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第五章

189 ウォッカ到着

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( リーフ )

そうしてまだちょっと夕飯には早い時間の頃、やっとこさ目的の街、< ウォッカ >に到着し、俺たちは馬車から降りてジンさん達に改めて御礼を告げる。


「 ジンさん達のお陰で安全にここまで来れたよ。本当にありがとう。 」


ここでジンさんたちとはお別れ。

深々と俺、モルト、ニールの三人と御者さんは頭を下げると、逆に頭を下げられお礼を言われてしまった。


「 とんでもない!お礼を言うのはこちらの方ですよ!

この恩は忘れません。本当にありがとうございました。

この街でなにか困った事がありましたら、冒険者ギルドで俺たちを呼んでくださいね。

 
【 春の三毛猫 】 というパーティー名で活動していますので。


あ、” ファイナル福人祭り ” に参加するなら街の中央広場で受付をしていると思いますので、まずはそちらへ行ってみてください。


ーーーー・・・あと・・・  」


ジンさんはすっと俺達の方へ少し顔を近づけ小声で言った。


「 実は指名手配の盗賊一味が最近この街で目撃されたそうなので、出歩く時は十分注意してくださいね。 」


なるほど、だからジンさんたちにパトロールの依頼が入ったのか・・

そう納得しながら、大きく頷いた。


「 うん。分かった!気をつけるよ 」


ついでにドンッ!と胸を叩くと、ジンさん達はニコッと笑い、ポッポ鳥を引きながらその場を後にしようとしたのだが・・・

やはりあのジンさんを乗せているポッポ鳥がゴネついて動かない。

それに一同汗を垂らしたが、レオンのーーー

「 早く行け。 」

その一言でやっと諦めて、そのまますごすごと去っていったのだった。



ふぅ・・とため息をつきながらやっとこさ着いた街、ウォッカを入口付近で見回し、その初感想といえばーーー

一言でいえば街中飲み屋通り!


ネオン・・ではないが魔道具の色とりどりの明かりが至るところで灯り、自然と楽しい気分にさせてくれるような、まさにザ・娯楽施設みたいな雰囲気が漂っている。


しかも今日はお祭りということもあり、人々のテンションの高い声がそれに拍車をかけている様だ。



すんっごい楽しそーーー!!!



そこら中で打ち上げられる小さな花爆弾。

お酒を飲み合ってカンパーイと叫ぶ人達。

ギターなどの楽器で演奏しながら歌って踊る人々に、街の入り口からずらりと並ぶ出店では商人さん達が声を張り上げて商品を売り込んでいる姿が色んな所で見られる。


「 これは凄いですね。レガーノのイシュル神祭に負けず劣らず・・ 」


「 お酒も流石は名産物というだけあって上質なものみたいっすね。 」


チラチラと周囲を見回すモルト、空気中に漂うお酒の匂いを嗅ぐニール、そしていつもどおり無表情、無感情のレオン。


確かにレガーノのお祭りも凄いと思ったけど、ここも負けず劣らずーー!


まぁ、こちらのほうが多少羽目を外している感が強いが、とにかく楽しそうな事には間違いない。


目をキラキラさせて、弾むような気持ちでその景色をみていると、突然馬車の御者さんが俺たちに話しかけてきた。

「 このまま泊まる予定の宿に行って部屋に荷物を下ろしておきますので、どうぞお楽しみ下さ~い。 」


そう申し出てくれた御者さんにお礼を言い、走りゆく馬車に手を振った後、あっちにフラフラこっちにフラフラ。

出店を見て回りながら、俺たちは中央広場を目指す。


モルトとニールは、明日試験なのに・・・とブチブチ言いながらも目はキランキランと輝き、モルトは様々な花の刺繍が施されたハンカチ屋さんで、ニールはチーズの燻製専門屋の前で大興奮していた。


俺はそれを微笑ましく眺めながら、道中売っている珍しい食べ物を買っては食べ、レオンに食べさせ、買っては食べ、レオンに食べさせてをしている内にレオンの機嫌も急上昇。

喜ぶレオンに俺も嬉しいとニコニコしながら続け、すっかりお腹が膨れる頃にはやっと中央広場に到着した。


広さ的には観客席も入れた野球球場くらい

そんな広い広場の中に所狭しと沢山の人達がいて、かなり盛り上がっている様だ。

「 受付ってどこにあるんだろうね?広くて見つかるかな? 」

じっーーー・・と周りをジロジロと見渡すと、広場の中央にはイシュル神像がドドーンと立った大きな噴水があるのが遠目で見えて、そこに人が集中して集まっているのを確認した。

もしやあそこにもしや受付が?

そう予想した俺は一番背が高いレオンに話しかけた。

「 何か見える? 」

そう尋ねるとレオンはニコッと爽やかに笑い、俺の脇に手を差し込みそのままグイ~っと俺を上に持ち上げる。

急に高くなった視界にこれ幸いと手をおでこにつけ、じーっとその場所を眺めると、やはりあった、大会の受付所らしきモノ!


「 モルト~ニール~ 」


俺は直ぐに、買ったハンカチと燻製チーズの塊をルーペみたいな道具で確認している2人を呼びつけ、早速4人でその場所に向かった。


そこら辺一帯で一番混雑していたのは、噴水横にある大きなボードの前。


一体何が書いてあるんだろう??


