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第六章

295 絶対的恐怖

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( フラン )

私がそう言った瞬間……部屋の中は痛いくらいの沈黙に包まれた

全員顔は青ざめ、体は小刻みに震え自分で止めることができない。

更に別に暑くもないのに汗は止まらず、しかし誰一人拭おうともせずただ沈黙する姿はまるでこの世の終わりが来たかの様だ。


ここにいる者達は、アーサー様の理念の元集まった、いわば実力主義の真のエリート達。


そんな実力と強き精神力を兼ね備え、例え自身より強いモンスターでも果敢に掛かって行くような彼らが、揃いも揃ってこんな状態になってしまうなど普通ではない。


そう、普通では────……


「 ……リーフ様の奴隷の……レオン様の……点数は……

ひゃっ……100点でした……。 」


その衝撃の結果に誰しも言葉を失い、ただただ絶句した。


何故かというと、実はこの筆記試験は、絶対に100点を取ることは不可能だからである。


セリナは震える手を必死に抑えながら、私の前に受験生達全員の筆記試験の解答用紙を静かに置いた。

私も同様に震えを抑えながら、目の前に置かれたそれを手に取りペラペラとめくる。


筆記の試験は実質90点が満点であり、残りの10点は絶対に解けない魔術の叡智に関わるような問題を出題している。


それこそ最高峰の魔術師達を国中から集め、その全員で様々な文献や魔道具などを駆使し何十年……いや何百年かけても解けるかどうかレベルのものを。


魔術の研究とは本来そういうもので、師匠から弟子へ、そしてまたそれを継承した弟子がそのまた弟子へと世代を渡り解いていくもので、勿論それを解く事を期待して試験に出題するのではなく、要は────


” 解くことが不可能な問題に対しどの様な答えを出すのか? ”


それを見ているというわけだ。



現にこの問題によって本来その者が持つ性格というものが顕著に現れていて、例えばトップのソフィア殿とリリア殿。

二人は、分かるところのみを選び抜いて効率よく答えているのに対し、同位のジェニファー殿は1からきっちりとその理論を解こうとしている。

それに続くマリオン殿は、自身の得意分野をピックアップして書き、アゼリア殿は教科書通りの理論を書き出してみて、なんとか答えを見つけようと試行錯誤している様子が見られた。

さらにそれとは正反対に最初からこの問題が点数にならないことを理解し、白紙で出したのはクラーク殿。

このように多様な個性がみられる解答達の中、異質なのは、やはりリーフ殿とレオン殿だ。


リーフ殿は、まず文字でその問題を解いておらず、解答欄全てが絵で埋め尽くされている。


最後の方は子供が書くような虹の絵と変わった花の絵、そしてニッコリ笑顔の人?らしき者が沢山描かれていて、酷く楽しそうな様子がこれでもかと描かれているなんとも気が抜ける絵であった。

魔術の叡智に対する答えとしては、やや幼稚……いやだいぶ幼い印象を与える解答であるが、案外これこそが最終的にたどり着く ” 人 ” の理想像なのかもしれんと思ってしまうから不思議だ……。


そしてそんな言葉では片付けられぬレオン殿の解答。


現在解き明かされている魔術の先の先……はるか高みから我々をあざ笑うかの様な恐らくは完璧な答えが書かれている。


そもそも ” 人 ” が理解できる範囲を越えているその解答は、酷く簡素な文字で書かれているにも関わらず、それが ” 正解である ” という認識しか持てないものであった。


それはまさに ” 人 ” 如きが決して覗いてはいけない世界の ” 真実 ” 


そしてまるでそれを知ることを神が許さない様に、目に見えているはずのレオン殿の解答が瞬時に頭からかき消されてしまう……。


そんなゾッとするような現象を起こすレオン殿の解答用紙を、私はその場ですぐさま燃やした。

恐らくコレは世に存在していてはならぬものと、それだけははっきりと理解した……いや、 ” 何か ” に無理やり理解させられた故の行為であった。


それについて誰一人口を開こうともしない事から全員が同じ感覚を与えられた様だ。


まさに絶対的恐怖。


” 人 ” の身で抱えることのできぬ真実をも平然と待ち得るレオン殿は、一体何者なのだろうか……?

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