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第五章

223 呪われた身体

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☆ 引き続き少々注意ですm(_ _;)m


( レオン )

そして今、俺はリーフ様と隣り合って身体を洗っている。


・・コシコシ

わしゃわしゃ・・コシコシ・・


わけもわからないままリーフ様の動きを真似ているが、これで本当にあっているか分からない。


「 よ~しよし!レオンはお風呂上手だね~。

偉い偉い。凄い凄~い。 」


上手・・


その言葉にホッとしながら体を洗うリーフ様の方をチラッチラッと見つめていると、そろそろ全身を洗い終えそうな所まできていて、内心ヒヤヒヤしていた。


これはいつ触ったり舐めたりするんだろう・・?


そう考えながらそのタイミングを逃すまいとチラチラとリーフ様に視線を贈っているとーーー

「 背中洗ってあげるよ~ 」

突然リーフ様がそう言ってきたためビクビクッと身体が揺れる。


来た!きっとこのタイミングだ!!


カッ!と目を開き、俺は覚悟を決めリーフ様に向かって背中をおずおずと向けた。

するとゴシゴシと背中を泡立てたタオルで優しく擦られる。


” 気持ちいい ” ・・・


不思議な事にこれは先程とはまた違った気持ち良さがあり、ゆったりと穏やかな気持ちを俺の心に優しく運んでくれた。

こんな風に他者に素肌に触れて貰ったのは初めてで、触れて貰った場所は温かく、背中を伝わって心までポカポカと温めてくれる様だ。


あぁ、幸せだな・・・ーーそう感じた。


リーフ様は、俺自身分かっていない本当に心から欲しいものを全て与えてくれる。

しかも与えようとしてではなくごく自然に、何でもないかのようにだ。


リーフ様はいい意味で何も考えていなくて、人に何かを与える時に感じる何かが1つもないから・・貰った方は素直に心から喜べる。

リーフ様の言動、行動、その全てに惹きつけられて俺の全ての五感はそこから離れることができない。


こんな呪われた身体にも平然と触れ、沢山の ” 幸せ ” を溢れんばかりにくれる・・こんな人からどうやったら離れられるのだろう?


その温かい背中と心の気持ちよさにうっとりと身を委ねていると、突如リーフ様がう~んと悩むような唸り声を上げた。



「 ねぇーねぇー前から思ってたんだけどさー。

レオンの左側に書いてある文字って何語なんだろうね?

そんで何が書いてあるんだろう?

これだけビッシリ書くって事は、相当忘れたくない事でも書いてあるんじゃないかなって思うんだよね。 」



俺の半身に絡みつくように書かれた文字


これは ” 人 ” の言葉ではない。


そもそも文字、言葉という概念を持たないコレからは、遠く遠く、まるで俺から隠れるように遠く離れた場所に在る ” モノ ” の気配だけが濃厚に漂っている。


” 人 ” を媒体に使い魂に刻み込んだ呪い


そこから感じるのは媒体からの世界を憎む強い感情と、奥底に隠された・・





【  恐怖  】



      
      




      ・・
ーーーあぁ、お前も俺が怖いんだな




俺は自身の腕に書かれた文字らしき者たちを見下ろし、ふぅ・・と短く息を吐く。

こんなモノの意味に興味はないし、まぁ分かったところでこの ” 世 ” の全てを呪う呪詛のようなものか、俺への恐怖が永遠と書かれているだけなので知る必要性すら感じられない。