そう疑問に思った俺が、またレオンに持ち上げてもらいそのボードをジーーっと見つめると、どうやらそこには、エントリーした人の名前や、優勝候補者の名前・・

それがランキング式に書かれているようで、そこの前に立つお兄さんに集まった人達は次々とお金を渡してはなんかのカードを貰っているのが見える。


賭博的なヤツかな~?


ほほ~う!と駄菓子屋にあったスーパーボールのくじに奮闘した日々を懐かしく思い出し、ご機嫌に。

そんな浮ついた心のまま、既に空き始めている受付らしき場所に四人で揃って顔を出すと、そこに座っている人物がだいぶ印象的過ぎて、そんな思い出は一瞬で遥か彼方へ吹き飛んだ。

ザ・ピンクの派手な縁メガネ

ちょっと見方によってはまずいものに見えてしまう茶色のソフトクリームのような髪型


多分歳は40代くらいのお兄さん・・いやおじさん


一瞬その髪を一斉に見つめてしまった俺、モルト、ニールに向かって、そのおじさんは「 よっ! 」と気さくに話しかけてきた。



「 坊っちゃん達、街の外の人間だね!

だったら思い出作りに大会にでてみることをお勧めするぜ!

参加賞もでるからよ。 」


そういってそのお兄さんは箱にごっそりはいった、海ネズミ、森ネズミ、山ネズミ、そして砂ネズミとシリーズ化しているであろうおもちゃを見せてくれた。


ちなみにこの世界にいるネズミは住んでいる場所により名称と身体の特徴が違い、海ネズミは青色、森ネズミは緑色、山ネズミは灰色とその体毛の色が違う。


砂ネズミは言わずもがな、茶色の毛に緑の瞳と、この国の平民にとても多い特徴をもっている。


「 勿論優勝者にはめちゃくちゃ豪華な景品がでるから、どの大会にでるか迷った時はその景品をみて決めるのもありだ。

今あっちで展示されてっから、良かったら先に見てきなよ。 」


おじさんは賭けの看板と逆方面、簡易式の大きなテントの様なものがある場所を指さした。


俺たちはお礼を言い、そこへ向って見る事にしたのだが、入り口に立つのは屈強そうな男女の警備員みたいな人達で、意外に物々しいその雰囲気に少々気圧される。


おそらくは商品の警護をしていると思われるが、一体どんなお宝が・・?

ワクワクしながら、その人達にペコリと軽く頭を下げ中に入ると、そこには種目別に貰える優勝賞品たちがガラスケースのようなものに入れられズラリと並んでいた。


さすがは豪華というだけあって素人目にもかなりの良い商品たちの様!


凄いな~と思いながら先に進んでいると、そこまで興味なく歩いていたモルトの足が不意にピタリと止まる。

それに ” おやっ?? ” と思った俺も足を止め、モルトの顔を見るとーーーうっとりとした顔である一点を凝視しているのに気づいた。


「 ・・・・? 」


ニールと顔を見合わせ首を傾げた後、その視線の先を追っていくと、そこにはバラの絵が入った白く輝くティーカップセットが。

更にその前に置かれている白いプレートには< おもてなし大会 >と文字が書かれていた。


「 モルト、これ欲しいの? }


「 ーーーー!!!はっ!申し訳ありません!ぼんやりしてしまって・・

これ、実はですねーあの職人の夢の街【 ガンドレイド王国 】産のティーカップセットなんです!

こんなところでお目にかかれるとは・・!!

絶対欲しいので俺はこれに出ます。そして優勝します!! 」


ブワァァーー!!!と燃え上がるモルトに俺は「 良かったね~。 」と告げ、ニールとレオンを連れて先に進む。


ニールは今の所めぼしいものはない様子で、後頭部で手を組みながら、はぁ~と息を吐きだした。


「 モルトは昔からああゆう綺麗で美し~いものが好きなんスよね~。

全く、さっきまでこんな大会に興味なんてないだの、貴族たるものこんな俗ものは~なんて言ってたくせに・・

ほらっ、見てくださいよ、あれ。 」


そう言ってニールはモルトのいる方向を親指でクイッと指差す。

指し示された指の向こうにいるモルトはその場に座り込み両手を顎にあて、うっとり~と溶けそうな顔つきでティーカップを見つめていた。


そんなモルトをみてニールはヤレヤレと呆れたような顔つきで首を横に振る。


「 あんな状態じゃ貴族の ” き ” の字もありゃーしないっすよ。

やっぱり貴族たるものそれにふさわしい自制心というものを・・・ 」


そう語っている途中でモルトの足はピタリと止まった。

その目は一点を凝視し ” 親御さんでも殺されちゃったの? ” と問いたくなる様なくらい鬼気迫る雰囲気まで漂わせている。


「 ・・・・・。 」


その視線の先をゆっくり追えば、そこには何やらやたらカラフルなきのこが小さなカゴの中にこれでもかと詰められてあり、その前に置かれた白いプレートにはーーー

< 食通王大会 >

ーーと書かれていた。



「 ・・ニール、これ欲しいの? 」


「 ーーーはっ!!も、申し訳ありません!!

つい、ぼんやりしてしまって!

実はこれ、天然素材の天国とされる、あの【 ジェンス王国 】産の< 熟王マッシュ >っていうすんごっいキノコなんすよ!!

これがあればチーズやヨーグルトを何倍も美味しくすることができるっす!

出ます!!俺、この大会絶対に出ますから!! 」



両手で頬を押さえ、うっとり~としてしまったニールに「 良かったね~ 」とだけ伝え、、前に進むのはとうとう俺とレオンのみ。


商品をチラチラと見ながら俺はレオンに話しかける。

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