上 下
282 / 1,315
第六章

267 レオンはブレない、決して

しおりを挟む
( リーフ )


英雄 < レオンハルト >

その実力が果たして今の時点でどのくらいのものか……それは今いる狭い世界の中で俺といるだけでは全く分からない。

この戦いでその実力の程を少しでも測れるかもしれないと、俺は期待する。


これから俺という悪役をバサッ!と倒し、広い世界へ飛び出していくレオンには、強さが絶対に必要。

待ち受ける沢山の困難や試練を乗り越えるだけの力が。


現在のレオンの実力は世界的に見てどれくらいなんだろう?


レオンを殺さんばかりの目で睨みつけているジュワンをチラッと見た後、レオンへ視線を戻すと、目が合ったレオンは幸せで幸せで堪らないと言わんばかりの笑顔を見せた。


まるでこの世界には、俺とレオンしか存在していないような……。


そんな錯覚を抱かせるような笑みに俺は──────…………



つかまり立ちから恐怖で一歩も外に出たがらない孤児院の子供を思い出す。


ぷるぷる……

ガクガク……

イヤイヤ!歩きたくないの~怖いの~。


うるうるした目で見ても駄目~。

その時は容赦なく、無理やり掴まり立ち用の柵を撤去し庭に強制連行したなぁ……。


ほのぼのと思い出しながら、ヨチヨチ歩きのレオンの両手を柵から引き剥がし、無理やり引っ張る自分の姿を想像していると、そんな太々しいレオンの様子に気づいたジュワンが大変ご立腹なご様子で彼に絡みだした。



「 おやおや、てっきり怖気づいて逃げようとしていると思いましたよ~。

まぁ、本当は逃げ出したいんでしょうけど。


でも出来ないんですよね~?奴隷だから。


奴隷って人間じゃないですからぁ~ご主人様が死ねって言ったら死なないといけないんですもんね?

存在全てがご主人様の物って一体どんな気持ちなんですかね~。

私なら自害し~ま~す~け~ど~。 」


盛大に煽ってプッと吹き出すジュワンだったが、笑われた当の本人は心底不思議そうな顔をする。


「 逃げる?何故???


俺の存在全てがリーフ様の物なのは当たり前のことだろう?

この世界の全ての物はリーフ様のために存在しているのだから。


慈悲深く聡明、他の髄を許さぬほどの美しさを持つリーフ様に望まれて死ぬことは、至上の喜び。


それは誰もが知っている事だ。 」



何それ、俺知らない。


レオンの言葉に俺は固まった。

そしてジュワンも、両隣にいるレイドもサイモンも、フラン学院長も他の受験生と教員達も全員が俺同様固まる。


『 狂いし神 』

その名に相応しい錯乱っぷりに俺は目元をグニグニと揉み込む。


こんな病的な社畜っぷり、本当に治る??

もう俺一人でどうにかなるレベルじゃな~い。


俺は固まっている周りの受験生達を見渡し、それにはやっぱり人との触れ合いが必須だから試験には死んでも受かってもらいたい!────と強く思い、悪役リーフという役をしっかり演じるため偉そうに腕を組んだ。


「 はーはっはっは!!!よく言ったぞ!

忠実なる奴隷のレオンよ──!!!

さぁ、そんな無礼な奴はとっとと倒して次に行こう~次、次! 」


そうそう、輝かしい未来へ。

モルトとニールの、とりあえず……と言った感じの控えめな拍手だけが響く中、レオンは俺に「 はい。 」といつも通りの調子で返事をする。


すると我に返ったジュワンが鼻で笑いながら、「 リーフ様に奴隷を扱う才能があったとは驚きでしたよ。 」と言ったが、俺も本当にそう思う。


まさかこの平凡なおじさんにそんな隠れた才能があったとは……

人生って何が起こるか分からない。


しみじみそう思いながら頷いていると、それを退屈していると思ったらしいレオンが青ざめたまま固まっているフラン学院長へ視線を向けた。


「 おい、リーフ様がお待ちだ、さっさと始めろ。 」


「 ─────────っ!!!? 」


フラン学院長はビクッー!!と肩を揺らした後、眉を中央に寄せながら右手を挙げて試合開始の合図の準備をする。


「 も、もう私は知らぬぞ!忠告はしたからな。

まぁ、負けることも世を知る良い経験となることだろう。


────────では、両者構えよ。 」


その合図にジュワンは木刀を持ったまま構えたが、レオンは木刀をただ持ったままダランと力なく立っているだけ。

それに、ブチブチッーーー!!!とこめかみの血管が切れるジュワン。

多分もう切れるところがないくらい切れてしまっていて、かなりお怒りなのが良く分かる。


「 それでは────────始めっ!!! 」


フランさんはそう言いながら上に挙げた手を下に勢いよく下ろした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女召喚!……って俺、男〜しかも兵士なんだけど?

バナナ男さん
BL
主人公の現在暮らす世界は化け物に蹂躙された地獄の様な世界であった。 嘘か誠かむかしむかしのお話、世界中を黒い雲が覆い赤い雨が降って生物を化け物に変えたのだとか。 そんな世界で兵士として暮らす大樹は突然見知らぬ場所に召喚され「 世界を救って下さい、聖女様 」と言われるが、俺男〜しかも兵士なんだけど?? 異世界の王子様( 最初結構なクズ、後に溺愛、執着 )✕ 強化された平凡兵士( ノンケ、チート ) 途中少々無理やり的な表現ありなので注意して下さいませm(。≧Д≦。)m 名前はどうか気にしないで下さい・・

勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話

バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん< 山野 石郎 >改め【 イシ 】 世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中・・俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない< 覗く >という能力だけ。 これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。 無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。 不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜

7ズ
BL
 異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。  攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。  そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。  しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。  彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。  どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。  ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。  異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。  果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──? ーーーーーーーーーーーー 狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛  

【 完結 】お嫁取りに行ったのにキラキラ幼馴染にお嫁に取られちゃった俺のお話

バナナ男さん
BL
剣や魔法、モンスターが存在する《 女神様の箱庭 》と呼ばれる世界の中、主人公の< チリル >は、最弱と呼べる男だった。  そんな力なき者には厳しいこの世界では【 嫁取り 】という儀式がある。 そこで男たちはお嫁さんを貰う事ができるのだが……その儀式は非常に過酷なモノ。死人だって出ることもある。 しかし、どうしてもお嫁が欲しいチリルは参加を決めるが、同時にキラキラ幼馴染も参加して……?    完全無欠の美形幼馴染 ✕ 最弱主人公   世界観が独特で、男性にかなり厳しい世界、一夫多妻、卵で人類が産まれるなどなどのぶっ飛び設定がありますのでご注意してくださいm(__)m

奴隷商人は紛れ込んだ皇太子に溺愛される。

拍羅
BL
転生したら奴隷商人?!いや、いやそんなことしたらダメでしょ 親の跡を継いで奴隷商人にはなったけど、両親のような残虐な行いはしません!俺は皆んなが行きたい家族の元へと送り出します。 え、新しく来た彼が全く理想の家族像を教えてくれないんだけど…。ちょっと、待ってその貴族の格好した人たち誰でしょうか ※独自の世界線

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

処理中です...