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第七章

325 なるようにしかならない

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ややグロ注意ですm(__)m


( アントン )

やがて悲鳴は止み、シーンと静寂が辺りを漂い始めた頃。

慎重に結界内の生体反応を探った俺達は、1つの反応を残しそれが無くなったことを確認して、結界の中に一斉に突入した。


勿論俺も同様に中に入ったのだが、中に広がる酷い惨状に思わず吐き気がこみ上げる。

   
苦悶の表情を浮かべたまま黒い ” 皮 ” だけになってしまった村人達の姿……。

中身は多分ドロドロにとけてしまったのだろうか?その皮を中心にドロッとした黒い液体だけが残り、辺り一面。濡らしている。


” 呪いは少しづつ体を締め付け精神にも肉体にも酷い苦痛を与えるんだ。

その死に方は人として迎える一番苦しい死に方とまで言われているよ。

……死を待つだけさ、掛かってしまったらね。 ”


呪いを初めてみた俺に気づいたらしい他の傭兵がそう説明してくれて 、更には─────

 "   過疎化手前の村だったから子供がいない事だけは幸いだったな "  

…… と気遣う様な言葉まで掛けてくれた。


 "   すみません。もう大丈夫です  "  


俺は深く息を吐いて返事を返し、新たに呪いが発生する前に元凶を仕留めようと気持ちを切り替え警戒したが─────その必要は一切なかった。


その ” 男 ” は、女物の赤いリボンを握ったまま、村の中央の広場にボンヤリと立っていた。


─────あいつか?


直ぐに攻撃しようとしたが、他の傭兵達がまた止めてきて静かに首を横に振る。


そしてその場に立ち尽くす俺達の存在に男は気づいたのか、視線をこちらにゆっくりと向け─────……





ニコッ……。





とても幸せそうに笑った。


その笑顔がこの惨状にあまりにも不釣り合いで、ゾッとしたのも束の間─────男は誰かの名前を呟き、そのまま黒い砂となって消えてしまった。


呪いの代償……それは彼自身の命であった。



” 呪いはこの世で最も恐ろしいモノ ” 



実際に自分の目で見てしてしまえば、それが嫌というほどそれが分かる。


その恐怖は ” 呪い ” というモノ自体だけではなく人の感情…… ” 心 ” というものが恐ろしいのだと、そう思った。


俺がレオンに感じる恐怖はこの出来事が元になっている。


” 呪い ” という存在に対する恐怖と、人の感情についての恐怖だ。


もし ” 呪い ” を発生させた男に家族がいたら?

大事な友が、仲間がいたら?

恋人以外の何か大事なモノがあったら?


きっと結果は違っていたと思う。


呪いは誰でも発生させられるものではなく何かしらの条件があるようで、それは現在詳しくは分かっていないが、少なくとも常人では抱けぬような強い感情がトリガーになっている事は間違いない。


そして恐らくそれを育てる感情は ” 孤独 ” なのではないかと俺個人は思っていて、あの男もそんな常人には理解できぬ ” 孤独 ” の中を生き、ある時突然出会ってしまったのだろう。


唯一自分をその ” 孤独 ” から救い出し、この世界に存在させてくれる人間に─────。


その事を思い出しながら、肉を頬張ったリーフ様を幸せそうに眺めているレオンを見て、俺の心に巨大な恐怖が覆いかぶさった。


レオンはリーフ様という存在によってこの世界に存在している。


” 食べ物が美味しいから ” 笑うのではなく ” リーフ様の意識が自分に向くから ” 笑っているだけなのだ。

要はレオンにとっての感情とはその行動自体ではなく、たった1人によって引き起こされるモノだから。


” たった1人に己の全てが収束する。 ”


それは強いが同時に非常に恐ろしい事だ。


依存などという言葉ではとてもじゃないが収まりきれない程の執着をみせ、愛などという言葉が羽の様に感じる程の大きくてグチャグチャに混ざった感情の全てを、リーフ様に向けているレオンに不安と恐怖を感じる。


・・
それが無くなってしまったその時、レオンは─────……?





「 美味しかった~。アントンありがとう! 」


リーフ様の嬉しそうな声に俺の意識は、はっ!と思考の渦から突然放り出され、反射的に差し出された串を受け取った。


そして俺の料理が如何に美味しかったかをしみじみ語るリーフ様に、後ろにくっついているレオンの機嫌は急降下していく。


レオンが気になってリーフ様の言葉が入ってこない……。


俺が内心汗を掻いてそれを見守っていると、知ってか知らずかリーフ様が、「 よし!修行がてら俺がたまにはレオンを運んであげよう! 」と言ってレオンを背負うと、そのまま森の方へ風のように消えてしまった。


「 …………。 」


小さいリーフ様に背負われ、ごっそり体がはみ出ていたレオンの体を見て、思わず遠い目に……。

レオンの足は地面にべたりとついていたため、足先で描かれた線の道が森の方まで続いている。


……あれでは靴に穴が空いてしまっただろうな。


足指自体に問題は無いだろうから、平然と穴あき靴で修行に付き合っているだろうレオンを想像し、先ほどまで感じていた不安や恐怖は吹き飛んだ。


不思議な事に、リーフ様の傍にいる時のレオンはその存在が薄まるとでも言うか……うまく言えないのだが、その脅威度が勝手に完結してしまっている気がする。


弾丸の様に飛び回り突飛良しもない行動に振り回され、気がつけば何も出来ずに踊らされている様な感じだろうか……?

結局、レオンも既に踊らされているのかもしれない。


あんな恐ろしい強さとドロドロした感情を持った奴と平気で一緒にいれるなど、とてもじゃないが無理。

しかしそれを受けてなお何一つ変わらず歌って踊ってそのペースに巻き込んでしまうなど、やはり断トツに ” 変 ” なのはリーフ様だと思う。


厨房へ戻り、残りの地震モグラの肉を焼きながらそんな事を考え、未来に対する不安を頭の中から追い出した。


” なるようにしかならない ”


これは今までの経験から出した、俺の人生観というやつだ。


俺は火の暑さに流れた汗を拭いながら、なんてイカれた職場に就職してしまったのだろうと改めて思ったが、口元には笑みが零れていた。


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