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第六章

293 そして残された

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( リーフ )

俺は感情が常時迷子のレオンの頭を、ソフィアちゃんに向けてグイグイ~と下げさせ、けっして開けようとしない口に見切りをつけて自分が喋る。

「 いえいえ~。うちの子もお役に立てて喜んでますので~。 」

ちゃんと答えないレオンの代わりに答え、更にペコリと頭を下げた。


第二次思春期の少年を子に持つお母さんは、だいたいこんな感じらしい。

ムス~っとして喋らない我が子の代わりに、親がペラペラ喋るしか選択肢がない。

そんな状況にため息をついていた女友達を思い出し、頭の中で "    分かる分かる~! "    と、心から同意しておいた。


まぁ、お返事無視はそれはさておき……レオンのお陰で帰りは安全に帰れそうで本当に良かった~。


レオンの頭をそのままスリスリと撫でると、レオンは頭を下げたままうっとり。


とりあえずこれが本当のナデナデなのだよ、レオン少年。

是非コレを目指して手加減を学んでおくれ。


動きが止まったレオンは、そっとこのままにしておいて、俺はソフィアちゃんに続けて言った。


「 心配事が無くなって俺も安心したよ。……じゃなくて良かったです。 」


そういえば見た目がまだ幼い可愛らしいお嬢さんだから忘れていたが、ソフィアちゃんは王女様、王女様。

それを思い出し、慌てて敬語に直してみたが自分で言ってて今更感が強い。

ソフィアちゃんもそう思ったのか、フフッと笑った。


「 中学院はアーサーお兄様の理念にしたがい実力重視ですし、それに教会の理念は "   平等    "    ですので、どうか普通にお話し下さいませ。 」


「 そ、そう?じゃあ遠慮なく……。 」


結局場所によって、その時正しいとされる態度は変わるもの。

要は ” 郷に入れば郷に従え ” というやつだが、それをアッサリ実行できるとは、ソフィアちゃんは非常に柔軟力に富んだ王女様の様だ。


柔軟性などとうに失い、郷に入れば痴呆症の俺とは別次元!

お見それした。


「 じゃあ、これから沢山お話したり遊ぼうね。 」


上機嫌でそう言うと、ソフィアちゃんはキョトンとした顔をした後────

「 そうですね……。 」

……と少し悲しそうにも見える笑みを浮かべながら答えた。


なんだかその表情にデジャブを感じ、おやや~?と目を僅かに見開く。


前世にて、孤児院に来たばっかりのまきがこんな感じだった様な?


幼馴染兼、恋人~を経て婚約破棄したお相手のまき。

懐かしい思い出が蘇るのとともに、その時言われた言葉がふいに頭をよぎった。



” ーーーだって……私は ” 面倒 ” だから……そんな私と仲良くしたい人なんていないでしょ?


それに……わたしもきっといつか両親の様に…… ”



俺は目の前にいるソフィアちゃんの両手をワシッと掴み、バンザ~イを一緒にしながら笑って言った。


「 これからの学院生活、俺、すっごく楽しみにしているんだ。

レオン共々うるさいと思うけどよろしく。


あ、あとあげ玉とモルトとニールもうるさいと思う。絶対。 」


「 は……は……い……。 」


ソフィアちゃんはびっくりしたのか、目を丸くして戸惑うような返事を返してくる。


その反応がこれまた部屋の隅っこが居場所だったまきとそっくりで、俺は懐かしさについついほっこりしてしまった。


俺みたいに頭より先に手と足が出るイノシシおじさんには理解が難しいが……まきは自分の都合で周りに迷惑がかかる事が一番嫌と思っている子であった。


そのため、周りの大人たちが優しさから────


” 言いたい事があるなら言っていいのよ ” 

” 悩みがあるなら話して ” 


な~んて、いくら言っても絶対言えないし出来ない。

寧ろ逆に追い詰められて塞ぎ込んでしまう時もあった。


"    自分のやりたいことをやる  "    

"    思っていることを口に出す  "  


それがとにかくストレス。


そしてそれを人に悟られて気を使われる事を、とにかく一番恐れる。


” 力になるから一緒に頑張ろうよ! ” なんて言われた日には、一日トイレから出られない日もあったほど。


ソフィアちゃんもそんなまきと50歩100歩の真面目~なタイプとみた!

なら、気の利いたことは1つも言えないデリカシー壊滅おじさんの俺は、ただ自分の思った事ややりたい事を伝えるのみにすべしと判断した。


” 俺が話したい。 ”

” 俺が楽しみ ”


あとは相手が何かアクションを起こしそうにしたらイノシシダッシュ、そして ” のっぽおじさん ” を発動。

名付けて空気読めないどころか見えない系おじさん流 『 トラップ型処世術 』


今の反応を見る分には、きっと王女様という身分の都合上、複雑な思いがあってそれで迷惑かけまいと思ってくれているに違いない。


12歳の子供がすでに中間管理職並のストレス社会に身を置くのは、本当に大変だとその苦労を想像してホロリ……。


頑張れ~王女様!


心の中でエールを送りながらソフィアちゃんの手を離し、妹ばっかり可愛がっている!!と嫉妬丸出しの兄の様に不機嫌全開レオンの頭を、また撫で回して黙らせる。

そしてレオンが、くた~としている間に「 じゃあ、教会のお仕事頑張ってね。 」と声を掛けるとソフィアちゃんは少しぼんやりとしたままだったが、「 ……はい。 」と答えた。


さぁて、俺達はどうしようかな~。


俺が再びこの後の予定について考えていると、ソフィアちゃんの隣にいるアゼリアちゃんが意を決したような様子で突如俺に話しかけてきた。


「 ……あ、あの!私、実はさきほどリーフ様が仰っていた、” ヤマトナデシコ ” という言葉が頭から、はっ、離れなくなりました!


それを私の心に刻んでも良いでしょうか?! 」


それを聞いた俺の心は凍りつく。


そ……そんなにあのセクハラ発言に憎しみを抱いてしまったのか……。


どうやら結構な根深い傷を心に負わせてしまったらしく、” この恨みはらさないでおくべきか ” 的な……そんな呪詛のような言葉が彼女から伝わってきて、ビビビッ!と恐怖で体を震わせた。


「 ……う……うん。いいよ。 」


怖くてもその想いを受け止めるのは加害者の役目なので、ビクビクしながらそう答えると、アゼリアちゃんはニタリッと凶悪な笑みを見せる。


それにヒェッ!!と心の中で悲鳴を上げ汗を大量に掻いてしまったが、二人はそんな俺の心中には気づかず、その場を去っていった。


そしてその場に残ったのは俺とレオンのみ。


俺に頭を撫でられ、くったりしているレオンを見ながら、これから何処に行こうか……と改めて頭を悩ました。





” ーーーだって……私は ” 面倒 ” だから……そんな私と仲良くしたい人なんていないでしょ?


それに……わたしもきっといつか両親の様に…… 







……………………人を捨てるようになるから。 ”


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