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第六章
299 ヒロインの葛藤
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( ソフィア )
ルンルン~
そんな表現がぴったりなほど上機嫌のアゼリアを見て私の気分も自然と上向きになった。
【 ライトノア学院 】の入学院試験が終わり、私はこの度この< グリモア >で起こっている異変についての詳しい話を聞くため教会へと向かっている。
そのため今現在アゼリアと共に馬車の中に乗りそこを目指しているのだが、私は試験前、この街に着く前に起こった出来事を思い出し、ふっ・・と顔を曇らせた。
何者かに本来はモンスターを遠ざけるはずの魔道具< 回避珠 >が、逆にモンスターを引き寄せる< 魔引力珠 >にすり替えられていた事件・・
ーーーーーおかしいとは思っていたのだ。
< グリモア >にモンスターが大発生しているとはいえ、< 回避珠 >のレベルは最高ランクのレベル5、それでこのモンスターとのエンカウント率はどう考えても普通ではない。
その原因を調べようにも、恐らく非常に高い阻害系スキルか、はたまた隠蔽系スキルか・・
完璧に隠されていたその原因に成すすべもなく次々と襲い来るモンスターたちをアゼリアと護衛の聖兵士達が倒し、
私は安全な場所でこんな私を守ろうとしてくれる皆さんを眺めている事しかできない・・いや、それしか許されない。
そんな時、私はいつも思う。
・・・あぁ・・消えてなくなりたい、と。
でも出来ない。私はなんとしても生きなければならないから。
例え何を犠牲にしようとも。
私はアゼリアから視線を外し、窓の外の景色を眺める。
活気あふれる町並み、笑い合う国民達、そして和気あいあいとした幸せの情景はーーーー
一瞬で真っ赤に染まった。
見る影もなく崩れ去った建物達は瓦礫と化し、焼け爛れる大地、香る鉄臭と腐敗臭、そして所狭しと地面に敷き詰められる人だったモノ達。
私が死ねば、この景色が現実のものとなる。
だから周りの人達は私を生かすため全力で戦い、その命を散らしていく。
” どうか世界を守って下さい、聖女様 ”
” 世界を守って死ねて自分は幸せです ”
そう言って穏やかな笑みを浮かべイシュル神の元へと旅立っていった兵士達、それを何度も見送っては、私はその全ての思いを背負って生きていかなければならない。
日に日にその重みは増していき、私の足は、体はとっくに潰れている。
残っているのは、責任感と義務感、そして私を守って死んだ者たちへの感謝、罪悪感・・・
どんなに悲しくともその感情は外に出さずに、沢山のものを抱えて潰れた足を、体を引きずりながら私はひたすら前に進む。
個人的な感情をそこで見せてしまえばまた沢山の人に迷惑をかけてしまうから・・・それは全て完全に笑顔の下で隠して。
私の何気ない言葉1つで、沢山の人の未来を最悪な形に掛けてしまうかもしれない、だからこそ私の ” 死 ” を願う者達にとって絶好の攻撃材料になりうる非常に危険な個人的な感情は決して口に出すことはしない。
だからこそ私は自身の全権限を使い、教会を【 完全中立派閥 】とし今の今まで< エドワード派閥 >と< アーサー派閥 >のどちらも支持しない立場を守ってきた。
私が生きている間はこの立場を絶対に変えるつもりはない。
それが気に入らない緊張状態が続いているこの2つの派閥からは、
” 日和見姫 ”
” どっちつかずの腰抜け姫 ”
などと比喩され常に命を狙われようとも、どんなに恨まれようとも私はその立場を貫いてきた。
そんな周りが敵だらけの中で、現在最も注意すべきは大司教< グレスター >だ。
” 中立 ” という立場であるはずの彼が、エドワードお兄様と頻繁に一緒にいる姿が諜報担当の者から報告され警戒は一気に強まっている。
彼がエドワードお兄様と手を組めば、教会内は真っ二つに割れ、そのまま権力をかけて内戦が勃発するだろう。
なんとしてもそれは防がなくては・・・
エドワードお兄様にとってアーサーお兄様がいない今が最大の攻め時、必ずやなにか良からぬ事を仕掛けてくるに違いない。
あの過激派で有名なメルンブルク家も、なにやら最近怪しい動きが多いとの報告も入っているためこちらも手が抜けない。
他にも警戒すべき者たちは山程いるが、恐らく今回< 回避珠 >をすり替えたのはグレスターのはず・・・
しかし単独犯であれだけ高度な事を実行することはできないはずなので、それに加担した者達も数多くいるだろう。
そちらも警戒しなくては。
魔道具ならあの有名な< スタンティン家 >か・・
しかしあの家はエドワード派閥に完全に入る事を拒み続けているためその可能性は低いか?
