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第四章

168 VS カルパス ( 後半 )

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( ランド )





背筋にゾワッと悪寒が走り、ありえない。ありえない、でもそれがもし本当だったら?


そんな思考がぐるぐると頭の中を周り混乱しながらもワーウルフをジッと見つめるとあることに気づいた。


アサシン・ワーウルフの毛並みは黒に近いダークグレー、しかし目の前のこいつの毛並みは闇夜に溶け込むような真っ黒な色をしている。


それに気づいた時、ドッ汗という汗が体中から吹き出し、顔はサァー・・と青ざめていった。


王政を築くアサシン・ウルフ、その王に君臨する個体は他のワーウルフより明らかに逸脱した強さを持つ存在で、モンスターランクは更に跳ね上がりAランク、国指定災害級と認定されている。




< アサシン・ワーウルフキング >


アサシン・ワーウルフの群れの頂点に立つAランクモンスター。

毛並みは黒く、普通の個体では使えぬ風魔法を駆使しつつ更に高い知能も使って複雑な攻撃を繰り出してくるため討伐は非常に困難。

一度暴れれば、街はひとたまりもない程の被害が出ることから国指定災害級モンスターに指定されている。





他の仲間たちもそれに気づいたようで私同様青ざめると、短い悲鳴をあげながらジリジリと後ろへ下がると、執事の男に向かって言った。



「 え・・Aランクモンスターなんて冗談じゃねえよ。

俺は・・俺はまだ死にたくねぇ!

なぁ、俺を見逃してくれねえか?

俺はただちょっと着いてきただけなんだよ、ほらっ!まだ何にもしてねえだろ? 」



「 なっ!!てめぇずりいぞ!!

なぁ、俺だってそうなんだ!このまま大人しく帰るからよ~、な?

見逃してくれ、頼むよ~ 」



仲間たちは口々に言い始め、へへへっと媚びた笑みを執事の男に向ける。

すると執事の男はふっと笑った。



「 そうですか。

確かに主犯格は3人、あなた方はそれに着いてきただけのようですね。


ーーーあぁ、話は変わりますが、私は熱心なイシュル教の信者でして・・・

 ” 人は平等であるべき ” という教えについて皆様どう思います?

私はとても素晴らしい教えであると思いますが・・ 」



確かこのカルパスという執事は、熱心なイシュル教信者であり、毎週の祈りと共に貧しい人々への支援も積極的に行っているとの情報があった。


つまりお優しい偽善者であり、どんなにひどい悪人であろうとも許しを乞う者をこいつは見捨てることができないはず。


非常に腹立たしいがここは一旦引いて、新たに仲間達を引き連れリベンジするしかない。


その時こそこの余裕ぶったおすまし顔をグチャグチャに潰してやる。




「 勿論!!すげぇ分かります~。

だからもう良いですよね?このまま大人しく帰るんで。

まだ俺たちなんにもしてないんだから、攻撃してくるのは ” 平等 ” じゃないだろ? 」


仲間の一人がそう言って、同意を求めるように私達に目線を向ける。


それに一同 ” そうだ、そうだ ” と囃し立て逃走する隙きを伺っていると、執事の男は先ほどと全く変わらぬ笑みを浮かべたまま言った。




「 共感して頂き嬉しいです。


そう言えばついこの間の出来事のようですが、人身販売に手を染めた商人の暗殺依頼を受けましたよね?

結果は見事依頼達成だったそうですが、ターゲットの側にいただけの攫われ捕らえられた一般人総勢30名を正当防衛の為、致し方なく始末したそうですが随分と激しく ” 遊び ” ながら戦ったようですね。

捕まっていただけの一般人が武器を持った傭兵相手に襲いかかってくる・・ねぇ? 」



ギクリと身体が跳ねそうになったが必死に平静を装う。

それをやはり表情一つ変えずに執事の男は続けて言った。



「 あなた方 ” レジェンド・ウルフ ” は何度もそういった ” 不則 ” の事態にあっているようで・・

一年前など、ひどい山火事に出くわしたそうですが、あれは本当に痛ましい事件でしたよね。

その中心にあった村はそれで全滅してしまったのだから・・





ーー・・楽しかったですか? 」





そう問われた瞬間背中に悪寒が走った。



こいつは全てを知っている。



それに気づいた私はガタガタと震える足に必死に力をいれて踏ん張っていたが、執事の穏やかに微笑む顔が酷く恐ろしいものに見えてその場に尻もちをついてしまった。




「 だから・・ね?

