天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します

第四章

１７４ 終点

（　ザィール　）


「　そ・・そんな・・ばか・・な・・」



手足は強い衝撃を受けあり得ない方向へ捻じ曲がっており、一切動かすことができない。


激痛に呻いていると、自身が飛ばされて来た場所からドノバンのゆっくり歩いてくる足音が聞こえる。


こ、殺される！！！




「　ひ・・ひぃ・・、い、いやだ・・殺さないでくれ・・た、たのむ・・！！　」




肋骨も折れてしまった様で痛みを我慢し腹の底から声を張り上げると、ドノバンは俺の前でピタリと止まりそんな俺をじっと見下ろした。


その顔には特になんの感情も浮かんでおらず思わずゾッとする。



「　わりぃがそれは無理だ。

相手を殺す選択をした奴は自分も殺される覚悟をしなきゃいけねぇ。

それが人の道理ってもんだろう。　」




「　そっそんな・・、た・・助けてください・・なんでも・・しますから！！　」




必死の懇願もドノバンには全く届かない様で、奴はふぅとため息だけついて大剣を振り上げた。



もうダメだ！！！とガクガク震えながら目を瞑った、その時ーーー






「　ドノバン、お座り　」





ピタリと止まったドノバンの気配。


そろりと目を開けるとドノバンの心底嫌そうな顰めっ面と、その後ろにはこの屋敷の執事がいつの間にか立っている事に気づいた。



どうやらこの執事がドノバンを止めた様だ。




「　いや、なんだよ、お座りって！

俺は犬か何かか？！　」



「　勘違いするな。犬の方が遥かに上だ。

全く、これだから騎士という生き物は・・

勝負だの何だので熱くなるし、相手は斬り殺して終わりだからな。

アントン、貴殿もだ。　」




執事の男がそう言い終わると、奥の茂みから罰の悪そうな顔をした厳つい男がソロ～と姿を見せ、さらにその後ろからはヒョロリとした優男もそれに合わせて出て来た。



「　いやぁ、すまねぇです。

加減が難しくて・・。

次から上手くやりますんで勘弁してくだせぇ。　」



「　全く・・、貴殿とそこの犬以下は本当に野蛮すぎる。

もっと理性的で合理的に相手をしなければならないぞ。

この私の様にな。　」



ビシッと自身の胸を親指で指す執事の男。


ドノバンはそれを渋い顔で聞き、厳つい男にソロソロと近づく。



「　Aランクモンスターを素手でボコボコにする奴に言われたくねぇよなー　」


「　ぷっ・・そうですね　」


などと2人で内緒話をしながら密かに笑いあっていると、その背後から現れた人物に腰あたりを2人揃って殴られ、同時に仰け反った。


「　おい、父上の悪口を言うな。」



あいつは守衛の女！！ーーということは、ボブはあの女に負けたって事か？！


汗をドバッと掻き、一体俺はどうなるんだと戦々恐々としていると執事の男が言った。



「　そこに転がってる彼ともう1人のやたらでかい男はクレアのところに引き渡す。

アントンはそこの男に回復薬を飲ませ明日の朝まで倉庫に転がしといてくれ。　」




「　へぃ。　」


アントンと呼ばれる男が俺の方へ近づいてくる。


「　た・・助けてくれるの・・か？あ、ありがてぇ・・　」



確かこの執事はお優しいイシュル教の熱心な信者だったはず。



恐らくはどんな悪人であろうと人の命を奪う事に抵抗があるに違いない、と俺は心の中でニヤッと笑った。


こいつらがここに集合しているという事は仲間達は全員倒され恐らくこの屋敷の何処かに捕まっているとみて間違いないだろう。



ならばここは一旦大人しく捕まり隙を見て全員で脱出しーーー


今度こそ入念な計画を立ててこの家の奴らを全員ぶっ殺してやる！！！


せいぜい今のうちだけ勝利に酔いしれてろクソ野郎どもーーと怒り、憎しみをひた隠ししおらしい顔をしていると、ドノバンが青白い顔をしながら何とも言えない表情で俺を見ている事に気づいた。


一体その顔はなんだ？


「　やっぱよ、神様って本当にいるのかもな。

もう少し早く決着がついていたら楽に逝けたのによ。

これが神様の天罰ーーか。

まぁ、せいぜい少しでも楽にアッチに行けるよう祈る事だな。　」



「　・・？はっ？？・・一体・・どうゆう・・　」



俺が唯一動かせる目で周囲に視線を走らせると、執事の男とヒョロリとした優男はニコニコと笑い、他の奴らはドノバン同様の表情を浮かべ俺を見ている事に気づいた。


それに恐怖を感じゾッとしたのも束の間、厳つい男が俺の首襟を掴みそのままズルズルと何処かへひきづっていく。



それに俺は痛みも忘れてガタガタと震えながら必死に叫ぶ。



「　なぁ・・おいっ！！どうゆうことなんだよっ！！

俺は・・俺は一体これからっ・・どうなるんだよおぉぉぉーーーーーー！！！！！！　」



虚しく響く俺の声、それに答えるものは何一つ無くーー



俺の意識は周りの景色同様真っ黒に染まっていった。