・・では、魔法に精通した< レイモンド家 >か・・・
それとも・・・
疑念が疑念を呼び、何一つ、誰一人信じる事ができない状況下に、私はふっー・・と大きく息を吐き出しながら落ち着こうと今だに上機嫌な様子のアゼリアをもう一度見た。
こんなに楽しそうにしているアゼリアを見たのは久しぶりで、そんな彼女をみていると多少は気が晴れる。
私の専属聖兵士、そして唯一の大事な友達。
ルンルン~
そんな表現がぴったりなほど上機嫌のアゼリアを見て私の気分も自然と上向きになった。
【 ライトノア学院 】の入学院試験が終わり、私はこの度この< グリモア >で起こっている異変についての詳しい話を聞くため教会へと向かっている。
そのため今現在アゼリアと共に馬車の中に乗りそこを目指しているのだが、私は試験前、この街に着く前に起こった出来事を思い出し、ふっ・・と顔を曇らせた。
何者かに本来はモンスターを遠ざけるはずの魔道具< 回避珠 >が、逆にモンスターを引き寄せる< 魔引力珠 >にすり替えられていた事件・・
ーーーーーおかしいとは思っていたのだ。
< グリモア >にモンスターが大発生しているとはいえ、< 回避珠 >のレベルは最高ランクのレベル5、それでこのモンスターとのエンカウント率はどう考えても普通ではない。
その原因を調べようにも、恐らく非常に高い阻害系スキルか、はたまた隠蔽系スキルか・・
完璧に隠されていたその原因に成すすべもなく次々と襲い来るモンスターたちをアゼリアと護衛の聖兵士達が倒し、
私は安全な場所でこんな私を守ろうとしてくれる皆さんを眺めている事しかできない・・いや、それしか許されない。
そんな時、私はいつも思う。
・・・あぁ・・消えてなくなりたい、と。
でも出来ない。私はなんとしても生きなければならないから。
例え何を犠牲にしようとも。
私はアゼリアから視線を外し、窓の外の景色を眺める。
活気あふれる町並み、笑い合う国民達、そして和気あいあいとした幸せの情景はーーーー
一瞬で真っ赤に染まった。
見る影もなく崩れ去った建物達は瓦礫と化し、焼け爛れる大地、香る鉄臭と腐敗臭、そして所狭しと地面に敷き詰められる人だったモノ達。
私が死ねば、この景色が現実のものとなる。
だから周りの人達は私を生かすため全力で戦い、その命を散らしていく。
” どうか世界を守って下さい、聖女様 ”
” 世界を守って死ねて自分は幸せです ”
そう言って穏やかな笑みを浮かべイシュル神の元へと旅立っていった兵士達、それを何度も見送っては、私はその全ての思いを背負って生きていかなければならない。
日に日にその重みは増していき、私の足は、体はとっくに潰れている。
残っているのは、責任感と義務感、そして私を守って死んだ者たちへの感謝、罪悪感・・・
どんなに悲しくともその感情は外に出さずに、沢山のものを抱えて潰れた足を、体を引きずりながら私はひたすら前に進む。
個人的な感情をそこで見せてしまえばまた沢山の人に迷惑をかけてしまうから・・・それは全て完全に笑顔の下で隠して。
私の何気ない言葉1つで、沢山の人の未来を最悪な形に掛けてしまうかもしれない、だからこそ私の ” 死 ” を願う者達にとって絶好の攻撃材料になりうる非常に危険な個人的な感情は決して口に出すことはしない。
だからこそ私は自身の全権限を使い、教会を【 完全中立派閥 】とし今の今まで< エドワード派閥 >と< アーサー派閥 >のどちらも支持しない立場を守ってきた。
私が生きている間はこの立場を絶対に変えるつもりはない。
それが気に入らない緊張状態が続いているこの2つの派閥からは、
” 日和見姫 ”
” どっちつかずの腰抜け姫 ”
などと比喩され常に命を狙われようとも、どんなに恨まれようとも私はその立場を貫いてきた。
そんな周りが敵だらけの中で、現在最も注意すべきは大司教< グレスター >だ。
” 中立 ” という立場であるはずの彼が、エドワードお兄様と頻繁に一緒にいる姿が諜報担当の者から報告され警戒は一気に強まっている。
彼がエドワードお兄様と手を組めば、教会内は真っ二つに割れ、そのまま権力をかけて内戦が勃発するだろう。
なんとしてもそれは防がなくては・・・
エドワードお兄様にとってアーサーお兄様がいない今が最大の攻め時、必ずやなにか良からぬ事を仕掛けてくるに違いない。
あの過激派で有名なメルンブルク家も、なにやら最近怪しい動きが多いとの報告も入っているためこちらも手が抜けない。
他にも警戒すべき者たちは山程いるが、恐らく今回< 回避珠 >をすり替えたのはグレスターのはず・・・
しかし単独犯であれだけ高度な事を実行することはできないはずなので、それに加担した者達も数多くいるだろう。
そちらも警戒しなくては。
魔道具ならあの有名な< スタンティン家 >か・・
しかしあの家はエドワード派閥に完全に入る事を拒み続けているためその可能性は低いか?
・・では、魔法に精通した< レイモンド家 >か・・・
それとも・・・
疑念が疑念を呼び、何一つ、誰一人信じる事ができない状況下に、私はふっー・・と大きく息を吐き出しながら落ち着こうと今だに上機嫌な様子のアゼリアをもう一度見た。
こんなに楽しそうにしているアゼリアを見たのは久しぶりで、そんな彼女をみていると多少は気が晴れる。
私の専属聖兵士、そして唯一の大事な友達。
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