” 平等 ” にするには、今度はあなた達が他者を楽しませないといけませんよね?

ちょうどこの子のおもちゃが欲しかったところでして・・良いタイミングで来てくださって嬉しいです。 」



「「「「「 ひっ・・・ひぃぃぃーーーー!!!!! 」」」」」


へたり込んでしまった私を置いて、仲間たちは全員散り散りになって逃げ出していった。


執事の男はそれをゆっくりと見守り、腹を出したままのワーウルフキングに向かってまるで幼子に話しかけるように優しく言った。



「 さぁ、好きなだけ遊んでおいで。

じっくり、長く、沢山焦らしてから楽しむのですよ。

食べるのは教えた通り手足から、人は急所を外せば沢山遊べるから。 」



ワーウルフキングはワオンと嬉しそうに鳴き声を上げ、フッと消えてしまった。


この場に静寂が戻り、自身のドクンドクンという鼓動の音だけが響いている様に聞こえる。


私はハァハァと息を乱し、薄っすらと微笑む執事から目を逸らせず、死にたくない!!そう叫びたかったが恐怖に口を開け閉めすることしか出来ない。



私は ” 遊ぶ ” 方の立場のはずなのに!!



どこで間違った?

何が悪かった??



絶望に視界が黒くなっていくのを感じながらーーーふっとコレクション部屋にある沢山の大事なコレクション達を思い出し、暗くなる視界を強い精神力で吹き飛ばす。



スキルさえ・・スキルさえ発動できれば私の勝ち、ただし両手の指で作った円の中に対象を映し出さなければスキルは使う事が出来ないため、こんな出鱈目な身体能力を持っている奴相手にその姿を捉えるのは不可能、逆に私が隙だらけになって一撃でやられる!



「 さて、残りはあなただけですか。

たしかユニークスキル持ちの方ですよね。 」



そう言いながら執事の男は、胸のポケットから懐中時計を取り出しそれをジッと見つめると、フム・・と考え込む仕草を見せた。



「 そうですねぇ、あと10秒ほどで勝負がつきますので試しにそのスキル、私に撃ってみますか? 

どの程度のものか、確認しておいた方が良いでしょうから。 」



私は耳を疑った。


こんな大チャンスが降って湧いてくるとは・・やはり私の ” 正しき ” 世界は私を祝福してくれている!


奴は私のスキルを舐めてかかっている、それが奴の最大の敗因だ!


私は間髪入れずに両指で円を作り、スキル< 無限監獄 >を発動、するとうっすら赤く光る透明な結界がそのクソ執事をスッポリと包み込んだ。


これで奴はもうどうすることもできない!



私のーーー完全勝利だ!!




「 ぷっ・・あっはっはっーーー!!!

あなたは本当に間抜けですね!!

私の結界は一度捕まったら最後、絶対に内側から壊せません!!

調子に乗るからそうなるんですよ!

さぁ、このまま潰して差し上げます!! 」



魔力を込め指で作った円を徐々に縮めていけば、それに合わせて結界も縮んでいきもう執事の目と鼻の先だ。

しかし、閉じ込められている当人は余裕のある表情のまま繁々と目の前の結界を観察している様子であったため私は激しい怒りにカッ!となる。



「 おいっ!!いつまでそのお澄まし面してるつもりだ!!

その余裕そうな顔、ムカつくんだよっ!!!

弱者はとっとと命乞いしやがれっ!!涙と鼻汁垂れ流しのみっともねえ顔さらせや!!

それが弱者の義務だろうがっ!!! 」


「 3・・2・・ 」


私の言葉を無視しわけの分からぬカウントを始めた執事に、私はチッと舌打ちをし最大魔力を込め結界を一気に縮める準備をすると、大声で怒鳴り散らした。


「 もう良い、潰れろや!クソ執事!!! 」


ギュッと指の円を壊そうとした瞬間ーーー






「 ・・ゼロ 」






執事の静かな声が響くと、パリィィィーーンとガラスが砕けるような大きな音が鳴り、私の結界が破られた。




「 ・・はっ?? 」



呆然としながらそう言葉を発すると、それと同時に身体から力がガクンと抜け、私はそのままバターンと前に倒れ込む。


そしてクソ執事はそれをやはり涼しい顔のまま見下ろしていた。




< ランド VS カルパス >

カルパスの完全勝利

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