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第八章

348 おっさんは意外と苦労してる

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( ドノバン )

そんな想像をしてゾワッと体中に寒気が走り、それを温めるためシャカシャカと腕を擦る。


《 ・・まぁ、レオン君がなんであれ、結果的にその存在を隠すべきというのは決まっている事だ。

今のところ彼は ” 人 ” に対し非常に無害な存在と言えよう。

だだしリーフ様がいる限りは・・だがな。


幸いリーフ様はとても優しい子供に育ってくれた。

レオン君を使って何かをするなどは絶対にないので安心してもいいが・・何者かが何らかの方法でその力を使う事を可能にしてしまうかもしれん。

とにかくそんな事態をできるだけ回避するためにもレオンくんの存在は絶対に隠し通した方がいいだろう。

            ・・
だから、ドノバン、今回のそれはお前とユーリスの手柄にしてくれ。 》


「 ーーーあ~・・・やっぱり?

えぇ~・・分かっちゃいるけど弟子の手柄横取りするのとか、まじ嫌なんだけどぉ~ 」


渋~い顔でそうブー垂れたが、この場合は仕方がない事は分かっているので面と向かって文句は言わない。


しかし・・

師匠が弟子の手柄を取るとかめちゃくちゃかっこ悪くね?


おっさんの中の男としてのプライドがバシバシと痛いくらいに心を叩いてくる痛みに耐えていると、やっとユーリスが戻って来た。


奴の手にはジャラっと光る傭兵タグが4つ握られていて、それを伝電鳥に向かって突き出す。


「 カルパスさんが言った方向に確かに4人の傭兵の遺体がありました。

バラバラだったり原型を留めていなかったりで外見的な特徴はわかりにくかったですが、タグからあのSランク傭兵パーティーの ” 神の戯れ ” であることは間違いなさそうです。

ゴミクズみたいな連中でしたが、彼らの実力は間違いなくトップクラス・・

特にリーダーのバルザークなんて最年少でSランク傭兵になったほどの実力者なのに、最後はあっさりクビを切られて殺された様子でした。


ーーーで、一体誰がこんな事を? 」



俺とカルパスに向かってそう尋ねてきたユーリスに、俺はゴホンッとわざとらしい咳をした後、怪訝そうな表情を浮かべるユーリスに近づき、その両肩をモミモミと揉みこんだ。


「 いや~、お前若いのに苦労してるよな~。 」

「 たまにはリフレッシュしたほうがいいぜ?

あ、おっさんがエッチなお姉さんがいるお店連れてってやろうか? 」

などなど、穏やかな笑顔を浮かべて話しかけたがーーーユーリスは心底嫌そうな表情を隠さず見せてくる。

「 なんですか?辞めてくださいよ気持ち悪い。 」

容赦なくばっさりと言い捨て、更には肩を揉み込む手を、パパンっと跳ね除けてきた。

俺は叩かれた手にフーフー・・と息を吐きかけながら、ユーリスの方を見ずに俺は自分とヤツの顔を交互に指差す。


「 いや~、なんていうかぁ~・・

あーーー・・よしっ!!これ、俺とお前の手柄な!

そういうことでよろしくっ! 」


バチンッとウィンクした後は、解散解散~と言わんばかりに腕を後頭部に回し踵を返す。

「 はぁっ?!?!あんた何いってるんですか! 」

ユーリスは直ぐに抗議の意を口にし、そのまま俺に詰め寄ってきたが、俺はピュピュ~♬と口笛を吹いて目線を逸らした。


その後もごちゃごちゃと、あーだ、こーだと言ってくるユーリスに俺は「 い~じゃんい~じゃ~ん♬ 」とのらりくらり。

すると伝電鳥から何度目かのため息が聞こえた。


《 ボソッ・・・(この役立たずの駄犬め・・)

ユーリス、実はな、今はあまり声を大にして言えぬ事情があるのだ。

すまないが、今回だけはドノバンの言う通りお前たちの手柄にしておいてくれないか?

いずれ全てを話す。


それに、これはお前にとって悪い話ではないだろう。

何と言っても公爵家のご子息の命を救ったのだ。

これを最大限に使ってあの穀潰しのゴミクズ集団・・おっと、間違えた、第一騎士団に一泡吹かせられるぞ? 》


あれ?頑張ったのに俺、酷い事言われなかった??


ガガーンと密かにショックを受けていると、カルパスの言葉を聞いたユーリスはニヤリと口元を歪め、おっと!と言わんばかりに直ぐにそれを手で隠す。


「 なるほど!分かりました。

それではありがたくその手柄は頂戴いたしますね。


しかし、流石はカルパスさん!

分かりやすい説明に、更にはコチラの内情もよくご存知のようで話が早くて助かります。

第二騎士団は今も昔も脳筋の上司ばかりで本当に大変で・・

ここいらで第一騎士団にバシッとアドバンテージをとってやりますよ。 」


「 ・・・お前の昔の上司って俺じゃね?今は団長のアルベルトじゃ・・・

つーか、お前そういうの良く平気だな~。

なんか人の手柄を横取りって、こう・・男のプライド的なもんがよ~・・ 」


ユーリスは俺の物言いに蔑むような目を向け、フー・・とため息をついた。


「 これだから熱血世代のうっとおしい老害は・・

いいですか?プライドよりも大事なのは効率です。

貰えるものは貰う、便利な新技術は迅速に取り入れる、それが出世する秘訣なんですよ。 」


《 うむ、確かにその通りだ。

どこぞの熱血駄犬と違って無駄な感情に左右されない最近の若者は話が早くて助かるよ。


では、コチラも後始末があるのでこの辺で失礼する。


ーーーあぁ、そうそう・・ドノバン、悪いがこっちに来る際、王都でスターフルーツを買ってきてくれないか?

久しぶりに食べたくなってな。

お前にも端っこを食べさせてやろう。


では、頼んだぞ。  》



< スターフルーツ >

比較的暖かい場所に生える20~30cmほどの星型の果物。

パカッと切れば中には甘くて水々しい赤い果肉がぎっしり詰まっているため手土産として人気が高い。




バサバサ~!と上機嫌で飛び去っていった伝電鳥を黙って見送りながら、ディスられた上にお使いまで頼まれる俺って・・と考え、ふっと今までの思い出が浮かび上がった。


なんだかんだで毎回お使いを頼まれてはリーフ邸へと持って行き、一番美味しいところはリーフやレオン、そしてジェーン、イザベル、クラン、カルパスの順番で食べ、俺とアントンはその切れ端や皮ばかりチュパチュパ吸っていた気がする。


今更気づいた衝撃の事実!

しかもアントンと俺、意外と端っことか皮って美味いよな~とか言い合って普通に食べてた!


あわわわ・・と衝撃に小刻みに震える俺、しかし頭の中では既に美味しいスターフルーツのお店を思い浮かべている辺りもう俺はもう駄目かもしれない・・


ガックリと肩を落とす俺を他所にユーリスは上機嫌で伸びをし、

「 さぁ、ドノバンさん、これから忙しくなりますよー! 」と張り切りながら動き出す。




俺はそれにフラフラとしながらも大人しくついていった。
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