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第七章

324 呪いの恐怖

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( アントン )


ムシャムシャと地震モグラの串に刺さっている肉を1つ食べ終えたリーフ様は、当然の様に後ろにいるレオンにその串を近づける。

するとレオンは今までの無表情から一変、幸せで幸せで仕方がないといわんばかりの笑みを浮かべながらその串肉を食べ始めた。


きっとこの光景だけを切り取れば微笑ましい子供同士のコミュニケーションなのだろうが、傭兵の勘が全力で鳴らす正体不明の警戒音と ” 呪い ” 自体に対する恐怖、そして・・


何よりレオンの持つ非常に狭い世界観にある出来事を思い出し、俺はどうしても微笑ましいという言葉が思い浮かばない。




俺が初めてレオンを見た時感じたのは ” 呪い ” という存在自体に対する恐怖であった。

黒髪に黒い瞳はそれほど厳粛なイシュル信者ではない俺からしたら大したモノではなく、ましてや傭兵なんてものをやっているとそれ以上に強烈なモノを見ることは多々あったので、格別気になるものではなかったがーーー ” 呪い ” は別だ。




俺の脳裏には今でも忘れることが出来ない1つの事件が思い浮かぶ。



ある村で ” 呪い ” が発生しその鎮圧に駆り出された時の事。

その当時はまだ呪いというものに関して軽く考えていた節があり、とりあえず生還者の保護を第一に・・と考えていたがーーー

それは現場に向かうまでであった。



到着した時、村を囲うように結界が張られているのが目に入り、既に到着して入り口辺りに集まっていた他の傭兵達のところへと急いだが・・その表情は一様に暗い。


それに一瞬ギョッとするも、結界の中では沢山の人々の苦痛を訴える大きな悲鳴が上がっていたため、俺は急いで救出を!と中に入ろうとしたのだが・・・

メンバーの中でも最年長であろう男が俺の行動を制し、静かに言った。



” 手遅れだ ” ーーーーと。



しかし、目と鼻の先にまだ生きている人達が沢山いる。

助けないわけには・・と訴えるような視線を向けたが、その男は動揺することなく淡々と話した。



” 伝染型の呪いだ。少しでも触れれば死ぬ。

俺達に今出来るのは、感染した者達が外に出られないようこのまま閉じ込める事だけだ。

呪いを掛けた奴はこの村の中にいるから村人が全員死んだ後、一気に片付ける。 ”


そんな・・と悲痛な表情を浮かべた俺に更に男が語ったのは、何故 ” 呪い ” が発生したのかという事だった。



” 呪い ” を発生させたのはこの村の村人である1人の青年。

彼には生まれた時から両親はおらず、この閉鎖的な村では厄介者として扱われてきたらしい。


それに加えて、貧しくて娯楽も一切ないような限界集落の中、これといって代わり映えのない日常を村人達はその青年を犠牲にすることで、退屈や不満を発散してきたのだそうだ。


そんな長く続く辛い日々の中、彼が外の世界に逃げ出そうとしても唯一の娯楽と言っても良いその青年を逃したくない村人達はそれを許さずーーー

洗脳に近い暴言に酷い暴力、そして逃げるための知識すら全て奪い ” 逃げる ” という概念そのものを取り上げて、彼を自分たちにとって都合がよい存在で有り続ける事を強いてきた。


そうして他者のためにその人生が消費されていく中、彼は1人の女性と出会い恋に落ちる。


そして彼女もまた酷い環境の中耐え続ける青年に恋をし、その青年の待遇について村人達に必死に訴えを続けたのだが・・・

それが気に入らなかった村長の息子と仲間たちがその女性を力づくで襲おうとし、抵抗されたためそのまま殺してしまったのだそうだ。


しかし村人達は誰一人それを咎め罰する事をしようとせず、それがさも当たり前の事であるかの様に語る。


” あんな厄介者に惚れて、平穏な村を陥れようとするような女、死んで当然でしょう? ”


” お前が厄介者だったから死んだんだろ?そんな当たり前の事を他人のせいにするなよ。 ”


そう口々に男を責めながら・・・



それぞれの村や街で起きた事件は基本その中で解決するよう法律で決まっているため、こういったケースの場合、被害者は村の中以外助けを呼ぶことはできず大抵は泣き寝入りするしかない。


酷い話だが、それは格別珍しい事ではなく権力を持った人が正しいとし、それにあやかりたい、もしくは自分に関係ない事だから事を荒立てたくないし、何より今いる ” 居心地のいい環境 ” を壊したくないと考える者たち総出で事件をもみ消すなんて事は、小さな村や街ではよくあることだ。


しかし、今回はそれが原因で ” 呪い ” が発生してしまい、あっという間に村人全員が感染、駆けつけた時はもう手遅れであったらしい。


そのため直ぐに最初に着いた傭兵のグループは結界を張り村の人達を閉じ込めたのだが、どうやら効くまでに時間がかかる遅行型の呪いだったようで、まだ苦痛を感じていない村人達が結界の中からずっと叫んでいたそうだ。


” 人でなし! ” 

” 早く助けろ!!それが仕事だろうがっ! ” 


そう散々喚いていたそうだが、顔色1つ変えない傭兵達に対しやがて青ざめポツリポツリとこの度の経緯について話し始めたのだそうだ。


馬鹿な事を・・と思った傭兵達は大きなため息をつき ” 村の中の事はその中で解決するべきなんだろう? ” と皮肉を込めて言えば、村人達は顔を大きく歪めて怒鳴る。


” なぜ直接関わっていない無関係の自分達まで犠牲にならなければならないんだ! ” 


本気で怒りを顕にする村人達へ、傭兵達は最終宣告を叩きつけた。


” 結局は何もしない、目を瞑り犠牲ありきの自分にだけ居心地のいい場所を選ぶというなら、そこに破滅が来た場合はそれと共に滅ぶのが筋というもの。”


” 自分が助けて欲しい時も同様に見て見ぬふりをされる ” 

それが己の欲を優先した世界の ” 代償 ” なんじゃないのか?


そう傭兵達が言い放つと、真っ青な顔をして震えだす村人達。

そんな村人達を見ながら、最後にもう一度大きなため息をつき傭兵達は続けて言った。


” そもそもの原因を作った村長の息子たちの死体だけでも差し出せば・・もしかして許してくれるかもな? ”


すると村人達の怒りはその村長の息子たちへ。

その怒りに震え上がった元凶の村長の息子たちは、その場から慌てて逃げていったが村人達はそれを追いかけ村の中央の方に走って行ってしまったのだそうだ。


俺はそこまで聞いた後、呆れてはぁ・・とため息をつき、他の傭兵達と同様「 なんて馬鹿なやつらだ・・ 」と呟く。

そしてこの世の終わりでも来たのか?と言いたくなるような数々の苦痛の悲鳴を聞きながらそれが止むのを待った。

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