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第四章
175 終わりへのプロローグ
しおりを挟む( ドノバン )
叫び声を上げながら闇の中に消えていった男は、これから自身の ” 世界 ” に則ってそれにふさわしい終着点へと向かうだろう。
それに対し同情も祝福もしない
自分で選んだ道だ。
それをするのは野暮ってもんだろう。
俺の脳裏には穏やかに微笑む美しい女が思い浮かぶ。
” 世界中の苦しんでいる人達を救いたいの ”
総微笑みながらそんな夢を語る彼女はこの世のものとは思えぬほど美しい
ーーーだが、その後についてくるイメージによりそんなお綺麗なイメージは吹き飛び、俺はブルルッと思わず震えた。
「 クレアねぇ・・。俺、あいつ怖い。
狂人なんだもん。 」
クレアはドノバンとカルパスと同級生で、なんだかんだとつるむことが多かった。
彼女はまるで天使のような可憐で美しい容姿をしていて、それでいて積極的に貧しき人々への救済活動にも力を入れていたため、周りからは『 慈愛の天使 』と言われていた。
そんなクレアと俺たちの三人でいれば、もしかして俺とカルパスがクレアを取り合っているのでは?と邪推されるほどだったーーーー
ーーーが!ないない。クレアだけはぜ~~~ったいっにないっ!!!!
そう断言できるほど彼女は突き抜けた異常性を持っていた。
本人曰く物心ついた時から己の中に眠る加虐嗜好とそれに伴う性的趣向があったそうで、人の死というものに大層興味が合ったそうだが、同時に慈悲深い思考と強い正義感を持っていた彼女は、自身の持つ資質 < 学医士 >の特化している能力、怪我、病気、欠損などの治療についての知識を貪欲に吸収していった。
そしてその過程のなか気づいたのだそうだ。
あぁ、世の中にはこんなにも ” 使い切らずに ” 捨てられるものがあるのかーーと
そしてクレアは死刑が確定している死刑囚や悪という存在を片っ端から ” 使う ” 事を覚える。
するとどうだろう
彼女の両極端ともいえる思想は全て満たされてしまったのだ。
彼女の慈悲の対象は善者のみ、加虐嗜好は悪に対してのみ
ニコニコと天使の様な笑顔で彼女は善者を救うため・・・
悪を ” 使う ”
” 苦しんでいる人々を救いたい。 ”
そう口癖の囁かれる言葉を聞く度、俺は『 愛の実験場 』とやらを思い出し背筋が凍る。
クレアはそうして日々医術の進歩に今日も貢献し続けている。
人を苦しめ蹂躙することしかできなかった奴らが人を救う糧となって死ぬなどこれほど皮肉な終わり方は他にないと俺は思う。
ひえっ・・と小さく叫び二の腕を大げさに擦ると、にっこり笑ったカルパスが俺に話しかけてきた。
「 そういえばドノバン?先ほどアントンになんていったのだ?
よかったら後でお茶でも飲みながらゆっくり話を聞こうではないか。 」
笑顔とは裏腹に物騒な雰囲気を醸し出すカルパスに慌てて首をブンブン横に振りながらそれを拒否すると、俺はふっと思った。
あ、俺の周り、こんな奴らしかいねぇ
そんな俺を見てやはりニコニコと笑顔を見せるカルパスだったが、急にフッと真面目な表情に戻り胸元から懐中時計を取り出しそれを見下ろす。
「 ふむ、冗談はこれくらいにしてそろそろ向かわねばな。
では、後は頼んだぞ。 」
「「「 了解しました 」」」
三人の良い返事とともに俺はへいへ~いと軽く返事を返すとカルパスは完璧とも言える笑顔を顔に貼り付け、” ある場所 ” に向かうため夜の森へと消えていった。
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