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第八章

363 不思議な子

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( ユーリス )

そのまま神妙な顔でボソボソと呟くドノバンさんに俺はハァ……とため息をついた。

またしてもおじさんの特性 ” 勝手な妄想 ” そして ” 自己完結 ” をし始めて・・

うんざりしながら、「 ドノバンさん。 」と語尾を強めて名を呼ぶ。


すると、ドノバンさんはまたボケッと間が抜けた顔つきに戻り、頭をボリボリと掻いた。


「 ーーーな~んてな!まっ、そこまではないか・・・

流石にできねぇよな!うんうん・・。


あー~・・なんつーか、説明が難しいんだが・・


要はレオンはリーフが大好きなんだよ。

だからリーフが望まない限りは世界は平和のまま、多分大丈夫だろう。 」


「 はぁ? 」


” 大好きだから大丈夫 ” 

またしてもおじさんの特性 ” 根拠のない自信 ” 

そして ” 感情を元にした変動の激しい抽象的な答え ” が飛び出して思わず肩を落とす。


人の気持ちほど移り気なものはない


そんなもので100%安心とは到底ならないが、とりあえず今の時点でレオン君はリーフ君に対し、友愛か家族愛か・・そういった何かしらの好意的な感情を持っていて、暴れる可能性はないらしい。


俺は再びリーフ様について考えたが、ぱっと見た感じでは本当に普通の少年でしかない。


ただーーー読めないという点ではレオン君と同じものを感じた。


俺は騎士という職業柄、どうしても初めて会った相手に対し、その強さや様々な内在的要素を無意識に探ってしまう癖があるのだが・・

彼はそれがとてもぼんやりしていて全く読めなかった。


俺は顎に手を当ててその不思議な現象について考える。


とりあえずレオン君同様脳内であらゆる動きを想定して戦いを挑もうとしたのだが……リーフ君は突然ゴロンと横たわり居眠りを始めてしまった。

つまりそもそも戦いが始まらない。

それも初めての感覚だったが、レオン君とは違い危険信号と結びつかないため警戒対象からどうしても外れてしまう。


こんな事は初めてだ。

内在的な強さは感じるのに戦いが始まらないなんて……


そんな ” 不思議 ” に俺は首を傾げた。


その ” 不思議 ” は十分に警戒対象になるはずなのだがーーーーそのぼやけた印象と何よりビシビシと全面に警戒を訴えてくるレオン君が側にいることでまるで透明人間のようになってしまうのだ。


なんだか不思議な子だ・・・


う~ん・・と考え込む俺を見て、ドノバンさんは腕を組みながら背もたれに体を預け、すっかりリラックスモードに。


「 リーフを最初見た時は、本当に普通の子供だとしか思わなかったんだよ。

ほら、あいつって外見普通だし?パッと人目を引く要素ないし?

でもよ、話しているうちに分かるんだ。


あれ?こいつ普通じゃねぇって。 」


「 ・・・・。 」


ドノバンさんも俺同様の感覚をリーフ様に感じていたらしい。


やはり彼も警戒対象か・・と考えた瞬間、ドノバンさんは何かを思い出した様子でプッーー!!と吹き出した。


「 あいつホント~に ” 変 ” なんだよ!

あのおっかねぇレオンの事を赤ちゃんか何かかと本気で思っているんだぜ?!

突然訳の分からん事しだすし、俺のことも時々子供に接するように話してくるし。

そもそも言ってる事が村の長老かよっ!?って感じで、若い奴にありがちな欲とか感情が皆無なんだよな~。


かと思えば何かあれば誰よりもはしゃいで周りを巻き込んで騒ぎ出す。

そして毎回なんでこうなった??って勘違いして爆走するんだ。


さっきも絶対何か変な勘違いしてただろう? 」


「 ・・・・。 」


俺は目元に手を当て優しく揉み込み先ほどの出来事を思い出した。


確かに変だ。

なぜ自分を殺しにきた暗殺者が変態集団になったのか・・

そしてなぜあんなにも恐ろしい強さをもっているであろうレオン君が傷ついて可哀想な子供になってしまったのか・・


とりあえずその場では話を合わせたが、何故かは全く分からない。


再び考え始めた俺に構わずドノバンさんの話は続く。


「 ーーーで、そんなリーフが大好きで仕方がないのがレオンってわけだ。


・・・まぁ、気持ちは分からんでもないがな。

あいつは ” 呪われた化け物 ” で元々誰もあいつを恐れて近寄らねぇ。

一般人にはあの外見でまず爪弾かれて遠巻きにされる。


それを気にしねぇ奴がいても、あの強さにビビられてやっぱり誰も本当の意味で受け入れてくれるやつはいねぇんだ。 」


” 呪われた化け物 ” 

そんな存在はレオン君を見るまで夢物語にでてくるような存在でしかなかったが、もしも今の立場に関係なくそれを初めて目にした時、果たしてその時の自分はどういった行動をとるか?


多分、多くの者達がそうするようにきっと遠巻きにするだろう。


あまりにも自身の価値観、そして今いる環境との違いがある存在を受け入れる事は難しい。


もちろんその存在を物理的に排除しようとするのは自身の持つ信念から断固として反対するが、それと自分がその存在を受け入れるかどうかは話が違う。


レオン君の歩んできた人生を思うと同情する気持ちが湧き上がるのと同時にーーーー


” 絶対的な孤独の中を彷徨い続ける彼が、自分を受け入れてはくれない世界に対し一体どんな思いを抱くだろうか? ”


それを考えると恐ろしいまでの恐怖が身を包み込む。

青ざめてしまった俺に何かを察したドノバンさんは、ふぅ・・と息を大きく吐き出し窓の外へ視線を向ける。


     ・・・・・
「 まっ、それが普通だろう。

俺もお前もそれこそ色んな奴らを見てきたからなぁ~。


世界にそっぽを向かれた奴らの末路・・


でもその全てを受け止めるのだって難しいんだ。

色んな要素が絡んでくるからな、生まれも才能も生きてきた環境も・・そしてどうしようもできない運ってやつも。

それに欲しいものは人それぞれ違ぇから受け止め方だって何でも良いわけじゃない。

要は、” 自分の欲しいものを欲しい時に与えてくれる人間に出会えるか否か ” ・・なんだよな~、人生ってやつはよ。  」


しみじみそう言った後、「 あ、俺はむっちりナイスバディー美女のヨチヨチぱふぱふが常に欲しいんで!そこんとこはよろしく~ 」とふざけた事を言ってきたので、サァァーー……とすごい勢いで平常心が心に戻ってきた。


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