わざわざそんなものを確認しても、魂に呪いを掛けられるほど激しく憎まれ、恐れられている俺という存在を再確認させられるだけだ。

遠く離れた場所にいる "  モノ "  を睨みつけ、その存在を遠ざけると、突然背後にいるリーフ様が口を開く。


「 う~ん・・ " 我、ここに示す、本日の朝食はパンなり "    ーーとか? 」


ジッと背中の方に書かれている文字を見つめる気配と共にリーフ様の口から飛び出た言葉。

それに伴って離れたところから細い方、太い方の笑い声まで聞こえてきた。


あっという間に消え去ってしまった薄暗くて重い空気と、そしてその言葉1つで俺の心まで酷く温かい気持ちで満たされてしまった事に驚かされる。


誰がどう見たって ” 世 ” の全てを呪う呪詛のような言葉でも、リーフ様が見ればただの朝ごはんになってしまうらしい。


それはなんて優しい世界なんだろう


心からそう思った。


リーフ様を介して見なければココはこんなにも残酷で絶望に満ち溢れている世界なのに本当に不思議な事だ。


思わず眩しさに耐えるような表情をしていると、リーフ様は「 俺も~ 」と言って俺の前に回り込みその背中を向けてくる。


その小さいのに大きく見える背中をぼんやりと見つめていると、「 レオーン?? 」と声を掛けられ、はっと我に返り直ぐにその背中を洗い始めた。


「 リーフ様はまるでお日様の様ですね。

暖かくて・・とても幸せな気持ちになります。 」


背中を洗いながら、そんな嘘偽りない言葉を述べると、リーフ様はお礼を言ってきたが、お礼を言いたいのは俺の方。

リーフ様は俺の世界を照らす太陽のような存在で、その存在がなければそこは何一つ見えない黒の世界だ。


何も見えない、自分の形も分からない、だから何も生まれることはない。


そんな黒の世界と同化していた自分を眩しい程の圧倒的な光で照らし、俺という存在を生み出してくれたリーフ様。

それに感謝してそんな彼を崇拝するように見つめていた自分。


ーーーしかし・・




ーージワリ・・


ーーージワリ・・・




俺の世界の黒は、リーフ様が違う世界を照らす度、また俺の世界を飲み込もうとしてくる。


「 ・・本当は分かっているんです。

俺みたいなのがリーフ様に触れたら・・・汚してしまうって・・・ 」


俺が擦る度白い泡で覆われていくリーフ様の体を見ていると、突如それは黒いドロドロしたものへと変化し、どんどんどんどんその清らかな体に纏わりついては穢していった。


本当は俺なんかが近寄ることすら許されないお方なのに、一度手が届いてしまえば・・もう離すことができない。

圧倒的な光を放ちながら、前だけを見て先へ進もうと歩き出すリーフ様と、大きすぎるほどの深い黒を背負いその背中しか見えない自分。

追いかけても追いかけても、追いつくことはできずその背中はどんどん小さくなっていき、やがて光の中に消えていくリーフ様を黒の中で俺は見ている事しかできない。


それを考えると気が狂いそうなくらいの怒りと憎しみがこみ上げてどうすることもできなくなった。


俺はリーフ様が消えてしまった黒の世界でその光に向かって 

” 置いていかないで ” 


そう子供のように泣き叫ぶが、その声は虚しく黒の中に響くだけで・・?


・・・その時、俺はどうする?









きっとためらいもなく光を全て飲み込む。


” 圧倒的な光 ” それを遥かに上回る ” 黒 ” で



ピタリと背中を洗う手を止め、すっかり黒く穢れてしまったリーフ様を見ると、いつもより酷く近い距離にいるような気がして・・俺はゆっくりとその体に手を伸ばしていく。


そして光になおも向かおうとするリーフ様をそのまま黒の世界に無理やり引きずり込んで、もう二度とそこから出さない。

二人きりの楽園のような世界は、きっと黒をも幸せな世界にしてくれるに違いない。


ドロドロに溶け合って、もう二度と離れない様に1つになってしまおうか。


「 あのねレオン、俺そんなんで汚れないよ。

レオンは綺麗だしいい匂いだから大丈夫だよ。

そんな事より早くお風呂入ってみようよ!

” 酒の匂い風呂 ” は最後にとっておいて端から一緒に回ろう! 」


暗く暗く沈んでいた心は、リーフ様のそんな言葉で木っ端微塵に消え去り、俺の伸ばしかけていた手は力なく下へと落ちていった。


そして、あぁ、そうかーーーと唐突に思い知らされる。


どんなに黒がリーフ様を穢そうとしても、そんなことはできないのだ。

リーフ様の目に映る黒の世界はとても綺麗なものだから。


そんな綺麗なものがどんなにリーフ様に絡みついたところできっと「 綺麗だね。 」の一言で全て消されてしまう。


それどころかリーフ様にとって、俺の気鬱など全て

 ” そんなもの ” 

更にお風呂のほうが遥かに大事とまで言われてしまう始末なのだから笑うしかない。

気がつくと口元は上へと上がっていて、俺は今 "  楽しい  "  と思った。

しかし同時にじわっと "  悲しい  "  気持ちもそれにくっついてくる。


俺がどんなに薄暗い気持ちになっても、不安定に揺れ動いて歩みを止めても、リーフ様は何一つ揺るがず前に進み続けるのか・・


目の前にあるはずの背中がまたどんどん小さくなっていくのを俺はボンヤリと見つめた。


その歩みを俺は止めることができない・・・


では、傍にいるためには・・?
   


    ・・・
俺はどう在ればいい?



「 楽しみ~ 」


今はまだ手が届く場所にいるリーフ様がニコニコと笑う顔を見て、俺も同じ様に笑う。


” 俺もあなたといると毎日楽しい ”  


そんな意味を込めて「 はい。 」と返事を返し、泣きたい気持ちを笑顔で隠した。



「 さぁ行こう! 」


そして意気揚々と全裸でお風呂に向かおうとするリーフ様を見てーーーー俺はソッとその体にタオルを巻き付けた。


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