう。


再度頭を過るのは真っ赤に染まった大地。

そんな恐ろしい結末が待っていようとも、歪んだ豊かさに群がり支持する者達にとっては 『 今の生活を維持する事 』こそが一番大事で、それを守れれば他はどうでもいい。

それどころか、結果的にそれを守るため、他者が必死に戦い散っていく姿は自身のいる居場所が如何に幸せで素晴らしいかを証明してくれる最高の喜劇ですらある。


彼らの生きる世界に、他の ” 個 ” は決して存在しないんだ。


治まる気配がない頭痛を抱えたまま、俺は美しい青空を見上げた。


それがアルバート王国の未来を表している事を願いながら・・



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